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1 助けてくれたのは、〇〇でした。

一章につき、一度は入れるのを目標にしている言葉があります。

今回は早速入れられたので、ノルマ達成です。



「……神、……様?」


 恐らく、今の僕の表情はとんでもなく間抜けなものだったろう。けれど大神警視は笑うでもなく、大まじめにこくりと頷いた。


 警視の後ろに巨体を悠々と横たわらせている白い狼は、当然だと言いたげな顔をしている。すっかりと荒れた、神殿の遺跡だといわれても納得するような場所で、焚火に照らされオレンジ色に輝く毛並みはふかふかだ。狼の金色の瞳にも、深い知性が確かに感じられる。


 だけど。

 だからって。


 ええー……。……勘弁してくれ。

 いくら乙女ゲームの世界とはいえ、本当に「神様」なんてものがいるだなんて。

 ちょっと気が遠のきそうになったが、なんとかこらえる。この窮地に、気を失っている場合ではない。ただでさえ、僕をここまで運んで、服も乾かして、火もおこして、なんてことを上司にさせてしまったのだから。


「ええっと……。神様、が、なぜ……」

「佐藤くん、気を失う前のことは覚えているか?」

「いえ、あまり……」

「そうか。まあ、無理もない」


 酷い状況だったからな、と上司は言うが、女の子の身体に入ってしまった上司より先に気絶したのは僕としてはかなり落ち込むべきポイントである。体力不足なのだろうか。筋トレを少し増やした方がいいかもしれない。いや、子どもの身体にかかる負荷を考慮すべきではあるが、しかし……。


「ふぅん。本当に異界の魂が入りこんでいるのだな、お前達」

「えっ」


 僕と大神警視それぞれに視線をやって、狼が喋った。

 狼が! 喋った!


「解るのですか?」

「そりゃあ、いくら我が弱っているとはいえ、人の子の魂くらい見極められる。……まあ、冥府の神ほどの正確さはなかろうがな」


 ぱさりとしっぽをひとつ揺らして、真っ白な狼は言う。言葉はつまならさそうであるが、声色はどこか弾んでいるようであった。厳かな雰囲気は持ち前のものであるのだろう。ただ、妙に……なんというか、そう、機嫌が良さそうだ。


「ええっと……。警視、すみません。自分が気を失っている間に何が起こったのでしょうか……」

「ああ、そろそろ体力も限界だというときにこの方があらわれたんだが……」



 以下、警視から聞いた話のまとめである。


 僕が倒れるのを支えきれず、一緒に雪の中に倒れたとき、警視も体力の限界を感じていた。そのとき、吹雪の中姿をあらわしたのが、巨大な狼だ。

 はじめ、警視は野生の狼か、もしくは魔獣の類いだと思い警戒したという。それもそうだろう。目の前にこんな大きな狼があらわれたら、普通はそう思う。


 しかし大きな獣は、空を見上げ忌々しげに舌打ちをした。だんだんと、甲高い鳥の鳴き声が近づいてきていたのだ。


 ヒュルル。――ルル。


 それは、あの鳥型の魔獣の声だった。

 獲物が入っているはずの馬車が空であることに気付き、獲物をさがしにきたのかもしれない。前方と、上空と。両方を警戒しつつ、しかし下級魔法のひとつも出せるほどの体力は残っていなかった。


 どうやって逃げようか。警視がそれを考えていると、空を見上げていた狼が不機嫌そうに言葉を喋ったのである。


「あれらがこのあたりで狩りまでするとは、己の存在を軽く無視されているようで腹が立つ」


 続いたのは、嘆きの言葉。


「いくら力衰えようとも、邪な者を除くのが我が権能であるはずなのに。それほどまでに、己は弱くなってしまったのか。忌々しい不埒ものどもめ」


 鼻筋にシワを寄せ、どういうわけかひとの言葉を喋る狼は、魔獣に対し憤っているようだった。鳥の鳴き声は近づいてくる。狼もまた、こちらに顔を向けて一歩、一歩と近寄ってくる。


「そこな人の子よ。そうだ、お前達だ」

「……」

「捧げよ。我に供物を捧げよ。そうしたならば、この神域を荒らす邪なるものどもを、追い払い滅してくれように――」


 白い獣が、唸る。

 大神警視は、獣の言葉から、彼はあの魔獣とは対極の位置にいる者ではないか、と予想した。魔獣がいるのだ。それを除く種がいたっておかしくはない。

 しかし供物を捧げろと言われても、生憎何も持ってはいなかった。貴重品をはじめ、荷物のほとんどはブランカ城に置いてあり、手持ちの荷物などほとんどない。子どもであることを理由に、装飾品の類いも身につけていなかった。


「何を捧げればいい」

「……何でも。心から捧げるものならば」


 問えば答えが返ってくる。相手にこちらへの敵意はない。

 ならばこの状況では、提案に乗るしかないだろう。そう判断し、供物を捧げた。


 ……神に捧げる、歌を。


 何で歌かというと、警視が言うに、歌舞音曲の元を辿れば、神へ捧げる供物として始まっているから、らしい。確かに神社でよく神楽舞とか奉納舞とかやってるもんな。

 楽器があればよかったのだろうけど、手元にはなかったので、アカペラで思いついた歌を捧げたのだそうだ。


 それがプッチーニの「誰も寝てはならぬ」だったあたり、言いたいことはたくさんあるが、狼さんは大層気に入ってくれたそうなので……。

 うん……。

 それなら、いいのか……?

 まあ、気に入ったのなら、いいか。


 ともあれ、歌という供物を受けとった神様(自称)は、上空を旋回し、今にも襲いかからんとしていた鳥型魔獣に向かって……咆吼を上げた。それは衝撃波となり、魔鳥に直撃し、即死したという。

 その後、神様は僕と警視を背中に乗せて、この神殿まで連れてきてくれたのだそうだ。


「そ、それは……。危ないところをお助けいただき、ありがとうございます」

「うむ、苦しゅうない、楽にせよ」

「ははっ」


 命の恩人……恩神? の、前だ。かしこまって頭を下げれば、鷹揚な声が返ってくる。


「名をテユール様とおっしゃられる。古くからこの地においでで、破魔……魔獣や魔物といった災厄を討ち払う神として祀られていたそうだ」


 大神警視の説明も、テユール様に教えてもらったものだろう。なるほど、破魔の神様……。咆吼だけで魔鳥を斃したと聞いた時は信じられない思いであったが、元々そういう役目の神様であるというなら、納得……できるかな。


 それに、恐らく警視もわかっていて言っていると思うが――この神殿は、僕らが雪が溶けたら探そうと考えていたノルーン村の近くにあるという神殿だ。目的は甜菜……と、【堕ち神の宝珠】探し。思いがけずたどりついてしまったが、遺棄されたと思っていた神殿にまだ神様がいらっしゃるのなら、勝手に家捜しするわけにもいかないだろう。

 さて、これはどうしたものか。


 大神警視はどうするつもりだろうか。と、思いながら上司の様子を伺えば……。


 僕にこれまでの経緯やテユール様の説明をしながら、警視は……イーガル鳥という名の魔獣の肉を、木の棒を削って作った串に刺していっている。大きな葉っぱの上に乗せられた肉の塊は魔鳥のごく一部で、残りはすでに神様の腹の中とのこと。


 と、いうことは……。


「……警視、まさかそれ」

「人間が食べても害はないし、結構うまいそうだぞ」

「えぇぇ……」


 うっそだろ、食べる気か、魔獣!?


「とはいえ、寄生虫が心配だからよく焼いてからだな」

「そ、そういう問題ですか……」


 他に何がある? と言わんばかりの顔で首を傾げないでほしい。

 魔獣って瘴気を纏った獣なんだけどなぁ……。


 どうやら抵抗があるのはボクだけらしく、大神警視は肉の串を、焚き火でじっくりとあぶりはじめた。作業に使った小刀は、恐らくコートかドレスの裾にでも隠してあったものだろう。ディアナの装束にどれだけ暗器を隠しているのやら。


 しっかり焼き色がつくまで火を通した焼き鳥は、味付けも何もしていない割には確かにおいしかった。味はどちらかというと鶏より鴨肉に近いような気がする。塩かタレがほしいところだが、現在遭難中の身としては、贅沢は言えない。これが魔獣の肉である、というのは必死に考えないようにして、焼き鳥をたいらげた。


 水は、神殿で供物を捧げるのに使われていた壺や杯をテユール様が貸してくださったので、僕が気を失っている間に大神警視が神殿の近くの小川から汲んできてくれていた。薄く氷が張っていたが、軽く叩けば割れたので、真水の確保には困らずにすんだそうだ。

 つくづく、ひとり寝コケていたのが申し訳ない……。

 警視も起こしてくれてよかったのに、と思ったが、まあ、元の身体ならともかく、現在この身体はケインくんのものだから遠慮したのだろうな。基本的に、部下には厳しいが民間人には優しいひとなのだ。


 水と焼き鳥の食事を終えたあと、僕らは改めて状況整理を始めた。テユール様の前でするような話でもないかと思ったが、どうもこの神様、暇を持て余しているのか、僕らの会話に興味津々の様子。ノルーン村が廃村になってから、この神殿に訪れる者もいなくなったので、人を見るのも久しぶりだというから、そのせいなのかもしれない。


「では、君もあの時魔法が使えなくなっていたんだな?」

「ええ。今も魔力の循環が鈍いです。……あの時ほどではありませんが」

「……なるほど。恐らく、あの女性も同じ状況だったのだろうな」


 馬車から外へ投げ出されたとき、何故僕が何も魔法を使わなかったのか。大神警視に報告するや、警視は眉をひそめた。あの時……僕の他にも、はっきりと「魔法が使えない」と叫んでいた女性がいたからだ。


 アルフィアス男爵夫人――。

 落下地点が大幅にズレてしまったため、彼女がどうなったのか、まだ解らない。もしも彼女が僕と同じように魔法を使えない状態であるのなら、はたして無事でいるだろうか。


「他にも人間がいるのか」

「ええ、同じ馬車に乗っていた女性です。アルフィアス男爵の妻、メリッサ・アルフィアス。馬車から放り出された時点で、彼女も魔法が使えなくなっていたはずです」

「ふぅん。まぁ、イーガル鳥は滅した。もうこの山に生きた魔獣の気配はないゆえ、魔獣に襲われているということはなかろうが……」

「そうですか……」


 ……それって、魔獣じゃなくて、普通の獣ならいるし、襲われている可能性もあるということだよな……? 大丈夫かなぁ。貴族女性にサバイバル技術なんてないだろうし、生きていてくれるといいのだが。


「しかし、どうして僕と彼女だけ魔法が使えなくなってしまったんでしょう」

「……一番可能性が高いのは、あのお茶だろうな」

「それは……。しかし、警視も……えっ、まさか!」

「飲むわけがないだろう、あの連中が用意したものだぞ」


 そう言って、大神警視がひら、とかざして見せたのは、茶色く変色した大判のハンカチだった。袖口に仕込んで、カップからつたわせてしみこませたのか、一度口にふくんだものを、ハンカチで拭うふりで吐き出したのか。どちらにせよ、あのお茶を飲まなかった警視は魔法が使えたが、少量とはいえ飲んだ僕は使えなくなった。アルフィアス男爵夫人はどうだったろう。彼女は美容にいいからと何杯も飲んでいたはずだ。


 ということは、つまり……。


「ほぅ。それはまた、物騒なことよ。つまりお主ら、誰ぞに謀られたか」


 くつくつと喉の奥で笑う神様の言葉は、不本意ながら真実をついていた。

 狙いが大神警視と僕だけでアルフィアス男爵夫人は巻き込まれただけなのか、それとも三人とも纏めて始末するつもりだったのかはわからない。


 だが、この事態は明確に……殺意を持って計画されたことは間違いないだろう。


 白鷲山暗殺未遂事件――物語ならばそんなタイトルでもつけられそうな状況だな。

 半ば現実逃避にそんなことを考えて、僕は一度首をふって思考を切り替えた。事態は深刻なのだ。逃避している場合ではない。


「普通に考えて、怪しいのはアルフィアス男爵ですが、まさか我々が魔獣に襲われたのも仕組まれたのでしょうか」

「まぁ、待て。結論を急ぐな。我に最初から筋道立てて話してみよ。お主らの魂が異質で、ふたつあるのもな」

「えっと……」


 なんでこの神様、わくわくした顔してるんだ!?

 見た目は完全に狼なのに、面白がっているのがめちゃくちゃ伝わってくるんだが!


 テユール様はよっぽどこの神殿で暇を持て余していたらしい。僕らとしては、長々と身の上話をするよりも、状況整理して今後の対策を検討したいところなのだが……。

 とはいえ、助けて貰った恩があるので、無碍にもできない。結局、大神警視はテユール様にこれまで起きたことをざっくりと説明した。レイナードさんにしたのとほぼ同じで、乙女ゲームうんぬんは省いている。

 しかし、神様的には何か感じるところがあったのだろうか。最期までふんふんと口を挟むこともなく聞いていたテユール様は、思いがけないことを指摘した。


「その外法師、なんぞ触媒を持っていたのではないか?」

「触媒、ですか?」

「さよう。お主らの言葉にあわせるなら、異世界か。異なる世界同士を繋げるのは、そう簡単なことではない。まあ、召喚魔法の応用であろうし、もとより歪みの生じやすい場所、時期というものもあるのでな。不可能ではないが……。望む世界に渡るには、当てずっぽうでは無理がある。あちらとこちらを繋ぐ媒介がなくば、簡単に迷うぞ」

「……そういうものですか」

「そういうものだ。心当たりがあるならば申せ。神の前で隠し事とは不遜ぞ?」


 にやりと笑う狼、というのも妙なものだが、今のはどこからどうみても「にやり」だった。大神警視は数秒考えてから、諦めて説明を付け足した。


「あれを媒介と呼べるのかは解りかねますが、確かに心当たりはあります。実は、我々が元にいた世界では、この世界を舞台にしたゲームがあるのです。百目木真莉愛が儀式を行っていた祭壇に、そのゲーム……物語のようなものがありました」

「……ほぅ。この世界を舞台にした物語とはな。誰ぞがそちらに渡ったか、はたまた誰ぞの知識がそちらの人の子に()()()か。まああり得ぬことではないか」


 ふむふむと納得しているテユール様だが、今、不穏なことを言ったな?


「あ、あの、テユール様……。知識が降りるというのは、どういうことでしょう……」

「人間どもが良く言うであろう。何か思いつくことを、天啓が閃く、と。あれと似たようなものだ。物質世界よりも、精神世界の方が繋がりやすい。生身で異世界に渡るより、夢を渡ることで精神だけ行き来することのほうがたやすいでな。魔法使いには無意識に夢を渡るものがおるものだ。まぁ、大抵夢の中のことなど起きると忘れてしまうものだがな」

「はぁ……」


 えっ、ちょっと待って。

 それって前に、二葉がシナリオライターの話をしてきた時にそれっぽいことを言っていたような……。

 確か、そう……。


「はじめからその世界が存在するのを知っていたかのように、設定や物語が降りてきた……」

「なんだそれは」

「皇国のレガリアの、シナリオライターがインタビューでそう語っていたそうです……」


 僕の言葉に、大神警視は胡乱な目をよこしたが、僕だってこんなこと信じたくはない。だがテユール様はこれで確信に至ったようである。


「そのげぇむとやら、お主らの世界では有名であったのか」

「若い女性を中心に、大変な人気でした。お芝居になったりもしたくらいです」

「素地は十分だな。認知は存在を確かにする。あると知っているものを引き寄せるのはたやすい。ましてこの世界の物語をしたため、数多の想いを集めたモノであれば、立派な触媒となろうよ」


 なんてこった。

 テユール様の話が事実なら……。いや、事実であると仮定したほうが、百目木の行動に納得がいく。ゲームの世界に入りたい! なんてどこの厨二患者だって話だが、シナリオライターの言葉から、この世界が存在すると予想していたなら……。そうしてゲームのストーリーが、この世界で起こる出来事と考えていたなら……。

 ……。

 ……いや、やっぱマトモな頭はしてないな。うん。



「それにしても、渡界人は見たことがあるが、魂だけ渡り来るとは……。ひとつの身体にふたつの魂が同居しているというのも初めて見たぞ。普通はどちらかが負けて消えてゆくものだが……」

「えっ!?」

「それはどういうことですか」

「言葉通りよ。肉体と魂は本来不可分のものだ。そしてひとつの器にふたつは入れぬ。通常ならば、より自我の強い方にのまれて、負けた方は消えていく……同化するか、消滅するか、いずれにせよそのまま残ることはできぬよ」

「そんな……」


 それはつまり、このままだと子ども達の魂が消えてしまうということじゃないか。いっきに血の気が引いていくのを感じる。大神警視の表情もかたい。きっと僕も、同じような顔をしているのだろう。


「……子どもたちが、夢の中である女性に力を分けてもらったと言っていました。その女性に、マリアベル……。百目木が憑依している可能性の高い少女を捜すよう言われた、とも」

「ふむ……。誰かは知らぬが、恐らくその娘は女神の加護を受けておったのであろうな。確かにお主らからかすかに神気を感じる。……その身体の本来の持ち主の魂が消えぬよう、わずかながら加護をあたえたのであろう」

「そ、それではケインやディアナは大丈夫なんですね?」


 女神とやらが加護をくれたのならもしや、と僕は期待したのだけれど、テユール様は無情にも首を横にふった。


「いや、しばらくは保つであろうが、保って数年……下手をすれば一年といったところだろうな。そもそも幼子というものは自我が芽生えはじめたばかり。やわいものなのだ」

「そんな……」

「何か方法はないのでしょうか」

「子らの魂を保護するだけであれば、方法はある。依り代を作って、そこに魂を収めておけばよい」


 大神警視の問いに、テユール様はあっさりとこたえを返した。

 器が足りないのなら、別に作って、そこに一時避難させればよいのだ、と。だが、グローリア辺境伯家の図書室にも、レイナードさんの蔵書にも、そんな魔法について書かれたものはなかったはずだ。


「……その方法を、教えていただけませんか」

「教えてやってもよいが、加減を間違えれば簡単に魂が消滅してしまう危険な禁術だぞ。魂に作用する術は、人の世界ではだいたい禁じられておるはずだからな」

「それでも、このまま手をこまねいているわけにはいきません。なんとしてもこの身体を子ども達に返さなくてはならないのです。何卒、お願いいたします」

「テユール様、お願いします」

「ふむ……」


 大神警視と僕、そろって深く頭を下げて頼み込む。警視にとってだけじゃない。僕にとっても、もうあの子たちを他人だとは思えないのだ。

 このままでは消えてしまうと言われて、そうですかと諦めるわけにはいかない。


「……我の求めに応じるならば、教えてやらんでもない」

「なんなりと」

「迷いもせんのか。うむ、まあよいわ。子を思う親とはそのようなものよな」


 喰い気味で即答した大神警視に、テユール様は毒気を抜かれたようにふす、と溜息をついた。ぱさ、ぱさ、としっぽがゆるく揺れている。


「面を上げよ。我の求めるものはただひとつ。何、難しいことはないぞ。簡単だ」


 またもにやりと笑って、テユール様は言葉を切った。

 大神警視と僕の目を順番にじっと見つめて、たっぷりともったいぶってから、神様は言う。


「そう――お主らが我を崇めればよいのだ」




 ……。


 …………なんて?




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