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エンマ様はぶっ飛ばす  作者: 麦パン
輪廻の世界

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第四十一話 先代閻魔の思惑 ①

 「ウラララララララララッ!」

 「オラオラオラオラオラッ!」


 激しくぶつかり合う拳と拳の応酬。

あまりの速度にコロシアム内に衝撃波と突風が吹き荒れる。

天候を変えるほどの威力だが、それでも俺の攻撃はすべて先代の攻撃に相殺されている。


 「クソっ!」

 「どうした、どうしたッ!? それで全力か! 殺すんだよなぁ! ワシをよぉ!」

 「っるせぇ!」


 言葉では強がれるが、最初の敗北が痛い。

その御蔭で俺の体の中に鉛の塊が入っているように重い。


 だが、それでも。

先代から答えを聞くまでは倒れてられない。

死んでも地面に倒れることだけはできない。


 「うぉおおおおおおおおおお! オラオラオラオラ――」

 「気合だけじゃどうにもならんよ」

 「なに!?」


 その時、先代が飛び上がり、俺の連撃を避けた。

と同時にその拳に青い光が集中した。


 ――漫画やアニメでは拳に纏うオーラや超能力が具現化して戦ったりする描写が存在する。

それは空想の話であり、現実では決して実現しない。

 だが、この死の世界では考えたことがそのまま反映される。


 「それ、『拳撃』」

 「ぐっ!?」


 先代の拳から放たれるのは青い力の衝撃波、これも反映された結果だ。

俺はそれをなんとか両腕で受け止めた。


 「オラオラオラオラオラ!」

 「気力だけじゃわしには当たらんよ」

 「死ねッ」

 「元気な挨拶、じゃ、のぉ!」


 反撃で神速で繰り出し拳の殴打を繰り出しが、先代はまるで未来が見えているかのようにヒヒラと避け捉えきれない。


 「くそ!」

 「カカカッ! 避けるコツは酒じゃよ」

 「ふざけ――」

 「――ワシはいつでも真面目じゃ」


 のらりくらりと酔拳のように攻撃を躱した先代の言葉の終わりに放たれた拳圧。

それは先程の威力の比ではないほどの青い光のオーラと力が込められており、とっさに防御した右腕が使い物にならなくなった。


 「く、そぉ……」

 「ん? なんじゃ、座りおって。もう終いかのぉ?」


 まずい状況だ。

押されるだけで決定打も打開策もなにもない。

それに先代も気づいているのだろう。


 「んなわけ、あるかよ!」

 「遅い」


 とっさに振るった拳も先代には届かない。僅かに状態を反らされるだけで回避された。

だったらとっておきだ。


 「……踊るは神楽。騒ぐは閻魔――」

 「召喚術か! カカカッ! そんなもんすぐに打ち砕いてやるわ!」


 先代は身体を構え、両拳に青いオーラを纏わせる臨戦態勢。

それに答えるべく、俺は術を紡ぐ。


 「――そこのけそこのけ神輿が通る。鼓の音、龍笛は天喜ばす調べなり。舞い踊る姿は黄泉に伝える鎮魂歌。飲めや歌えや罪への償い。来い来い! ――閻魔神楽」」


 虚空から現れる巨大な金色の神輿。それを支える黒子たちとどこからともなく聞こえる祭り囃子。

素っ頓狂なリズムで神輿はそのまま先代へと突撃する。


 「ウラウラウラウラッ!」

 「――」


 これで、数秒は稼げる。その間に俺は――





*************************************





 元々、ワシは神の気まぐれで生まれた。

享受の神自身の身体を分割した存在、先代閻魔という存在であった。


 だから、この役職にも仕事にも不満なんてものはなかった。

淡々と魂の罪を仕分け、裁く仕事を続けた。

中には記憶の消去が不十分でワシのことや死後の世界のことを断片的に覚えているものが、現実世界にあることないことを伝聞したせいで死者からの恐れられたことぐらいが不満だった。


 しかし、そんな仕事をこなすのが本来の役割ではない。

享受の神を殺す。享受の神に死を享受させる。

それがワシの存在意義であった。

それだけが生かされる理由だった。


 何度繰り返してもワシは死ねなかった。

様々な死に方を経験した。

死者の記憶を読み取り、その死に方を模倣して、死後の世界で死のうとした。

溺死、焼死、毒死、電気死、失血死、圧死、爆発死、絞死、脳死など工夫を凝らした。


 死ぬことがワシの役目だったから。

死ぬことができれば神の意向に添えれたから。


 だが、それは叶わなかった。


 そのため必死に特別な力を持った神を殺せる人間の魂を探した。

何人も候補はいた。

聖なる剣の力を宿す魂、破壊衝動を抑えきれない魂、神を殺そうと藻掻いた竜殺しの魂なんかがそうだ。

 

 しかし、どれも閻魔という役職に耐えきれなかった。

何千年も、何億年も、何兆年も生き続けるということに魂が悲鳴をあげたのだ。


 故に難航した末に見出した八薙閻魔は逸材だった。

すぐに現代世界に干渉し、閻魔として育てさせるための工作を行った。

先祖に閻魔としての教育を施すように記憶を刷り込ませ、転生させた。

神の目的のために妹の立花も同じく死後の世界の管理人として設定し、死後の世界で育て、その先を見据える。

自身の半身であり、生みの親である享受の神の死を迎える光景を。


「わしは間違っているのかのぉ……」


 優しく、頭を撫で、二人が寝ている姿に気持ちが揺れ動く。

この世界で二人の兄妹を育て、一人前にするまでの時間を過ごした。

やがては二人は一部の記憶を消して、離れ離れになることだろう。

それを思うと胸が苦しくなる。

いつのまにか一丁前に人間の感情を宿してしまった。

だから考えた。


 ――神を殺してどうなる。

 ――神を殺させてどうなる。

どのみちこの子達兄弟は永遠にこの世界に囚われ続けるだけではないのか、と。


 だったら――


「開放せててあげるのが温情になるかもしれぬ……」


 兄妹に対しての小さな贖罪にしかならないかもしれない。

それでも。


 「お前さんらには幸せな人生を送ってほしい。――決して決められたレールで神を殺させるなんてことはさせぬよ」


 二人を蘇らせるために手段は選ばない。


 「ワシを殺させる」


 ――もうワシに迷いはなかった。


 「じゃから、もう少しだけ、この時間を」


 エンマの白い長髪を撫で、立花の頬を突付く。

寝入った二人は小さなうめき声を上げる。

そんな幸せな時間をもう少しだけ――




*************************************




 先代を殺すには必殺の一撃が必要だ。

そのためには時間を稼ぐことが勝利への必須条件。

だから、召喚術でもなんでも使って少しでも気を逸らし、力を溜めて、渾身の一撃を放つ。


 「少し、思い出話でもしようか先代!」

 「ちぃ! ウララララララッ!」

 「って、今は取込み中だったなぁ!」


 俺は先代を煽り、召喚術の設定を弄くる。

本来、一つしか出ない神輿を1000基ほど追加しておいた。

すぐには破壊しきれないだろう。


 「じゃあ、勝手に話すぜ、元々閻魔神楽っていうののは俺の体験からきてるんだ」


 先代の答えが無いのを知りながら話を続ける。

 

 「元々閻魔として育てられた俺は八薙家の次期当主だった。だから、当然祭事も多かった」


 記憶が映像として脳裏に駆け巡る。

煩わしい太陽の光と退屈なお囃子に神輿が担がれ、街をねりまわる人々の喧騒。

だが、その中に。


 「退屈だった祭事に飽き飽きしていたそんなときだ。神輿の上で着物姿の少女が舞を披露していたんだ。静止してから動き出すまでに、一切の無駄がない流麗な振る舞いに眼が奪われたよ。名前も知らない少女は巫女の代理で踊っていたと後で聞いたが代役の割に所作が完璧だった」


 もちろん、舞のすごさとかもしらない素人の感想だと付け加え、


 「それが神楽だと知ってから俺はそれを自分でもやってみたくなった」


 網膜に焼き付いた光景を再現するように、八薙家の屋敷で練習の光景が脳内で流れる。


 「だが、だめだった。全然うまくいかない」


 足さばきも、腕の振り方もダメダメだった。


 「その点、妹は筋が良かった。すぐに飲み込んで自分のものにしてしまった。それが悔しくてできたのが『閻魔神楽』だ」

 「これで最後じゃ!」


 ガンッ! という衝撃とともに俺の頬スレスレに神輿の破片が飛んできた。


 「で、話は終わりかのぉ」


 1000基はあった神輿も黒子も全員が先代にぶっ飛ばされて、最後にはチリのように消えていった。


 「んや、もうこれで終わりだ、先代」

 「…………? なんじゃ、それは」

 「言っただろう、『閻魔神楽』は悔しさでできたものだって」

 「ほぉ、じゃから『閻魔神楽』か」


 感心したようにうなずき、拳撃を放つ先代。

それを踊るように躱す。


 「見せてやるよ、練習の成果を」

 「避けれるようになって殺せるつもりか?」

 「あぁ」


 舞って、舞って、舞い続ける。

踊りは繊細に、そして大胆に動き、その動き全てに意味を見出す。

流れる水のように、燃え盛る炎のように、凛と佇む草木のように。

森羅万象をその身に宿しす。


 「――憑依」


踊りの果てに、生み出すのはかつての着物少女の模倣。


そして、組み合わせた必殺の一撃。


 「――閻魔殺陣神楽(えんまたてかぐら)


 戦いを極めた戦舞の奔流が、先代を捉えたのだった。

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