第四十五話 殺して殺さないという作戦
「……エンマ、おはよう」
その声に反応ができなかった。
立花の声で立花の身体で仕草もすべて記憶にある通り。
いつもと違うのは腹に突き刺さるカラスだけ。だがそれも液体のように溶け、立花と融合し一体化していた。
「立花……じゃない? もしかして朱華か?」
「おぉ、すごい、よくわかったね」
「あいつは俺をちゃん付けで呼ぶからな。それに――」
「それに?」
「……いや、なんでもねぇ」
――あいつなら抱きついてくるとかやりかねない。
そんな事言うのが恥ずかしいから少し、言葉を濁した。
「あ、私立花の身体借りてるけど、ちゃんとここにいるからね、立花も。……変わってみようか?」
「そんな電話の取り次ぎみたいに人格が代われんのかよ……、でもいいや。あいつとはもっと穏やかな状態で話してぇ」
「そっか! わかった」
朱夏はなぜか満足そうに微笑む。
その姿が立花と被るのはクローンの魂が本体と近しいためだろうか。
「そんな考えは今持つべきじゃねぇな」
「――では、そろそろいいかのぉ」
「あぁ。またせたな先代。……てか、俺がやっておいて今更だが穴が空いても動いて大丈夫なのか?」
「向こうの景色が見えるようになって面白かろう?」
「心配でこっちの胃も空きそうだよ」
「カカカッ!」
明朗に笑うだけの先代。時折、笑いすぎて痛そうに顔を歪めるがひとまず大丈夫ではないのだろうが、大丈夫そうであった。
「こうして座ってるのもなんじゃ。道すがら話を進めれば先の作戦もわかるじゃろ。では、案内頼んぞ」
『やっと、出番でやがりますか。長話も程々にするでやがります』
「老人は話が長いのが長所じゃぞ?」
「「「うわっ!?」」」
――聞こえてきたのはヤンキー燐音の声だっただ。少し、苛ついた声で先代に迫っていた。
俺、朱夏、お嬢様燐音三人が驚きがかさなり、びくっと肩がはねていた。
というより、地面からメガホンが生えるなんて現象があるんだな。春のつくしみたいにニョキって出てきたぞ。
『ほれ、お前等も早くこの矢印に沿うでやがります。走った走った!』
メガホン越しでヤンキー燐音は俺達を急かし、先程のようにニョッキと生えてきた他のメガホンが形を変え、電光掲示板のような姿に変形して矢印を点滅表示させていた。
それはどこかを指し示しているようで俺達が歩を進めるたびに出現位置を変え、常に進行方向上にでてくるようになっていた。
「一部のものではわかっておるとは思うが情報のすり合わせと作戦を話すかのぉ」
全員の移動が開始して言葉を発した先代はそういい、全員の考えとこれからの意見が交わされることになった。
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「俺も、それには賛成だ。元よりそのつもりだったからな。だが、やつの仕留め方がわかってもやつをここに連れて来るにはどうするんだ?」
「それはもちろん考えておる。あやつ自身がが死んだと錯覚させればよい。思い込みは人間だけではなく神にも通用するものじゃからのぉ」
「さすが、片割れ。なんでもわかるんだな!」
「カカカッ! 死に体だけどのぉ!」
俺と先代二人だけ乾いた笑いで、他の皆の冷めた眼を受けながら目的地に向かう。
華麗に視線を受け流した俺は先代の先の三行で説明してた作戦の詳細、朱華と立花が精神世界で話していた内容と燐音の世界の説明を整理していた。
「……殺さずに殺すか……」
神を殺さずに殺す。矛盾しているようでこの行為自体は簡単であった。
というより、俺が神の思惑にそぐわないようにすればいいかの結論はこの死後の世界で閻魔をやっていたときにすぐに出てきたアイデアだ。
誰よりもこの考えを早く思いついた自負があるから同じ考えがあると嬉しい気持ちになる。
だが、問題は先代が言うように奴――享受のクソ神をこの死後の世界に連れてくるかだ。
先代は死んだと錯覚させればいいと言っているがそんなことは可能なのか。
考えが巡るが、ふと顔を上げると皆が先に行ってしまっていた。
つい、考えにふけっていたようだ。
「悪い、悪い考え込んでい、た……」
「どうしたの? エンマ?」
「い、いや、なんでもない。可能性の話だ。気にしないでくれ」
「? 変なの」
皆に追いつき、今さきほど思いついた自分の考えを否定したり肯定したりする。
……これならこっちの世界に奴を引き釣り込める。
思わずにやけそうになるがそれには協力が必要だ。
だから俺は――。
「聞いてくれ、皆。俺が奴をここに連れてくる。それには俺が生まれ変わってからもう一度死ぬ。その時に神を巻き添えにして死ぬことでそれが可能になると思うんだが、どうだ?」
「駄目に決まっとるじゃろ」
「アイタ!?」
先代に頭を叩かれ、思わず涙目になる。
そして、間髪入れずに、
「それはやっても最後の作戦じゃ。わしは言ったじゃろ? 神に死んだと錯覚させると。ワシが致命傷になった意味も、この傷をすぐに癒やさないのにも意味があるのにそれを無駄にするのかこのばか弟子!」
「ばか弟子!」
「バーカ」
「おい、朱華。燐音のはまだ便乗として許せるがおまえのはもう悪口だよなぁ!」
まったくすぐに茶々をいれる。だが、俺の馬鹿な考えを否定してくれて正直助かる。
最後の手段にするのは俺の中で決定しているが、先代がここまで考えて作戦を実行しているんだ。
それを無下になんてできるはずもない。
「俺がバカで悪かった。先代、あんたの作戦であの神をこの世界に引き釣り込んでくれ」
「カカカッ! 毛頭そのつもりよ!」
歩を止め、先代とコツンと拳を打ち鳴らす。
だが、歩みを止めるたびに電光掲示板の矢印の点滅は激しさを増し、苛立っているように見えた。
「やばいですよぉ~。私達が怒ってます~」
「で、そういえばどこに向かってんだ?」
燐音が焦り、わたわたしているのを見て俺は今更ながらの質問をする。
「それはもうすぐ見えてくるぞい。ほれ」
「……病院?」
眼前にうっすら見えてきたのは大きな病院のような建物。
とはいっても赤い十字のマークで判別するからであって、その本質は違うものだと知っていた。
「輪廻転生装置。そう呼んで。クフフフフ……」
「うぉ!?」
俺の声に反応するように薄暗い声が響く。
電光掲示板の矢印が姿を変え、燐音と同じ顔をした少女がそこに映し出されていた。
「……私はこの輪廻転生装置を担当する燐音。……ふへへ。よう、こそ兄さん達」




