ナメクジの歩み
毎度の如くお家にこっそりこんにちはしては塩をかけられる存在である俺も、近頃結婚というものを考えるようになったのだ。
このナメクジやろうと罵られようと……罵られ……ナメクジにナメクジやろうは罵られることに入るのだろうか? いや、悪意を持った使い方をしているという点では確かにナメクジという生物を馬鹿にしているというか下に見ていることに間違いないのだろうが、意図するモノとは違う気がする。
おおっと。こういうところが『あなたって、なんだか理屈っぽい……そう、ぬめぬめしてるのよ』なんて言われて嫌われるところだった。気をつけねばならない。これでは新しい彼女もできぬ。カラを見せびらかすタイプのいけ好かない奴に負けるわけにはいかないのだ。
何が『持ち運ぶ愛の巣タイプの殻を背負うのがトレンド』だ。2匹は入れるようにできてないし、なんか2匹顔出したら別の怪獣じみてるだろうが。いっぱい塩かけられちゃう流れになるだろうが。これだから流行りに流されるツムリ共は困るのだ。何も考えちゃいない。
ぬるぬるとそんなことを考えながら、待ち合わせ場所に来たのである。紹介してもらったのはありがたいのだが、存在柄海辺の近くというのはちょっと、潮風が辛い。油断すると強制ダイエットする羽目になってしまう。俺はメタボではないのだから、塩ダイエットなんてする必要はないのだ。
塩に注意している間に、向こうから同じくゆっくりと近づく影が見えた。
さぁ、第一印象が大事だ!
そう気持ちを切り替えて、気持ちのいい挨拶をしようとした。
したのだ。
なんか、サイズおかしくない?
最初に思ったのはそんなことだった。
たしかに、たしかになんか似たような感じでぬるぬる進んできてはいるんだけど。
なんか違う。
大きさもそうだけど、なんていうか、ナメクジ味を感じないというか。
こんにちは。
そういったあなたはカラフルだった。
ナメクジの俺たちと違って、いろいろな色がある。
そんな目に楽しい存在だったのだ。
塩で溶ける俺たちとは違う。
海でも、輝ける存在だったのだ。
お前ウミウシじゃねぇか!!!
溶けるわ!
殺す気か!
挨拶時点でこんにちは死ねか!
暗殺か何かか!
紹介所は死へのものでしたってか知るか!
俺は逃げた。みっともなく逃げた。
愛に種族差はないとかいう同胞もいるが、さすがに種族的に無理だと思った。プラトニックとかいうけど近寄ったら死ぬのはもうそれラブっていうかキルに近いじゃんって思ったのだ。ただのあいがいいのであって果たし合い気分になるようなあいではないのだ求めているのは。
塩にまみれる生物と俺たちとでは、一緒にいてもお互い傷つくしかな……いや傷つくの一方的にこっちだけなのでは? 傷つくっていうか、溶けるっていうか、瀕死に一直線というか?
ともかく俺には無理だ。俺の心もくそ雑魚ナメクジに過ぎなかったのだ。
心が温まりたいのであって、溶けた体液であったかさを感じたいわけじゃないのだ……!
しかし、俺は結婚することをあきらめたわけではない。
数日間ほど凹んだ後、再び誰かを紹介してくれというために紹介所に来たのだ。
えぇ、また来たのかよ、みたいな目で見るんじゃあない。
やっぱり殺す気だったのか貴様。
だってあなた雌雄同体じゃないですか?
だからどういう紹介したらただしいのかわからなかった?
そもそもナメクジが来るのが異例?
いやだからってウミウシは違うだろう、ウミウシは。下手したら殺ナメクジ事件だぞお前しっかりしろ。あとは雌雄同体同士で……みたいな若い者同士のお見合いにセッティングした後のお互いの両親みたいな流れではけられるようなノリじゃねぇから。
というかなんでウミウシは紹介できたんだよって話でしょ。つまり、俺みたいなぬるぬるでも紹介しどころがあるってことでしょうが。そういうことでしょうがよ。じゃあしてよ。しっかり紹介して頂戴よ。ナメクジでもさぁ! 望んでもいいでしょ! 結婚ってやつ!
戸籍がないのでは? 関係ないでしょ!!!
必要なのは愛でしょ!
ウミウシは貴方みたいなノリでこられたからとりあえず登録して置いた?
だからこのさいちょうどいいと思った?
この野郎。低速移動しかできなくてもこっちは本気なんだよ!
不要物一掃セールみたいなノリで、セット販売みたいなノリでてきとうなことするんじゃあないよ!
まったく。
しっかり紹介してください。
お願いしますね。
めんどくさくなったって顔すんのやめろや。お? ちゃんと見えてんだぞオラ。会話できるようになったスーパーナメクジなめんなよお前。お? やってやんぞ? お? お前の家に知らぬ間に侵入してぬるぬるにしてやんぞ? お?
ちょっと準備がって……お前まさか最終兵器塩を用意する気じゃないだろうな。
法律は適応外かもしれないけどちゃんとしたお客だぞ!
おいなんだその……今時みないようなちっちゃいツボは。
めんどくさいからって暴力的手段に頼るなんて知的生命体として……
あー!
思いついたら書かずにいられなくなった。ナメクジの呪い。