第三十一話 着物の少女③
(エンマ視点です)
「私の死因はね、私のクローンに魂を癒着させようとした過程で死んだんだ」
それは、俺が知っている過去とは違う答えに、驚きを隠せない。俺が駆けつけた時にはもう立花は死んでいた。そう、記憶している。何千年も生きる中で記憶が曖昧すぎる。だが、なんとかその記憶の奥底にある引き出しを引っ張り出す。
「……あの研究機関がお前を殺した訳では無い……ということか?」
「う~ん、そうだね。研究機関っていうのも違うかなぁ。私の所は宗教機関だったし」
「宗教機関……? あの、研究機関は宗教関連からも金を貰っていたり、政治家との癒着もあったりもしたが、宗教が主ではなかったはずだ」
「そこが、ミソだね。私は別の世界から来たということの証左かな。並行世界か、螺旋世界かで言うと――」
「――螺旋世界……か」
「そうそう! そうなるね」
腕を組み、思案する俺と相槌を打って指を指す立花。だが、話の飲み込めないだろうと思い、燐音にも話を振る。
「燐音。あんまり、わかんないだろうけど、この世には平行世界と螺旋世界の二つが――」
「知ってますよ? 兄さん。これでも、死者の魂を管理していたんです。記憶の精査などもしていましたから一通りの知識は“完全に”覚えています」
そうだ。忘れていた。燐音はなんでも覚えられる特別な人間であった。
「いや、それでも説明をさせてくれ」
「え? でも――」
「妹ちゃん。ううん、燐音ちゃん。ここはお兄ちゃんに説明させてあげて。きっと、重要だから。ぷぷっ」
「わ、わかりました兄さんお願いします」
首を傾げて、俺に向き直して話の続きを求める燐音。と妹の前で説明をしたかったという悲しき兄の体裁を守ってくれた半笑いの立花。感謝はするが、釈然としない。
「――笑わなきゃ素直に感謝するんだがなぁ……」
「兄さん?」
「あ、いいやこっちの話だ。気にしないでくれ」
「あ、はい」
「じゃあ、説明をするとだな。平行世界というのは燐音の知ってる通り、様々な可能性の世界が隣り合わせに存在し続ける世界だ」
「はい。そうですね。私以外の『ワタシ』は、その平行世界で死んでしまった別の可能性の『ワタシ』。ですから、このように沢山いるわけですし」
「そう。そういう事だ。――いやこれもう説明しなくても兄貴の威厳とか無いんじゃ」
「アハハハハッ!」
「笑ってんじゃねぇ!」
俺が小声で言ったことを声高らかに笑う立花。あとで、一発殴ろう。そうしよう。
「でだ、螺旋世界は文字通り螺旋に続く世界のことだ。正確には、二重螺旋構造に存在する世界のことだな。二重螺旋はお互いに影響し合う性質を持っている」
「影響……って?」
知ってるだろうに白々しく聞く立花。燐音は知っている故か、俺の話を真剣に聞いているのか無言の眼差しがなぜだか刺さる。
「……A螺旋とB螺旋があるとする。Aでは存在するものが、Bには存在しない。極端すぎる例で言えば、赤い太陽があるのA螺旋世界と青い太陽があるB螺旋世界がある。みたいな感じだな」
「つまりそのA螺旋世界とB螺旋世界の違いを六花さんの死因に当てはめるということですね。兄さんが知っている死因がA螺旋世界だとして、立夏さんの知っている死因がB螺旋世界ということですね」
「さすが俺の妹だ。よくわかってるな」
「……そんな事無いです。――えへへ」
「まって。この子超可愛い」
俺は自然と燐音の頭を撫でていた。横で、はぁはぁ悦んでいる変態女は無視するとし、話を進める。
「んで、俺たちの離しが食い違うから螺旋世界から自分は来たってことでいいんだな、立花」
「うんうん。そうそうそう」
「なんだその返事」
「可愛くない?」
「ない」
「ぺむ」
「だから、ぺむってなんだ。――もしかして、記憶がない朱華も言ってた言葉が実は意味のある言葉の可能性が……?」
小声で考えを言ってみたが絶対なんでもない言葉だ。気にするだけ無駄だと思考を止めた。
やはり、朱華と立花は似ている。それこそ、遺伝子レベルで。
「いや、そんな事はどうでもいい。螺旋世界からきたってのはわかるが、それがお前の過去となんの関係があるんだ?」
「おおありだよ。私の過去はエンマの知っている過去と違う。勿論、さっき言った死因が違うことからも明らかだよね」
「あぁ、そうか。でもそれじゃあ俺の知っている立花はどこにいるんだ?」
そう。表裏一体の螺旋世界ではお互いが影響し合う。それすなわち、眼の前の立花と別の立花――俺が知ってる立花がいることになる。
「う~ん。まぁ、輪廻転生はしてないけど、輪廻転生はしているというか、あの子自由だしなぁ……。あ、そうだ。燐音ちゃん」
立花が何かを思いついたようにポンッと手をを叩き、燐音に声をかける。
「はい」
「私によく似た女の子ってここに来てないよね?」
「ちょっとまってくださいね。――ピピピッ。はい、魂の記憶を全て参照しましたがありませんね」
「お兄ちゃん、否定してたけどその機械音は妹がロボ説っていうのに拍車かけるぞ」
「兄さん。それは失礼です。私はこれでもお尻にコードが生えてるだけの人間です」
「それ、ロボ……いや、兄ちゃんが悪かったな。ごめんな」
ぷんすかと怒る燐音を宥める俺と何故か一緒に宥めるふりをして妹を触ろうとする不届き者。
すぐに、その手を追い払った。すごい睨まれたが知らん。妹が燐音という毒牙に掛からないのが一番だ。ここでは俺が一番大人にならなくては。
わかったことは一先ず、俺が知ってる立花が、ここには存在しないということ。実質、目の前の立花とは世界線の違う他人同士ということになるが全然そんな感じはしない。それは立花の持ち前の能天気の性格が起因してるのかどうかはわからない。と、思考の海に入りかけていると、立花が着物の袖をめくってビッと指を指す。その方向は、VIP席の手すり部分に乗るカラス。
「それで、私の過去を話す前にそこのカラスさん」
「カァ~」
「ん? カラスがどうかしたのか?」
「その子の目はカメラの役割があるっぽい。時折、こっちを見てるし。ってことはそこから誰かが見てるってことになるんだけど……」
「!? ばか、お前そういうのは早く言わねぇか! もしかして、今まで誰かわからないやつに話を聞かれてたってことじゃねぇか!」
「――落ち着いて。兄さん。あのカラスは朱華ちゃんが出したカラスでしょ? ってことは……」
「あぁ! そうか。見てるのは朱華ってことになるのか。ん? それじゃなんで起きないんだ?」
俺は、ソファで寝かされてる朱華を見る。これが寝ているだけじゃなくて違う世界からカラスを通じて俺たちを見てるってことだろうか。それこそ、夢の世界から。それはなぜか。
「理由はわからないけど、多分あっちからの言葉は通じないっぽいね。一方通行みたい」
「カ、カァ!? カァッ~!」
答えが出ないままでいると、いきなり立花がカラスの口をこじ開ける。カラスは苦しそうだ。
咄嗟に止めに入る。
「おいおい、調べるにしてももっと別の方法があるだろ。やめたれ」
「あ、うん。ごめんね。カラスちゃん」
「アホォー」
「ごめん。やっぱもう少し、口の中開けて調べてやる」
「どうどう、ステイステイ」
カラスの口を開けて、調査仕出した時は驚いた。が、煽られたからって意地悪するのは良くないと俺は思う。動物は大事にしなくては。
「じゃ、憂いも晴れたし話を進めますか」
そういい、立花はどこからか取り出したフリップボードで自分の過去を喋りだした。




