神樹騎士団 ③-2-2
永続お世話が確定していた事実を今更認識した俺氏。
色々と諦め、とりあえず現実から背けていた目を頑張って戻す努力をすることにする。
「お前はギン。お前はリキ」
『ギンの名、謹んでお受けいたします、ボス』
『今後とも宜しくお頼み申しあげやす、大親分』
銀色の毛並みのギンが部族の長。
赤色の毛並みのリキは引退した元族長らしく、今は相談役なのだとか。
聞けば彼らは魔犬になる前、この牙犬らは氷山の麓一帯を縄張りとして暮らしていた部族らしい。
まぁ現在は牙犬ではなくケルベロスになってしまったらしいが、見ただけなら絶対にケルベロスだとは思えない見かけをみんなしている。
どこからどう見ても巨大化した犬にしか見えない。毛がふわっふわの超でかいゴールデンレトリバーって感じ。
ぱっと見魔獣か。王家の馬車を引く八足白馬も魔獣だし、不死族ってバレなければ案外行けるのでは。許容範囲では?
いやバレるよ。簡易鑑定魔法で一発だよ。
――とはいえ、殺せないとなると隠して飼うしかないわけだが、大所帯過ぎて放し飼いは無理だな。目立ちすぎる。
ケルベロスは消えてろと言えばいい。霊化できるらしいから。
でもオルトロスはそうはいかない。霊化できないから。
神樹庭園に放し飼いにしたら烏女さんたち発狂する気がする。わかんないけど俺の印象では彼女ら割と神経質っぽいからなぁ。
じゃあ犬小屋でも作って閉じ込めておくか。
誰が作るんです?
はい自己解決。無理。
そもそも閉じ込めることなんかできるのか?
群れのボスのお父さんがオルトロス。あと年寄り重鎮? の皆さまとか、閑職に追いやれない感じの中核メンバーが軒並みオルトロス。メスもキッズもみんなオルトロス。
およそ二百頭のオルトロスこそこの群れのメイン。それを隔離するというのは運用としてあり得ない選択だ。
手元には置けない。とするならば。
「お前たち、生活拠点はあるのか? 今までどんな所に住んでいたのだ」
『へい大親分。あっしらは駒栗山の麓の洞窟で岩男とともに住んでやした』
元の家に帰せばいいじゃない、と思った俺の質問に答えたのは赤毛のオルトロス・リキだ。
「いわお? とは、なんだ? 種族名か? 人名か?」
『岩男は岩男でさぁ。あぁそうだ大親分。俺たちは大親分さえ許してくださるなら、あいつらにクマ公を討ち取ったことを伝えてやりてぇって思ってるんでやすが、いかがですかい?』
「ふむ。その様子だと、なかなかにお前たちと親しい間柄ということか。いいだろう。私からも挨拶くらいしておこうか」
『さっすが大親分! そうこなくっちゃ! おいギン! みんな立たせて大親分を案内しろ』
『親父勝手な……わかったよ。ボス、どうぞ俺の後をついてきてください』
「うむ。だが、その前に――」
俺は辺りを見回す。
周りには体長三メートル以上の巨大な熊があちこちに横倒しにされていた。
そのまわりにも熊の死骸がわんさかある。
看破の権能では相手のレベルを知ることはできない。
しかしこの犬どもと戦っていたあの熊は、パッと見た感じレベル五十オーバーに思えた。
少なくとも進化した今の犬どもより全然強かったように見えた。
いくら絶え間なく物量で押したとしても、抑え込むことはできるかもしれないが倒しきれる相手ではなかったはず。レベルという壁はその程度では乗り越えられない。覆しようのない実力差こそを、レベル差というのだ。
「――詰めの甘いお前たちの尻拭いをしておかなければな」
『……と、申されますと?』
『そりゃあいったい、どういう意味ですかい、大親分』
ギンは不思議そうな、リキは釈然としない思念を伝えてくる。
確かに目の前にあるのはどれもどう見ても死体。
しかし俺は熊に近づく。
その距離二メートル。
そこで
「ガアアアアアアアアアッ!!」
大きな咆哮とともに前方を薙ぎに来た熊の爪。
『なんだと?!』
『赤カブトの野郎! まだ――っ?!』
赤鍬と呼ばれた巨大な熊は目を見開く。
ギンもリキも戦闘姿勢を取るが咄嗟のことで動けない。いや、その場にいるすべての犬どもが動けずに硬直していた。恐らくは熊の咆哮の効果だ。
しかし。
「アアアア……ア?」
満を持しての必殺の一撃を発動させる前に、熊は息を詰まらせた。
――〈威気制圧III〉――
直後熊の身に圧し掛かる強烈な謎の力。
ターゲットした相手にペナルティを与える勇者の権能が、その場一面に効果を及ぼしたのだ。
「熊どもが使っていたのは擬死というスキルだ。不意打ちの成功度と命中率と威力が三倍になる厄介な技だが、俺相手ではレベル差がありすぎて不発に終わったな」
発動したのは実力差が開きすぎると即死効果が適用される〈威気制圧III〉。
レベル3は範囲効果なので俺をターゲットしていない相手にも恐慌や金縛りなどのとばっちり(デバフ)が振り撒かれてしまうが、俺はあえてソレを使用した。他にも擬死のスキルを使っていた熊がいたからだ。
当然犬らやジュンコにもフレンドリィファイアするが、俺をターゲットしていないので死ぬことは無い。チラ見すると犬らは身をすくませ、ジュンコは内股になり身をくねらせていた。
俺に敵対した熊どもは、この時をもってきっちり絶命した。
「お前たちの獲物だというのに、とどめを刺してしまいすまなかったな」
『いえ、そのような、そ、その――』
『すまねえ大親分! この不始末、どうかこの首で勘弁してくだせぇ!』
しどろもどろなギンの横で平伏し首を伸ばすリキ。
『親父! 待ってくれ! それなら俺も!』
『今回の仕切りは俺だ! てめぇの首は関係ねえ! それよりてめぇは俺の首を刎ねたら子分どもをきっちり締めておけ。おら、早くやれ! なにしてやがる!』
『そ、そんなわけにいくかよ親父! だったら俺も――』
「よい! ――双方控えよ」
俺の一喝でひれ伏す二頭。
そういう古典的物語は精霊図書館で読んで食傷気味なんだよ。
恐怖による恐慌状態のバッドステータス付与中なのによくできるなぁってちょっと感心はするけど、どうせ自害してもお前復活するだろ。やめろよ俺のMP削るの。新手の嫌がらせか。
「勝手な自害は許さん。リキよ、覚えておけ。お前たちは今失敗をしたが、失敗は成長の糧である。罪ではない」
俺は責任問題で自害しようとする犬の責任者たちにぴしゃりと釘を刺す。
「自責の念に苛まれ成長の機会を逃すなど愚か者のすることだ。私の言葉を聞き、お前たちがそれでもなお罪の念を覚えるというのなら、それは今後私への忠義と働きを持って贖うがいい。理解せよ。そして私の役に立て。わかったな?」
お前一頭が罪を背負うとか美談でもなんでもないから。切腹文化俺は反対です。
『……ははっ! この命に変えましても!』
『……大親分! この御恩このご慈悲、必ずやおれぁ、報いてみせやす!』
二頭の平伏に合わせて周りに控えていた犬すべてが同じ姿勢をとる。
すごくでかい犬らが感涙にむせび泣きアオーンアオーンと遠吠えを繰り返している。
ぱっと見怖い。ちょっとしたホラー感ある。
この一体感。犬らの結束が少しだけ固くなったような気がしないでもないけれど、俺の蚊帳の外感が凄い。
さっさと子蜘蛛に熊を食わせて岩男の所に行ってしまおう。




