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17 神に捧げる、  。




 ヒュルル。――ルル。



 甲高い鳴き声が、空高くで響いている。

 寒空の下、白い獣は低く唸った。


 獲物でも見つけたのか、なにやら機嫌が良さそうだ。あれらがこのあたりで狩りまでするとは、己の存在を軽く無視されているようで腹が立つ。


 いくら力衰えようとも、邪な者を除くのが我が権能であるはずなのに。

 それほどまでに、己は弱くなってしまったのか。


 忌々しい不埒ものどもめ。


 そこな人の子よ。

 そうだ、お前達だ。


 捧げよ。

 我に供物を捧げよ。


 そうしたならば、この神域を荒らす邪なるものどもを、追い払い滅してくれように――。




 獣が唸る。


 白い獣が、そう唸る。


 なんておかしな光景なのだろう。獣の言葉が頭の中に流れてきているような、そんな不思議な感覚だ。

 もしや僕は、幻覚を見ているのだろうか。それとも、とっくに意識を失っていて、夢を見ているのだろうか。


 解らない。どちらとも、判別がつかない。


 ――何を捧げればいい。


 ただ、幼げな少女の声が、何か答えているようだった。

 内容までは聞き取れない。音としては耳に入っているけれど、言葉として理解には至らなかった。


 ――何でも。心から捧げるものならば。


 獣がまた、何か言う。

 問答はどれほど続いたろうか。やがて、どこかで聞き覚えのある旋律が耳を打った。


 高く伸びやかな少女の声が、歌っている。

 知っている曲だ。

 でも、どんな歌詞であったか思い出せない。


 柔らかに響く歌声に、なんだかとても懐かしい気持ちになった。

 どうして、こんなにも無性に。







 ――帰りたい。





 ***





 薪の爆ぜる音で目を覚ました。

 白い石の天井は、見覚えのない文様を彫り込まれている。身体を横たえているのはすっかり慣れたベッドではなく、小石が転がる固い石の床だ。いくつもの柱が天井を支えているようで、柱にもレリーフが彫り込まれているように見えた。

 天井や壁は途中からごつごつとしたむき出しの岩に変わっているあたり、天然の洞窟を利用したなんらかの建物なのかもしれない。


 ぼんやりとした頭でそこまで考えたところで、身体の横手から、暖かな空気を感じた。なんとか首を動かしてそちらを見やれば、焚き火がゆらゆらと踊っている。


「――起きたか」

「大神警視……?」


 この数ヶ月ですっかり聞き慣れた、幼い少女の声に反応し、ゆっくりと身体を起こす。焚き火を挟んで向こうに、上司の姿はあった。


 ――の、だけど。


 焚き火の前に体育座りで座り込み、暖を取っている警視の真横に悠々と寝転がるそれを目にし、僕は思わず硬直してしまった。


 そこにいたのは、真っ白な毛並みの、大きな……それはもう大きな狼だった。

 薪の火を受けてオレンジ色に輝く毛並みはふかふかと柔らかそうで、精悍なきりりとした面立ちも美しい白い獣。

 けれどその大きさは、馬よりも大きい。


「服は風魔法で乾かしたつもりだが、具合は悪くはないか?」

「あ、あの……、警視……」

「うん?」

「そ、その……そちらの……」


 僕としては、服どころじゃない。

 一口でケイン君のこの小さな身体なんて丸呑みしてしまいそうな大きな獣を起き抜けに見て、混乱するなというほうが無茶だろう。


 大神警視は僕が驚いている理由を察し、ちら、と自分の真横でくつろいでいる白い獣を見て、言った。


「この神殿の主……。このあたりの、土地神様だそうだ」







 ……なんて?




第二章は終了となります。

第三章は五月末か六月頃にまた連載再会目指して現在書き溜め中ですので、お待ちいただけると幸いです。

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