第四十話 先代閻魔様をぶっ殺す
燐音視点からのエンマ視点です。
「ど、どうしよ~!」
「かぁ、かぁ!」
慌てふためくのは朱夏の身体を借りた燐音ズの一人のお嬢様燐音と黒ガラス。
VIP会場には荒らされた跡が目立った。
食べかけのおにぎりと破壊されたベンチ群。
それは二人の閻魔が争った結果から生じたものだった。
幸いにもベンチで寝てる立花の身体には怪我も何もなかった。
「二人が喧嘩して、先代閻魔様が朱夏様を殺して? えぇ~、どうなるの? 私の身体ぁ~」
『元々お前のもんじゃねぇだろうが、クソ私』
「ほぇ?」
機械を通したノイズ混じりの声が響く。それは燐音ズの一人のヤンキー燐音の声であった。
ここは燐音ズの管理する塔であるため自在な変更が可能。そのため、VIP席には似つかわしくない拡声器の群れがニョキッと生えてきてそこから声が流れていた。
『……はぁ、まぁそんなことはどうでもいいんでやがりますよ。これから指示する場所に行け』
「え、なんで?」
『なんで? じゃねぇ! さっさと私達の元の身体といっしょにコロシアムの下にいけ!』
「は、はいぃ~!」
急かすようにヤンキー燐音はセレブ燐音に荒々しい指示をだす。
セレブ朱夏は人を抱え、階段を降りるドタドタという音に掻き消える。
「カ、カァ……」
『って、うわ! なんだまだ居やがったんですか?』
「カ、カ、カァ!」
『ククッ、そんな怒んじゃねぇですよ、朱夏』
「カ!?」
カラスは驚いたように眼を見開き、剥製のように固まる。
『大丈夫でやがりますよ、これさえ終われば全部丸く収まるんでやがりますから』
「カァ……」
『心配なら着いていけばいいじゃないですかねぇ?』
「カ……カァ……」
迷うように首を彷徨わせるカラス。だが――
「カ!」
揺るぎない意志を眼に宿し、羽ばたいてセレブ燐音に追従して飛んでいった。
『さて、勝つでやがりますよ、エンマ兄……』
少女の淡い願いはノイズとともに小さく呟かれたのだった。
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「元々、享受というのは【相手に何かを分け与える】って意味合いじゃない。【何かを受け取るり自分のものにする】って意味じゃ」
――言葉は遠く耳鳴りのように紡がれる。
「だからこその【享受の神】なんだが、その意味がわかるか?」
――流れる汗と肌を包むのは赤い赤い液体。
「【死】じゃよ。【享受の神】という所以は信仰者や外野が付けたもんでもなんでもねぇ、あいつが名付けた異名。自身が死ねるように。死を享受できますようになんて名付けやがったのが名前の由来」
「……どうでも、いい」
――返せるのはこの言葉だけ。自分にはもう力も根気も残っちゃいない。
「カカカッ! そうさのぉ……。お前さんは【八薙 閻魔】だったか? 閻魔の役職を受け取るためだけに名付けられた機械のような人生。それがお前さんの最後だ。そして、今もそうだ」
――うるせぇ
「どれだけ長い時間を過ごし、死者の罪を天秤にかけ裁き続けてもお前さんの未来は永劫に変わらん」
「――――」
――――
「妹も救えない。自身も救えない。あぁ、後は……」
―――それ以上、
「享受の神の言い成り通り、神を殺すことしか価値のない存在、それが八薙閻魔じゃよ、カカカッ」
「ふざけたこと抜かすなよジジィ」
――立ち上がるのに力や根気が必要か? そんなものいらない。いるのはシンプルな感情だけ。それだけでいい。
「――何度も言わせるなよ、お前をぶっ飛ばす」
「そんなボロボロの身体でどうするんじゃて」
俺の足は折れ、肋も何本か折れている。内蔵もぐちゃぐちゃにシェイクされている。
――負けた。それは完膚なきまでに。
先代閻魔がどれだけ力をセーブして師匠として振る舞っているのかをようやく理解した。
言葉では理解したくなかった。
先代が、ジジイが享受の神の片割れだという事実に。朱夏を殺したという凄惨な現実に。
自分のことは受け入れられても、大切な人の知りたくない真実には眼を瞑る。
「そんな腑抜けたことできねぇよなぁ……」
誰につぶやくでもなく、自分を奮い立たせるためだけの言葉。
拳を握り、寝転がって地面を舐めている現状を打破するために膝を立てる。
コロシアムのVIP席には燐音達がいる。俺達を止めることなんてしないだろうし、できないだろう。
死んだ朱夏の為にもこれ以上燐音たちを傷つけたくない。
「悲しませたくねぇよなぁ」
閻魔同士のぶつかり合い。閻魔という役職の性質上、普通は死なない。
だが、もし、同じ性質の存在が本気でぶつかり合うのならどうなるのか?
そんなことわかりきっている。
「ワシを殺すか、お前さんがくたばるか、そういう勝負じゃな?」
俺の考えを読んだように先代は拳を構える。
「はっ! 死んだら聞き出せねぇだろうが。死なずに話して、そして死ね」
「カカカッ! ガキみてぇな理論じゃが――いい目つきになったのう」
ボコボコにやられて、内臓も足も骨も折れていようが関係ない。
決意は決まった。覚悟も決めた。あとは宣言するだけだ。
「先代閻魔、俺はお前をぶっ飛ばさない」
呼吸を整え、意識を拳に巡らせ、構える。
痛みは気の所為だし、出血はきっと汗。そう思い込み、足に力を入れ踏ん張る。
すべての迷いはたち消えた。
「お前を……先代閻魔を! ぶっ殺すッ!」
「カカッ! ――掛かってこい、小童」
二人の閻魔の拳同士の衝突をもって、最終ラウンドの幕が開かれた。




