第二十七話 燐音ズと輪廻転生装置(後編)
【断罪場】。名前は物騒だが、その外見は普通の近代的なコンクリート製の建物。
近づき、玄関に入るといきなり目の前が真っ暗になり、まばたきをするともう中に入っていた。その中はドラマの世界のような裁判所のような部屋だった。
「ほえ~、裁判所ってワープするんだ」
「えぇ! 最新の裁判所はすべてワープ移動が標準装備されてますわ!」
「……って、裁判所にそんな装備があるかいっ!」
「あひんっ!」
思わず私が漫才のように手を横に出して、ツッコんでしまった。いつもはボケなのに……セレブ燐音、恐ろしい子!
――ヤンキー燐音から、セレブ燐音に変わった瞬間、動きや仕草が変わった。
それは、性格的なものなのだろう。ヤンキー燐音がだるそうに歩くが、セレブ燐音は違う。
【ですわ】喋りで、髪を指でふわっとかきあげるような仕草。進んでいるのか、いないのかわからない歩幅の小ささで歩く。セレブのような所作。エレガントとでもいうのかもしれないが、私にとっては鬱陶しいというか癇に障るのだが。
……あれ、おかしい、どの人格の燐音ちゃんも好きだと思ったが、苦手な燐音ちゃんがいるなんて衝撃である。現在一番好きなのは、本体という意味のバニラ燐音。次点で、ヤンキー燐音。その他は保留で、セレブ燐音は好きというカテゴリからは除外されている。
「なにか、失礼な事考えていません?」
「ううん。ソンナコトナイヨ」
「えらく、棒読みですわね!?」
「いいから、案内続けて、どうぞ」
「あ、はい」
心が読まれたのかと思い、焦ったがそんな事は無かった。少し、ホッとする。
「ここは、先程も言いました通り【断罪所】。もう一人の“ワタシ”――朱華さんからすれば、ヤンキー燐音さんですわね。彼女が管理する【待機所】で、待たされた魂の罪を暴き、捌くのが仕事ですわ。あ、ここには魂は呼ばれないと来れないので、身体を乗っ取られるとかそういう心配は無いですわ! 安心してくださいまし!」
「ほうほう。――身体が安全圏にいるならよし。で、裁く場所はどこに?」
「丁度、私達から見て一番手前の証人席。あそこで罪人は裁かれますわ!」
「え? じゃあ、私達のいる傍聴席と他の席はどういう役割が?」
現在、私とセレブ燐音が傍聴席と呼ばれる場所に座り、セレブ燐音に説明を求める。
「えぇっとですわね……」
少し、言いよどみ言葉が詰まるセレブ燐音。
私の予想だが、最奥の席は裁判長が座るのできっとセレブ燐音がそこに座って断罪をする。だが、傍聴席と横二つの左から原告代理人席、右に被告代理人席。これらの意味とは一体。
あ、因みにこの裁判所の席の名前は全て【アマデウス】の権能で聞き出した。便利である。
すると、セレブ燐音は息を大きく吸い上げ、胸を張った。そして、
「正直言って飾りですわ!! ここはあくまでも雰囲気重視! ここは、【断罪所】であって、【裁判所】ではない。ですから、色々適当でも構わないんですわ~!」
「いや、それいろんな人に怒られるでしょ……」
「ここは、死後の世界。怒る人はだれも居ませんわ! でも、裁くのは私! 私が上! ですわ~!」
「もうそれ、独裁国家のレベルじゃん。いや、もう誰でもいいから本当。怒られろ」
こういう会話をしているとなぜだろうか。エンマやヤンキー燐音の気持ちが少しばかりわかった気がする。私はここで小さな発見をしたのかもしれない。
「あ、そうだ。捌き方と裁かれたらどうなるの?」
時間を置いて話を聞いてみる。あのままの流れで聞くと何かろくでもないことを言いそうな気がしたからである。
「……。聞きます?」
「あ、やっぱいいです」
すごい間があった。聞いたのに、思わず断ってしまった。なにやってるんだ、私。
「――裁き方は簡単ですわ。今世から、前世、さらにはその更に過去の前世前世でどんな人生を送り、どんな罪を犯したのかを魂の前で延々と語り続けますの」
「え、あぁ。私が断っても言うのね。というか思ってた以上に陰湿な裁き方なんだね」
「――そして、罪を自覚した時にはあの魂が立っている証人席の下がパカッ開きますわ」
「パカッと?」
「えぇ。パカッと」
なるほど。全容はわかった……気がする。
つまりは、魂に過去の罪を認識させて、しっかり罪を懺悔させてから穴に落とすと。
色々と聞きたいが今は置いておく。
「え? 開いたその先は?」
「――現世の世界ですわ」
「生まれ変わりってこと?」
「そういうことですわね」
意外、というかここで初めて私はここの輪廻転生の全容が見えた。
はじめに魂はエンマに殴られて、三途の川を渡る。そこで病院のような【待機所】で、それまでの罪に応じた姿、形を与えられる。その後、この【断罪所】で、罪を裁かれて、現世の世界に生まれ変わる。というのがこの死後の世界での輪廻転生。
「ということは、私もここで生まれ変わる……ってこと?」
「基本はそうですわね。でも、例外がありますわ」
「例外?」
「それは、『私たち』とお兄様。そして、あなたの存在ですわ」
「私?」
「えぇ。朱華さん。あなたは、人の形を保っていますわ。それはこの世界では異常なこと。生まれ変わるとしてもそれは歪な形で現れるかと」
「歪……、クローンの私は正しく生まれ変われないってこと……かぁ……」
「クローン? それって、一体……」
「あ、話してなかったね。私は朱華。って名前だけど、この体は立花って人のクローン人間なの」
「クローン人間、なるほど。それなら、人の形を保っているのも納得できますわ」
そういうと、彼女は腕に持っていたタブレットPCを取り出す。
そこには、いつものワチャワチャとしてる画面一杯の燐音ズの姿。
「おい。さっさっと代わってやれ! 『ワタシ』が喚いてるぞ!」
「さっさと代わりやがるです。もうここはギュウギュウで窮屈で苦しいです!」
「ふへへ。私はいつでも最後。それが私。へへへ」
「あ~、はいはい。今代わりますわ! ――朱華さん。あなたは私達と同じような存在。あなたは擬似的な並行世界の存在。ですから、もう一人のあなたがここの死後の世界に存在するがゆえにあなたは姿を保っていられるのですわね……」
「え? 擬似的な並行世界? もう一人の私? それって立花の事? でも立花はもう死んで……あ」
そう。そうである。死んでいるのならここに来ているはず。一体、立花はどこへ……?
「では、私はそろそろ『ワタシ』と代わりますわ! では!」
「えっ! ちょっとまって! まだ聞きたいことが!」
「――そういうのは私を倒してから聞いたらいいです! さぁ、さっさと付いて来るです!」
「――え? 入れ替わり速! どゆこと? ってうわぁーー――」
早着替えのようにセレブ燐音から、ロリ燐音に入れ替わっていた。そして、コードが無いと入れ替われないんじゃないの? とか、立花のこととか、聞きたいことは様々だったが有無を言わさず、ロリ燐音に手を引っ張られる。
「――はぁはぁ……、もう休憩しない? はぁ、はぁ」
「体力ないでやがりますね。しょうがないです。よいしょ」
「って、え? 私、担がれてる? 幼女に?」
「じゃあ、飛ばすです。舌を噛まないように気をつけやがれです」
「そういうのは走る前に言ってほしい~!」
風を切り、景色が視界の横に流れてゆく。そんな私は現在幼女頭の上に担がれている。
いや、引きずられていた。
「痛い! 痛い! って、痛くない……?」
「それは私がここの芝生を柔らかくしてるから痛くないのも当然でやがります」
「芝生を柔らかく……?」
「ふははははは! 話を聞きければ、私を倒して聞くがいいです!」
「さっきから意味わかんないんですけど!?」
――気がつけば、燐音とエンマが兄妹水いらずで喋っているあの外見が気持ち悪い塔に向かっていた。
「あ! ぶつかる!」
「ところがどっこい。そうはいかねぇんです」
あわや、塔の外壁にぶつかる既の所で、ふわりと身体が宙に浮く感覚を覚えた。
「さ! ロボットアームくん。上まで連れて行きやがれ、です」
「うわー!」
塔の外壁にワシャワシャと動いていたロボットアーム。それらが、ゴゴゴゴゴゴと轟音を響かせより過激な動きで、ロリ燐音とその頭の上に担がれている私を掴み、上に引っ張り上げていく。
「……何だあれ?」
塔の下には轟音に驚いたエンマが立ってこちらを眺め、呆然と立ち尽くしていた。
そこで、私は助けを求めようとしたがそれより先にロリ燐音が言葉を放つ。
「――こう言えばきっと勘違いしやがります! キヒヒヒヒ! この身体は私のもんです! 誰にも渡しはしねぇですよ! ――はら、朱華姉ちゃんも何か助けを求めることを言いやがれです」
「――え? お姉ちゃん……!? あいや、今は乗っておくか。――キャー 助けてーエンマ様― ……これでいい? 我が妹よ!」
「はぁ。落第です。二度と演技しねぇでくれますか朱華」
「あれ!? もうお姉ちゃんって呼ばれなくなった!?」
悲しい。小声で合図出してきたから乗ったのに。グスン。
――しかし、身体を奪い取るとか言って何を勘違いさせるのだろう。
考え込んでいる間にロボットアームによって上に引っ張り上げられて、辿り着いた先。
それは、塔の屋上にそびえ立つコロッセオ。
明らかに、土台の塔より大きいそのコロッセオは高さが10メートルぐらいは軽くありそうだった。
そこで、私はようやく地面に降ろされる。そこはコロッセオのVIP席。一番コロッセオの中が見える特等席。そこで、「少し待っていやがれ、です」といい、そそくさとロリ燐音の姿が消えた。
暫くして、どうやって来たのかは分からないが、コロッセオにエンマが現れた。
私は暇なので、VIP席から下の闘技場と呼ばれる昔の遣唐使が戦っていた場所を見つめる。
首からぶら下げるスマホには燐音本体の姿が映っており、兄妹で上がってきたということだろう。その目の前に小さな腕で腕組をしたロリ燐音。
「――さぁ、来てみやがれです」
「ちょっ! なんだ! 説明してく――!?」
唐突にそんな言葉をコロッセオに響かせ、ロリ燐音は颯爽と駆け出す。そのとき、エンマは話を聞くために追いかけようとした。しかし、それは叶わなかった。
なぜなら、その目の前におびただしいほどのマネキンがエンマとスマホの中の燐音を取り囲んだから。
「――姫様を助けてみやがれ、兄い!」
そう叫び、いつの間にかVIP席で下を覗く私を指差し、その短い手を私の首筋に当てた。え? 手刀……? なんか当てられ?――。
「朱華―っ! お前は! 朱華に何をした!」
叫ぶエンマとは裏腹に、
「私とそのマネキンを倒してたらこの姫も意識を取り戻しやがります。さぁ、かかってきやがれです――あ、ちょっと、朱華。今は眠ってるのが大事でやがりますうよ?」
「なんか……また気絶するのデジャブを感じる……ガクッ……」
小声で何か言われる私。コロッセオのVIP席で倒れ込む私。意識はぼんやりとしてゆき、案外首筋に手を当てただけで気絶するのだなと要らない知識を身に着けた。
「――さぁ、マネキン共、溜め込んだ魂の罪をぶっ放しやがれ……です!」
物騒な言葉を隣で聞いて気絶するのは嫌だなと、感じながらも私の意識はすぐに瞼の裏の世界に消えていった。




