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エンマ様はぶっ飛ばす  作者: 麦パン
輪廻の世界

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第四十八話 エンマVSエンマ

 ――前触れなんてなかった。

相対するときから互いが気に入らなく苛立っていた。

どちらが殴り始めたのか。

それさえもわからないまま、すでに二人の足は動いていた。


 俺とエンマ。その拳が衝突するのに時間はかからなかった。 


「ハハハ! どうも、オレ! 早速だが、死ねぇ!」


一発一発の拳が重く、鋭く放たれる。

 

 「オラオラッ! どうした、どうしたァ!?」

 「クソがぁ!」


 相手の連打に反発するように拳を打ち返す。

――まともな会話はできないと判断し、相手を戦闘不能にすればどうにかなるか。

そんな甘い考えの一瞬に気を取られ、相手のエンマの拳を打ち返しきれずに俺は大きく仰け反ってしまう。


 「しまっ――」

 「腹ががら空きだぜぇ」

 「ゴハッ!?」


 身体をくの字に曲げ、吹き飛び、何度も白い床をバウンドして転げ回る。

視界が歪み、立ち上がるのに時間がかかる。

すべてが白く目に悪いこの世界を呪いながら体制を立て直そうとする。

――が。


 「ハハハハ! 考え事か? 手伝ってやるぞ?」

 「ぐッ!?」


 片膝を立てている間に相手は瞬時に床を蹴り俺の眼の前まで飛び込んできて、上向きの蹴りをねじ込んでくる。

それになんとか両方の腕をクロスすることで防御するが、はるか上空まで蹴り飛ばされてしまった。


 「うぉおおおおおおおお!」

 「気合で叫べば空をも飛べんのか? あ゛ぁ゛ん!?」

 「舐めんなぁ!」


 即座に中空で舞う俺の元まで跳躍し、回し蹴りを放つもう一人のエンマ。

それに俺は気合と根性で腰を捻り、空中で同じく蹴りで相殺する。

だが、間に合せの反撃ではどうにもならない。


 「もうすぐ着陸の時間だぜぇえええ!」

 「お前が落ちろ!」

 「はっ! 俺のフライト時間はまだ続くんでなぁ!」


 地面までの激突するまでの制限時間の中、錐揉み回転しそうになる体を空中制御し、相手を突き落とそうと試みる。


 相手の右腕による刺突を首を振る事で躱し、カウンターパンチを放つ。

音が遅れるほどの速度の神速の拳は相手のエンマに当た――ることなく、空を切る。

ニィと笑うエンマは即座に空中を蹴る事で衝撃波を発生させ、俺の拳を避けていた。


 「はぁ!? そんなのありか!?」

 「お前も空中を蹴るぐらいできるだろ? んー? もしかしてできないのかぁ?」

 「くそぉおおおお」


 ヤケクソで腕を振り、乱打を放つが、どれもことごとく躱される。

そしてもうすぐ激突の時間が迫る。


 「落ちろおおおおお!」

 「死ねええええええ!」


 拳通しの激突を何度か交わし、お互いの頭を掴み、体制を何度も何度も入れ替わる。

俺が下に。

エンマが下に。

それを何度か繰り返し、白い床に激突し、凄まじい衝突音とともに煙が舞う。


 「……はぁ、はぁ」

 「ハハハハハ! 随分()()してんなぁ。発情期ですかぁ!?」

 「ふんっ! ()()だ、バーカ。大嫌いな自分を殺せるチャンスが回ってきたことのなぁ」

 「掴めないモノを掴もうとするのは愚者の鏡だとオレは思うんだが?」

 「はっ!随分と口が回るな……」


 俺は鼻に溜まった血を吹き出し、頭から垂れてくる血をTシャツの袖で拭う。

――衝突の瞬間お互いに拳を地面に叩きつけ衝撃を緩和した。

だが、それでも相手のエンマはかすり傷程度で軽口を挟む余裕がある。

それにニヤついた顔はまだまだ余力があるようにも見える。


 「で? どうだ? 自分と戦うってのは?」

 「……楽しいと思うか?」

 「俺は楽しいぜ。貧弱な自分を嬲るのはとてもよぉ!」

 「趣味が悪いなお前(オレ)は」


 俺は距離を取り、息を整え、静かに拳を構える。

肩をバキバキ鳴らし、首をボキボキと左右に曲げ、手足を振るようにして、小さく跳躍を繰り返すエンマ。同様に両手の拳を構える。


 「さて、準備運動はここまでだ」

 「あぁ、俺も丁度そのつもりだった」


 お互いに息を吸い込む。

肺が膨らみ、心臓がドクン、ドクンと鼓動が速くなる。


 「「そろそろ本気で戦おう(殺し合おう)かぁ!」」


 お互いに駆け出し、初発の右腕を突き合わせる。

拳の衝突に衝撃波が突風を生み出し、刃物のような旋風が頬を劈く。


 「「オラオラオラオラオラオラオラオラァ!」」


 声を上げ、お互いに殴り続ける。

嵐を思わせる拳の連打、乱打、殴打。


 「「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!」」


 手の甲の血肉裂け、血しぶきが舞い、拳から骨が軋む音がする。

それでも攻撃をやめない。

エンマを倒すまで。この拳を()めない。()めない。

止まらず、前に、前に。前へ!


 「「うおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」


 白い長髪を互いになびかせながら、拳を突き合わせ続ける。

お互いの力の限界を示し合わせながら、死力、限界を超える。


 速度も、威力も、上げてゆく。

音速を超えて、光速を超えて。

超えて、超えて、超えて、超えて、その先へと――


 「――――」

 「――――」


 あまりの速度で視界がゼロになる。

声すら届かぬ閃光の世界。白亜の視界となり、拳の音さえ無くなる。

あるのは互いの覚悟だけ。

全力で相手(オレ)をぶん殴るというシンプルな思考だけが脳を支配する。


 ――そして、それも終わりが近づく。

視界が元に戻りつつあり、嫌いな顔と相対した時、大きな爆発音が耳を引き裂く。


 「ッ!?」

 「はぁ、はぁ、ハハ……、ハハハハハハハ!」


 乱れた呼吸音と高笑いが聞こえる。

俺達の拳の打ち合いは衝撃波通しの衝突による爆破によって終幕となった。

だが、それは仮初のものだと俺は相手のエンマの顔を見て確信した。


 「いいねぇ、実力も五分といったところか。――なぁんて思うなよ? まだまだこれからだよなぁ!」

 「楽しそうだな。どうだ? このまま大人しく俺に飲まれるなんてのはさ」

 「ハハハ! 寝言は寝て言えよな! オレはお前だ! だが、このまま記憶のままお前に統合されるのなんてまっぴらごめんだ。オレが立花を救う。そう決めてんだ。他人(弱いオレ)に譲ることなんてできるわけねぇ」

 「そう、だよな。俺は弱い。誰一人守れやしない。神の操り人形さ」


 ――今度こそ誰も殺させない。死後の世界で永遠に死者を管理するなんて地獄を味あわせたくない。


「だが、人形であることを覆すのにお前である必要はない。俺はオマエの力と記憶を圧縮して転生して今度こそ救ってやる」

「そのまま返してやるよぉ、お前(オレ)である必要なんてねぇ。このまま記憶の海に埋もれて、死ね」

 

 先代と燐音がこの真っ白な世界に俺を落とたこの状況。

エンマと戦うこの状況。

何もかも理不尽な神との戦いの前触れのようにも感じる。

だからこそ、俺は勝たなくてはならない。

互いの思いを飲み込み、ただこの拳に乗せて放つだけだ。


 「(エンマ)に勝って、神をぶっ飛ばす」

 「オレ(エンマ)を負かして、神をぶっ飛ばす」


 ただ速い拳ではだめだ。

ただ鋭いだけの打撃では駄目だ。

斬撃か? 銃撃か?

違う、違う! 奴を倒すなら。エンマを倒すならこれしかない。

声を紡ぐ。

詠唱を。


 「――踊るは神楽。騒ぐは閻魔。そこのけそこのけ神輿が通る。鼓の音、龍笛は天喜ばす調べなり。舞い踊る姿は黄泉に伝える鎮魂歌。飲めや歌えや罪への償い。来い来い」


俺自身を象徴させる力を顕現させる!


 「閻魔神楽ッ!」


 神輿とともにお囃子が流れる。真っ白い空間に似つかわしくない黄金の神輿が黒子に担がれ虚空から現れる。

俺はそれに合わせ、拳を取る。

閻魔神楽の真骨頂。

自身が舞い踊り、攻撃を受け流し、必殺の一撃を放つ。

先代に放った神殺しの一撃を。


 「閻魔殺陣神楽――閻魔鏖殺……っ!?」


 俺が神楽を舞い、力を溜めているのをエンマは両腕をだらりと下げ、眼に殺意を込めて俺を見つめていた。そして――


 「――踊りも騒ぎも血潮に染まれ」


 先程までの神経を逆なでする声とは違う、深淵を体現したかのような凍てつく声色で詠唱を紡ぐ。


「そこのけそこのけエンマが通る。弾むは鼓動。漏れるは苦悶。喘ぐ姿は現世を表す地獄絵図。罪を重ねろ、奈落行き。魑魅魍魎(ちみもうりょう)百鬼夜行(ひゃっきやこう)の成れの果て――」



 エンマの後ろから、赤黒い何かが虚空より吹き出してくる。

死者たちの怨念が魂の残滓が形なり、ぶくぶくと泡立っている。

このまま力を放っても勝てない。そう思えるほど強力な力の奔流。

まだ力を貯めなくて、閻魔神楽を絶やしてはならない。

だというのに。

 足が、震えが止まらない。悪寒がする。魂が震え、本能が警告音を鳴らし続ける。

力が溜まりきらない。

 まずい――


 「――死ね。怨嗟、神楽」


 血に染まった単純な殺意の塊が今――解き放たれた。

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