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短編集

あまいあまいあまくない

作者: 樫原 せりな

とある曲を聴いて閃いたもの

おちなし

「ごめん、寝てた?」

雪がちらつく寒い夜

日にちも変わり布団に潜り込んだその時だった。

「連絡も入れずこんなに時間に悪かった。」

真っ暗な中、扉を開けるととても申し訳なさそうな顔をした彼が立っていた。

「鍵、持っているんだから入ってくればいいのに。」

外気の気温に顔をしかめながら、彼をどうぞと部屋へと導いた。

しかし、彼はその場から動かない。

「いや、帰るよ。ちょっと顔が見たかっただけだから。悪かったな寝てただろう?」

無理やり笑った表情を浮かべ彼は首を横に振り私の頭にポンッと手も乗せ、すぐに帰るそぶりを見せた。

「大丈夫よ、ほらいいから入って寒いから」

苦しそうな彼の顔。そんな顔している彼をこのまま帰せるわけない。冷えた彼の腕を取り、今度こそ部屋へと導いた。

部屋へ入った彼は帰るのを諦めいつものようにコートとスーツを脱ぎ自分専用のハンガーにかけ、いつものようにテーブルとベッドの間に座った。

そんな彼を横目に冷えているであろう彼の体を暖めるために暖房を入れ、自分の分と一緒にコーヒーを入れた。

彼とはもう何年の付き合いになるだろう。

最初はまだまだお互いに子どもだった中学時代

気づけば学生生活も終わり、社会人生活へと突入していた。

社会人になり、しばらくしてたまたま彼が私の会社に取引先の人して現れた。

それから何年か経ち、彼が担当を外れてからも私たちはこうして会っていた。「はい、砂糖たっぷりね。」

彼にコーヒーを手渡し、たっぷり砂糖を入れたことを伝えると苦笑いが返ってきた。

「甘っ・・・そのうち、これでよかったといえるようになるかな。」

おもむろにそう言った彼

きっと答えを求めているわけではないのだろう。私は静かにコーヒーを口に運んだ。

彼も再びコーヒーを口に運びホッと息を吐いた。


「どうあがいたって矛盾だらけなところあるし、落ち込んで会社休んだところであなたの代わりはたくさんいるんじゃない?そう言わせないために頑張ったらいいと思うけど。」

仕事で何かがあったことはわかってる。内容もあかせないのもわかってる。

だから細かいことは言えない。

ただ私が思っていること言うだけ

「無駄な時間を使わず有意義に過ごさなきゃ。

現状は変わりはいくらでも会社員かもしれないけど、将来必要不可欠となれたらそれでいいんじゃないの

私としては会社じゃなくて人として必要不可欠と思われることが大事だと思うけどね。」

<やなこと、全部コーヒーで流し込もう>

気休めだった。

『これ飲んだらいいんじゃない?苦さでやなこと忘れようよ?

ふがいなさを吐き捨てよう』

中学時代、部活や進路で悩んでいた彼にそういいブラックコーヒーを渡したのは私だ。

その時はまだコーヒーの味にも慣れてなく苦いとすごく変な顔をしていたのを今でも覚えている

「それいつまで続けるつもり?」

きっかけが私だった・・・

それはわかっている。

寒い中、自販機前でブラックコーヒーを買っている彼を見つけた。

再会して会うたびにコーヒーを飲んでいた彼

とくに気にしてもいなかったがたまたま彼がコーヒーを飲む時がなにかしらあった後だということを彼の同僚との話で聞き昔を思い出したのだ。

「もう苦くないんじゃないの?」

私の言葉に意味がわからないとばかりに首を傾げる彼

「甘さしか感じないんじゃないの?」

そういうと言いたいことがわかったのかふっと微笑んだ。

「うまいこというな、、、ふがいなさがシロップってことか?」

缶コーヒーを一口流し込んだ。

「最初は苦さでごまかしていただけでなく君の優しさも感じられていたんだけどな。気が付いたら、今はただただやり過ごすだけになっていたな。」

昔のことを懐かしむように言った彼

「コーヒーで流し込むだけじゃなくて、ちゃんと言葉にして吐き出さないと・・・」

そんな彼が心配で、昔の子どもだった自分に対してイラ立ってしまった。

そんなこと言うんじゃなかった。と・・・

「そうだな・・・。お前が聞いてくれるか? 」

そんな私の気持ちに気づいたのか気づかないのかはわからないが頭をポンポンとなでてくれはにかむような笑顔で言った。

「そうね、仕方ないからコーヒーが甘々になる前に聞いてあげるわ。」

再会してからきっちりした彼しか見ることがなかった。そんな彼につられるようにこっちは赤面してしまい反動でかわいくない答えを気づけば返してしまっていた。

そして私たちは付き合うことになり現在に至る。

「おはよう。ご飯食べる?」

窓からの日差しと鼻を擽る香りで目が覚めるとちょうどこっちへやってきた彼女

ベッドから朝の準備をし、俺は定位置へと移動した。

返事をしない俺に気にすることなく、目の前にカップを差し出した。

「ありがとう」

そう呟き受けとった。

「これからも一緒に笑い合って過ごしてくれるか?」

カップの中身を一口含んだ彼が顔を上げ私を見ていった。

「当たり前でしょう?どうしたの急に」

彼のあまりに真剣な表情に何事かと思っていたが、あまりに当たり前なことをだったのでいつもの調子で答えていた。

「・・・プッ・・・そんなやつだよな。お前は」

サラリッと答えを返された彼は驚きの表情のまま急に噴出した。

「朝ごはん、俺が作るよ。準備してな」

ひとしきり笑った彼はポンッと頭をなでキッチンへと向かっていった。

「もう・・・・」

一体なんだったんだろう。と不思議に思いながらもご飯は彼に任せて、会社に行く準備を始めた。


おまけ・・・


「いや、あんたそれって・・・」

ランチタイム何気に今朝の会話を友人にしたらなぜか彼女が焦りだした。

「なによ、一体」

なにがいいたいかまったくわかっていない私に

「いや、何でも」

とだけいい大きなため息をはいた友人

「なにそれ、失礼ね」

そう呟いた私に対して

『失礼なのはあんただよ。たぶん、それプロポーズ・・・・』


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