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エンマ様はぶっ飛ばす  作者: 麦パン
輪廻の世界

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第四十七話 輪廻転生施設【燐音裁判所】

 現世の世界でもこの死後の世界でも裁判所は罪を裁く場所だ。

天秤を以って公平に人の魂の罪を裁く場所である。


 大罪を犯したものはより過酷な環境に生まれ、善行を成したものは快適な環境に生まれ落ちる。

生前の魂の(カルマ)によって死者の魂は秤にかけられ公平な輪廻転生を繰り返すのだ。


 『――判決。業の比重が善行寄りの為81番の富裕家族へ転生とする』

 「ぎゃ~~~~~!!」


 今も病院により選別された魂が燐音の機械音声によって、転生先を読み上げられている。

その際、叫び声を上げているのは死者の魂を浄化するためのシステムの一つ。


 『判決。罪の比重が悪行寄りの為55番の貧困家族へ転生とする』

 「ぐわ~~~~~~!!」


 ――のはずだ。


 「……へ? 皆ビビって声上げてるだけだよ?」

 「そりゃビビるだろうな。バラエティ番組みたいに落下していくんだもん」


 そう。死者の魂が叫んでいるのは恐怖しているからだ。

もちろん、転生先を聞いて驚いているのもあるだろうが、被告人席に立たされ、過去の所業を連連と並べられて最後に転生先が告げられて床が開いて落下するなんて思わないだろう。

俺個人的には転生というのは神様的なものが謎の光でふわ~と照らしていくみたいなイメージがあったからこれを見せられて驚いた。


 「おもわずボッシュートになります。とか言いたくなるな」

 「ふひ、エンマ兄言ってみる?」

 「いや、死者の冒涜感があるから遠慮しとく」

 「死者の魂を殴り飛ばしてるのに……?」

 「……くっ!」


 鋭い陰気な燐音の言葉に何も言い返せなかったのがすごく悔しい。

敗北感を胸に宿し、辺りを見回すとそこはどこか見たことのある光景では合ったが、しかしそれを実際に見ると印象が違う。


「これが裁判所か……」


 現在俺達は記憶を現世の俺達に転生すべくこの輪廻転生施設の最後の施設である裁判所の傍聴席に座っていた。


 俺から見て正面の柵を越えると被告人席があり、そこにいろんな姿の魂が入れ替わり立ち替わりで立たされ、落下していた。

奥の裁判官席では、裁判官の姿はなくただ、機械音声が粛々と転生の処理に努めていた。

右側の弁護人席には大きな縦型モニターが表示されており、転生に当たる注意事項や転生の為どんな罪を贖っていかなくてはならないかが表示されていた。

左側の検察官席にも同様のものが設置されており、これまで犯した罪の来歴がつらつらとスクロールで流れていった。

 

 ――なんか機械化が進んだ裁判所みたいだな。


 もちろんのことながらフォーマルな格好やスーツなんて持っていないため、俺のTシャツとジーパンサンダルスタイルは場違い感がすごいが、そこはもう気にしないことにした。

相変わらず、朱夏(立花)は辺りを物珍しそうに眺め、先代は眼を瞑り瞑想のような格好で座禅を組んでいた。


 「……先代?」

 「――あぁ。今、精神を整えておった。もう少し、時間がかかるから燐音の説明を聞いておればそのうち終わる」

「わかった」


 先代の中でまだ何か残っているものがあるのだろう。作戦は決まったが、まずはこの転生についての注意事項を聞かなければならない。

その説明役を買ってくれたのが陰気な燐音である。


 「ふひ、で、ではまず、説明を……」


 そこから、陰気な燐音から説明がなされた。

皆、姿勢を正し、真剣にモニターに映る燐音を見つめる。


 「……まず、転生というものは生まれ変わるという単純なものではない、のです」


 ふむ。


 「前提として、人は等しく罪人です。生まれ変わるのは罪から耐えられないから生まれ変わる、のです」

 

 ふむふむ。――というか説明口調だと陰気感がないんだな。



 「……記憶を消し去り、真っ白な記憶で人生をやり直しまた罪を犯す。これでは人はいつまで立っても罪人から抜け出せない。そこで私達、燐音がサポートをするの、です」


 ……ぐぅ。


 「魂そのものに記憶とは別に(カルマ)というものが刻み込まれるのですが、それらを解析し善の人生を送ったのか、悪の人生を送ったのが割合で表記されるのです。そこで、それらを病院施設で診察し、この裁判所で裁判官が罪を言い渡すようにして転生先を告げ、生まれ変わらせる。その際、魂の(カルマ)()を打ち込むの、です」


 ……ぐぅ。すぴぃ。フガッ。


 「その()が現世で生まれ変わった魂が人間として生きていく際に大きな役割を果たすの、です。それは罪を犯そうとした際に罪悪感や既視感、違和感が発生し、一時的に身体を静止させるという役割です。ですが、記憶がないので生きてきた環境や性格ではそのまま罪を犯してしまい来世では苦労してしまうの、です」


 はっ! いかん。眠ってしまいそうになった。

聞いている。聴いているぞ。

――だから、燐音諦めた絶望の眼で俺達を見ないでくれ……! 後で、怒っておくから……!

俺は説明を続ける燐音から目線を反らさず、足で隣に座っていた寝ぼけ眼の着物の少女を突付く。

それにはっ! となる着物少女朱華(立花)さん。慌てて、口元のよだれを拭き、背筋を伸ばす。


 「………………では、続けます。ここまでいいですね?」

 「あ、はい」


 おどおどしていた燐音の声からとても冷たい声が聞こえた。

それは死者の放つ独特な凍てつく寒さをまとっていた。

思わず身震いして敬語で返してしまった。


 「……んんっ。さて、一般的な転生はこんな感じで、エンマ兄は違う感じになる、のです」


 口元に手を当てたモニターの中の少女はどこからか手元にフリップなようなものを取り出し、指を刺す。

そこには俺の姿を2等身にデフォルメされた姿で説明された図が描かれていた。


 「まず、今のエンマ兄はあらゆる並行世界のエンマ兄の記憶が圧縮して入ってる。でも、それをそのまま現世のエンマ兄さん――八薙閻魔に入れると、どうなると思う……?」

 「え? もしかして……」

 「そう、間違いなく脳が処理できなくて爆発四散して死ぬ、のです」

 「なにそれこわい」


 脳が処理しきれないのはわかるが爆発四散は誇張表現だろう。そう思い事情を知っていそうな先代の方を見ると、座禅を組みながらうっすら笑っていた。


 「え? まじで?」

 「……ふひ。エンマ兄が焦ってるところ始めてみた」

 「いや焦るだろ! で? どうすればいい?」

 「簡単……。転生する際に一つの記憶に圧縮すればいいの、です」

 「圧縮……」


 つまりは、今ある頭の中のごちゃごちゃしている記憶を合体させるってことか。

でもそれってつまり。


 「今と変わらないんじゃ……」

 「――よし。できたわい」

 「え? 何が?」


 俺の質問には答えず、先代は急に立ち上がり、謎の完成報告をしてため息をついた。


 「さて、エンマよ。燐音達はどうしてこんな形で分かれておるか知っているかのぉ」

 「それはもちろん記憶の混濁と人格の崩壊を防ぐためだろ?」

 「そうじゃ。じゃけど、お前さんが違う。立花によって思い出して尚人格を保っておる。それはなぜか」


 …………。

 あぁ、そうか。俺が――


 「閻魔だからか」

 「そうじゃ。閻魔の役職は死後の世界限定の神の権能に近いものがある。精神も魂も高次元のものに昇華されとる。じゃから、人格は変わらず馬鹿なお前さんのままなんじゃ」

 「一言多いぞ?」


 だけど、そうだ。俺は特別神に生かされてるし、甘やかされてるから大丈夫だが、燐音たちは違う。

俺の妹だから。妹のクローンだから。身内だからこの世界に享受の神によって固定されているのだ。


 「今更ながら、俺は恵まれてるのか……」

 「厄介なストーカーに監禁されてるとも言えるがのぉ」

 「はっ! 違いねぇ」


 依然心に火がついた。神をぶっ飛ばすという覚悟の灯火が。


 「で、先代。何ができたって?」

 「ワシも先代とはいえ閻魔の端くれじゃ。この燐音たちの世界に干渉することもできる。まぁ燐音達に許可は得ないと無理だったのじゃが」

 「ふへへへ。先代。もう、()()()()()()()()、よ」

 「助かるのぉ」

 「え? 何?」


 俺の知らないところで話が進んでいる。

ついていけないでいると俺は先代に脇を捕まれ、そのまま立つように促され、移動を余儀なくされる。


 「……では、エンマ兄」

 「……愛する弟子よ」

 「おいまさか……!」


 無理やり柵を超えさせられ、被告人席に立たされた俺は二人のやることになんとなく察しが付いた。

――こいつら俺を落とすつもりだ……!


 「「いってらっしゃ~い」」

 「このくそぉ、覚えてろぉ~~~~!」


 俺は二人の策略にハマり、詳細がわからないまま転生していった魂と同様に床が開いたそのさきの深淵へ落ちていくのだった。








*************************************





 ――長い。永い。

暗い闇を落ちてゆく。

終わりなき深淵に潜ってゆく。

それはどこまでも緩慢に。

どこまで怠慢に。

時間の縛りなど内容にただ、落ちて、落ちて、落ちてゆく。


 気がつけばこの身体に意味などないのではないのか。

自問し、魂の姿が変わりゆくような感覚がして。


不意に足元に光が差し込む。

白く眩い光は徐々に身体を飲み込んでいく――





「イテテテ……」


 どれくらいの時間落ちたかわからない。永遠のような一瞬のような曖昧な感覚。

今わかるのは真っ白な床と尻の尋常じゃない痛みだ。

辺りは目が痛いほど真っ白な空間が広がっている。

どこか見覚えのあるようなそんな気がした。


「――どうした? 随分貧弱そうな声出しやがってよぉ……」

「お前は……!?」


 不意に聞き覚えのある声がした。顔を上げると誰よりも身近で誰よりも嫌いな存在が立っていた。

白い長髪を後ろに垂れ流し、似合ってないTシャツとジーパンにサンダルを履いただらしない格好の男。


――もう一人の俺が憎たらしい笑みを浮かべ眼の前に立っていたのだった。

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