第四十六話 輪廻転生施設【燐音病院】
輪廻転生施設。
見た目は病院の形をしているし、内装も病院そのものだが本質も少し似ている。
病院では診察を行い、病・体調不良・怪我を治すために薬での治療や入院での処置を行い最終的に完治を目的としているのに対し、この施設では魂の診察を行い、転生先を決めることを目的としている。
『はい、10番の方どうぞ~』
受付のモニターから流れる番号と機械音声の明るい燐音の声に次々に呼ばれて、奥の診察室へ向かう魂たち。
人魂のように青い炎の塊ではなく、二足歩行で歩いて向かう魂には統一性のない姿形をしていた。
獣のような毛が生え揃った醜い姿の魂もいれば、反対に秀麗な顔立ちをした背丈の高い姿の人間の魂もそこにはいた。
姿が違うのにはその魂が持つ業によるもの。善なるものは美しく、悪なるものは醜くなる。
ここでは魂の本質が鏡で移され、その正体が露わになる。
生前嘘で自身をよく見せようと偽っていたものでもこの死後の世界では――この施設では本来の姿をさらけ出さなくてはならない。
「……だから、みんな俯いてんのか」
俺は少し納得した。病院担当の暗い雰囲気の燐音に案内されて入ったこの施設の中で最初に思ったことだ。
魂たちは自身の姿をほかの皆がどう見るのかが怖いのだ。
美しくても醜くても、他者の感じ方は違う。
相手が美しければ妬み、嫉妬の感情が。相手が醜くければ軽蔑、差別の感情が湧き上がるだろう。
だからこそ、もう見ないようにして感情を閉ざしている。
自身の業が侵されないように、影響を受けないように塞ぎ込んでいるのだ。
……まぁ、すべて憶測なのだが。
「なるほど、この場所のせいで案内してくれた燐音は陰気なのか……」
「ふへ!? こ、これは従来の気質だよ……ひ、ひどいよ、エンマ兄……」
「あ、そうなのか。す、すまねぇ」
液晶越しにだが下を向いて落ち込む陰気な燐音の姿に罪悪感を覚える。
が、すぐに謝罪しする事で免罪符とする。
陰気な燐音は俺達をたどたどしく迎えてくれると病院施設の仕組みを事細かく説明してくれた。
とても良くできた子である。
「ところで先代達は?」
「いま、施設を探索してる……、もうすぐ戻ってくるんじゃないか、な……」
「あの爺さん死にたいなのに元気だなぁオイ」
――作戦自体はこの施設に入る前すでに話し合っている。
先代の死に体まな身体を享受の神とリンクさせて、この死後の世界に引き釣りこむ。
これが作戦の第一フェーズ。
そして、第二フェーズが、
「俺が記憶だけ現世に転生して、享受の神の油断を誘うか……」
この作戦自体簡単ではない。なにせ、相手は神だ。くそったれのクソ神だ。
頭は無駄に回るし、頭にクルことばかり言いやがる。
それでも、世界を創り上げたとかそういう意味では親という解釈ができるのが得も言われぬ感覚だ。
「とはいっても、妹を――立花をだしにして自身の目的の為なら俺達人間をどうでもいいと思ってやがるのが一番腹が立つぜ」
「エンマ兄……!」
なんか感極まる燐音は放っておき、今は作戦のことに集中しなくては。
最終フェーズ。
殺して殺さないという矛盾を孕んだ神殺し。
正直これに関しては通用するかどうかは賭けみたいなところはあるが、やるしかない。
「……これしか、ないよな。お前たちを救うのは」
並行世界での燐音、そしてその大本である立花。
彼女たちを救うにはまず根本的に自身を殺させようと企む《享受の神》をどうにかしなくては平穏な世界線はやってこない。いつもどおりの日常なんてものは訪れない。
「待ってろクソ神。必ずぶっ飛ばしてやるからな」
「――気合い充分なようじゃな」
「先代……」
探索を終えたのだろう先代が俺の肩に手を置く。
その後ろで病院内が珍しいのか眼を輝かせてキョロキョロする朱夏(立花)、生身の身体いいなぁ指を咥えた陰気燐音とお嬢様燐音の静かな攻防が繰り広げられていた。
正直、先代に関しては腹に穴が空いた状態でうろちょろされるのは心臓に悪いが、自身がやったことなのでそこは眼を瞑ることにする。ほか二人は放置で行くことにする。
そして、先代に心の準備ができたことを告げる。
「さぁ、神を殺さない神殺しの時間だ!」
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「と、その前にまず渡して置かなければならない物があるでのぉ」
「んぁ? なんだこれ?」
先代から手渡されたのは白い欠片のようなもの。小さく半月状のそれは大きくはないがどこかで見たことのあるものだった。
「それはワシの爪じゃ」
「うわっ! 汚ッ!」
「失礼じゃな! ちゃんと酒で洗っとるわい!」
「余計汚いわ!」
思わず投げそうになるのを朱夏(立花)とお嬢様燐音が引き止める。
「それ、重要だから!」
「すごーく大事な物だから!」
必死に叫ぶ二人に免じ、投げるのをやめ、まじまじと先代の爪とやらを観察してみる。
ジジジジジ……。
セミのように微振動していた。
そして、暗いところで光る蓄光塗料のように僅かに光ってもいた。
「…………」
「あぁ、また投げそうになってる!?」
「早まらないで!」
いや、単純にキモい。
捨てたくなるだろ。こんなの。
「カッカッカッ! 短気じゃのう。もっと多様性を認めないとモテんぞい?」
「うるせぇ。で、結局これ何なんだ?」
「それはワシの爪じゃ」
「馬鹿な!? 会話がループしている!?」
「まぁ、待て。まだ話が途中じゃろうて」
先代は自身の手のひらに俺に渡した先代の爪と同じモノを取り出した。
「これはワシに連動するようになっておる。じゃから、この爪をこの観葉植物に刺す」
「それ、高級品なのにぃ……」
泣き言を宣う陰気な燐音のことは無視して、先代は躊躇なく爪を観葉植物の歯に突き刺した。
すると、瞬きをする間に観葉植物の植木鉢の上に先代がワープしていた。
「どうじゃ?」
「なるほど、連動するっていうのはそういうことか。まさか、これをクソ神に?」
「そうじゃ。座標を示すマーカーと認識すればいいぞい」
「でも、死後の世界から現世にワープってことにはならないだろ?」
「そこは問題ないぞい。その爪を刺せば後はワシのこの身体の情報だけをワープさせるからのぉ」
「ふむ……」
これで先代の言っていた作戦の現実味が帯びてきた。
そのための死に体の状態を維持。先代には顔が上がらない。
「ん? 記憶だけを転生させるんだよなぁ? この爪を持ってくのってどうすんだ?」
「そこは燐音ちゃんたちに頑張ってもらうかのぉ」
「ひぃいい、が、がんばりますぅぅう」
情けない返事だがやってはくれるのであとは転生するだけ。
ん?
「待てよ? この爪を突き刺すのってかなり難しいんじゃ……」
「ちっ、気づきおったか」
おいおいこの爺さん舌打ちしたぞ。
「はぁ……、まぁなんとかするが」
「さすがワシの弟子」
「調子いいなぁ、オイ」
そんなやり取りをしつつ、現在燐音に転生の準備を進めてもらっている。
準備には時間がかかるらしく、病院の待合室で待たせてもらうことにした。
他の魂が俺を避けるのはぶん殴った影響が大きいのだろう。
今度からはもう少し優しく殴ることを心に決めた。
「に、兄さん、準備ができたって……」
待合室のモニターが転生する魂達を呼ぶ番号から陰気な燐音の姿に変わり、俺達に知らせてくれた。
転生する場所は病院を抜けたところのもう一つの輪廻転生施設通称、【裁判所】である。
「さて、いよいよか……」
緊張と複雑な思いを抱き、俺達はこれからが正念場の輪廻転生の本拠地に向かうのだった。




