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8 魔導鉱石


 大きさやその質によって、貯められる魔力の量がことなるこの鉱石が発見されたのは、エヴァローズ子爵領とグローリア辺境伯領の境にある白鷲(ホワイトイーグル)山と呼ばれる山の中腹である。名前のとおり、山頂を常に白雪が覆うこの山は、僕らが事前にアタリをつけていた、放棄された神殿が存在する山とも近い。


 エヴァローズ子爵領の中では最北に位置し、五つほどつらなる山脈の一番端にあるのが白鷲山。僕らが一度見に行こうと思っている山はひとつ向こう。北に進めば進むほど、北の山嶺に近くなるわけだから、その分魔獣が出やすい。


 その為なのかどうかわからないが、白鷲山の麓に住むきこりが、土砂崩れで流れた土の中から発見し、エヴァローズ子爵に「綺麗だから」と献上したのが、件のネオンブルーの鉱石だったそうだ。


 鑑定眼をもつエヴァローズ子爵はその石が持つ特性に気付き、驚愕した。それこそが、彼が長年探し求めていたパーツ……。その要となるものだったからだ。


「今はね、魔法は魔力を持つ者しか使えない。魔道具だって、魔獣の落とした核だとか、素材を加工した防具だとか武器がほとんどだ。誰も彼も魔獣を斃すための攻撃魔法か防御魔法にしか使わないんだね。でも、そんなのもったいないと僕は思うんだよ。魔法には無限の可能性があるはずなんだ。もっと自由に、いろんなことができるはず……! そうして、この石があれば、きっと誰もが簡単に魔法を扱えるようになるはずなんだよ」


 ネオンブルーの石を両手で握り、そう熱く語るエヴァローズ子爵に、大神警視がこくりと深く頷いた。


「ええ、きっとそうなるでしょう。我々は魔法というものがない国から来ましたから、なおのこと、この国の魔法の扱いが不思議でなりませんでした。土を耕すといった農作業や、治水、土木工事……どれをとっても魔法を使えば容易に生産性を底上げすることができるでしょうに、そういった研究はまるでなされていないようなのですから……」

「そう……! そうなんだよっ! 貴族たちは魔法を闘うこと以外に使うのは卑しい行為だなんて言うのさ。馬鹿馬鹿しいことだよ。食べないと生きていけない。なのにそれを賄う為の労働を卑しいだなんて……。僕はこれまでに少ない労力で畑を耕す道具だとかも開発してきたけど、魔法で動かす仕組みは、魔力のない平民には使えなかった。だけどこの石をうまく動力源とすることができれば……!」


 魔導鉱石は、魔力が溜まっている状態だと、鮮やかなネオンブルーに輝く。溜まっている魔力を使い果たすと、透明な水晶のようになるのだそうだ。そうして、使い切った石は浄化することで、また魔力を貯めることができるようになる……と、無限にリサイクルできる画期的なものだ。

 乾電池が発見されたようなものなのだから、彼の研究が確立したなら、それこそ世界に変革が起きるだろう。


 しかしそれは同時に、彼の研究が他の貴族に支持されない理由でもあった。


 誰もが魔法を使える……。それは、この世界の特権階級が特権を持つ理由、根幹を揺るがすものであるのだから。


 魔導鉱石を原動力とした道具は、まだひとつも成功していない。しかし、遠距離通信機ひとつとっても、この世界の軍事的常識をひっくりかえしてしまう。この老人は、グローリア辺境伯家にとって、対応如何で強力な味方ともなりうるし、恐ろしい爆弾にもなりうるだろう。


「何度でも言います。レイナードさん、あなたの発明は画期的なものです。今完成しているものでいえば、この伝言水晶……。たとえばこれを、北の山嶺をはじめ、魔獣が良く出没する地域に配備することができれば、瞬時に情報の伝達が可能になる。その分騎士が迅速に現場に急行することができ、多くの人々を守ることができるでしょう」

「お……? おぉ! そうか、そういった使い方もできるのか!」

「ええ。ジャバウォックに村が二つ壊滅された時も、奴が現れたという情報伝達の遅さから被害が広がりました。北の山嶺とフレアローズは遠い。あちらから増援要請が出ても、情報を受けとるだけで何日かかるか……」

「そう……そうだったな。いや、ワシとしたことが、言われるまで気付きもせんとは……! ありがとうレンくん、でんでん伝言水晶を量産して、セドリック兄上にお届けせねば! いや、それならば、番で一組という扱いだと、拠点同士でいくつもおいとかんといかんの……」

「それなら、こういうことはできませんか……?」

「む、ほうほう、それなら……」


 どうやら、フレアローズ城と北の山嶺に伝言水晶を置くことは確定しそうだ。

 大神警視のアドバイスを受け、エヴァローズ子爵はそれはもう眼をきらきらと輝かせ、新たな設計図を作成し始めた。

 この様子では、改良版でんでん伝言水晶が完成するのもそう遠くはないだろう。

 ……ていうか、なんとかならないのだろうか、このネーミングは……。


「警視……。いいんですか? めちゃくちゃ助言しちゃってますけど」

「私たちが何を言わずとも、彼の発明はいずれ世に出るだろう。大勢は変わらんよ」

「まあ、それは確かに……」


 ゲームの世界でも、高速魔導船が開発されていたわけだし。そういった開発スピードが多少速くなるだけで、魔導鉱石がこの世界の常識をひっくり返すという流れには一切変化はないだろう。


「それに、彼は元々グローリア辺境伯家の人間だ。兄弟仲は良くないと聞いたが、それはアルグレイ伯が彼の発明の真価を理解していないからだろう。あの通信機ひとつで、その評価もひっくり返るかもしれないい」

「まぁ、それは確かに……」


 そうしたら、アルグレイ伯はエヴァローズ子爵を見直して、兄弟の仲が良くなるかもしれないし、間を取り持ったディアナにも好感を持ってくれるかもしれない。騎士達に絶大な影響力のあるアルグレイ伯と、恐らくこれから皇国で名を上げていくだろうエヴァローズ子爵。双方がディアナ嬢とケインくんの後見となってくれれば、心強いことこのうえないだろう。


 ……このひと、ガチで子ども達の地固め画策しはじめたな。まあ、そういうことなら僕も知恵を絞ろうか。


「……エヴァローズ子爵に、遠心分離機作れないか相談してみますかね」


 あと、冷蔵庫とか、コンロとか、洗濯機とか……。生活が便利になるものを作れたら、商人と組んで手広く販売とかできるかも。設計図を使用する場合売り上げの一割をエヴァローズ子爵に渡すようにとか交渉したら、彼は大儲けできるだろう。そうしてその設けはさらなる発明の研究費になるはずだ。


「それもいいが、砂糖の抽出にも協力願おう」


 ……警視、子爵の才能をとことんディアナ嬢たちの為に使うつもりですね?


 エヴァローズ子爵は、一度集中すると他人の声など耳に入らなくなってしまうらしい。そういうタイプの人間は研究者には珍しくもないので、僕らは設計室にある本を勝手に物色し、最新の魔法研究論文などを片っ端から読み込んでいった。

 さすがは様々な魔法道具を研究開発している子爵の蔵書だけあって、フレアローズ城ではみかけたことのない書籍も多くあった。冊子になっていない、手書きの論文もあったりして、それらも興味深い。


 魔力とはそもそもどういったものか、といった研究から、詠唱呪文と言語の関連性だとか、術式の構築法則論だとか……。

 これは内容を読んで理解するのに時間がかかりそうだが、勉強して損はなさそうだ。甜菜探しも大事だけど、このあたりのものだけでもちゃんと読んでおきたい。


 と、いうわけで、僕と大神警視で手分けしてめぼしい研究書を読んでいれば、いつのまにか夜になっており、夕食の時間になっても降りてこない僕らを呼びに来たエドガーくんにとても驚かれてしまった。

 客を放り出して設計図作りに夢中になっていたエヴァローズ子爵は、セバスチャンさんにこってり絞られたのは言うまでもないだろう。




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