第二十六話 燐音ズと輪廻転生装置(前編)
口調が悪い通称、ヤンキー燐音が賢明に施設を案内する中。
私はもう聞き逃さないように真剣に聞いていた。そう、至って真剣に。
「輪廻転生装置というのはいうなればあらゆる転生の処理が個別に行われてる複合施設だと思ってくれればいい。――そう思ってくれればいい」
「ふんふん、フガフガ」
「……」
「……? なんだいフガ。ぜんぜん説明を続けて貰って構わないフガよ?」
――ヤンキー燐音の様子がおかしい。すんすん。急に言葉が止まってしまった。どうかしたのだろうか。フガ。
「――さっきから」
「フガ?」
「――さっきから顔が近いし、私の髪の匂いを嗅ぐんじゃねぇ! ボケェ!」
「あっふん! ――ありがとうございます!」
放たれた平手の一撃はヤンキー燐音(身体の持ち主は燐音)の髪を嗅いでいた私の頬の芯を完ぺきにとらえ、私は横方向に吹っ飛んだ。
「おい! そんな強く殴ってねぇぞ――ってえぇ、なんでぇ……」
――しまった。ヤンキー燐音が引いている。ついぶたれた時に心の声が漏れてしまった。
私は燐音が好きである。この短い邂逅の間に私は燐音を妹のように思えて仕方がなかった。いや、違う。こうなんとも愛らしい愛玩動物のような感覚があるのだ。
「おぉーい」
でも、この愛らしさを表に出すことは私のお姉ちゃんポリシーに関わる。さっき少し出てしまったがそこはノーカン。私は燐音を愛しているだけである。
「あ~、なんかトリップしてんな。もう聞いてるかわかんねぇけどよぉ。離し続けてもいいか? ――いや、髪を嗅がれる前に続けておくか」
愛しているからといってその欲望が暴走してはならない。これはYESロリータNOタッチと世間でも言われている格言の通り、私は感情を抑制した。その結果が急接近からの髪を嗅ぐという行為に至ったのだ。
「この輪廻転生装置で私が担当するのが【待機所】。見た目も中身も病院そっくりの施設だ。ここで三途の川から飛んできた或いは、川から這い上がってくる人魂達。それらに人魂の罪の形に合わせた実体を与える。罪が重ければ醜い姿。罪が軽ければ清い姿でいられる」
だが、嗅いでしまったことは駄目だったと思う。急に近づいて嗅ぐなんて変態そのもの。罪は重い。よって、私に科せられる罪はそう死刑である。でも死刑と言われても私――
「そして、次の法廷そっくりの場所、【断罪所】罪が裁かれ、次の命に宿る裁定をする場所。そこに行くまでの待ち時間はひたすら己の罪の形に合わせた実体を見て罪を自覚させる……というのが私の担当する施設だ」
「――なんて! もう死んでるんだけどね! アハハ」
「……という感じだ。わかったか?」
「ふぇ? もう一回いい?」
「いいわけねぇだろボケェ! って、殴ると喜ぶんだな。アブねぇアブねぇ」
「あ~ん。いけずぅ~」
「気持ち悪い声出すな! あぁ~、本体のワタシかクソ兄貴! どちらでもいいから助けてくれぇ~!」
説明を全く聞こうとしない私の対処を諦めている姿も大変可愛い。
その諦めているような姿はいつの日かのエンマの姿と似ていたので、やはり兄妹なんだなと再確認することができた。
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「あれ? 【待機所】の中には入らないの?」
「――あぁ、気づいたか。どの施設も入れるが今は入れねぇんだ。お前――朱華と私の身体があるからな」
「……? 私と燐音ちゃんの身体? 何か関係あるの?」
「大有りだ。前提としてまず、“ワタシ達”燐音は身体のケーブルを使ってだが自由に行き来できる。別の世界線に存在してただけで同じ存在だからな。ここまではいいか?」
「あ、そこは説明してくれてた燐音ちゃんとの話が途切れてたのであんまわかんないです先生」
「――あーはいはい。でだ。私達が身体の中の魂を行き来させれるってことは、他の魂も行き来できるってことだ」
「あれ? もしかしてさっきのこと怒ってる? スルーされちった」
「怒ってない。てか、話の腰を折るんじゃねぇ!」
「わぁ! やっぱ怒ってるぅ!」
「怒らせたんだろが!」
いかんいかん。また、茶化す癖が出てしまった。
つまりだ。燐音の身体は誰でも魂が入れてしまう状態にあると。
それは理解した。あれ? 私は? 関係なくね? そう思っていると、頭に手を当てて呆れるヤンキー燐音。
「はぁ。朱華。あんたのその身体は人魂とは違って、人間の姿かたちを保っている。私があんたの罪を具現化して姿かたちを変化させたわけじゃないから、怪物の姿でもない。だから、変な気を起こした人魂に身体を乗っ取られる可能性がある。だから、今は【待機所】に入れない。OK?」
「OK! OK! 超完璧ネ!」
「本当だろうな……」
そういえば考えても無かった。青い炎のような人魂。あれが人間の魂。であるなら私は姿かたちのある人間のままこの世界にいる。それはどうやら不思議なことだったようだ。まぁ、クローン人間であることからも自分自身が不思議な存在ではあるのだが。
と、そこで、ヤンキー燐音の持つタブレットPCから、甲高い声が聞こえる。
「次は私! 私が担当してる【断罪所】を紹介いたしますわ!」
「狭いんですよ! もう少し詰められねぇんですか!」
「フヒヒ。この圧迫感も素敵……」
画面の中では基本同じ顔だが、口調の違いや若干の顔つきの違いのある燐音ズが声を上げていた。一番声を上げていたのはお嬢様口調のセレブ燐音。狭がっているロリ燐音。なんか悦んでいる陰キャ燐音の3人。
「あぁん? もう、身体を代わりたいのかよ、“ワタシ”」
「えぇ、“ワタシ”。変わって説明して差し上げたいですわ~!」
「仕方ねぇ……順番は守らないとなぁ」
「ありがとうですわ!」
渋々、身体をセレブ燐音に渡す事を決めたヤンキー燐音。
案外、身体の入れ替えが簡単なもので、タブレットPCと燐音のお尻から生えるコードを繋げて少し時間を待てばそれだけで入れ替わりできる。
「……うぃーん。ガシャン。――っていうの本体がやってたが私もやらないとだめか……?」
「え? 可愛いからやってほしい!」
「じゃぁ、絶・対にやらねぇ」
「そんなぁ~」
たいへんいけずなヤンキー燐音ちゃん。そこがいいと私は思う。コードを繋ぎしばらくすると、先程までの全体的にけだるげな動きのヤンキー燐音とは一変して、セレブ燐音はキビキビとした動きで喋りだす。
「さぁ! 朱華さん! 私の担当する所は隣の【断罪所】! 素晴らしいところですのでぜひご覧になって!」
「えぇ、ちょちょ!」
突然手を取られて、転びそうになるがなんとか耐える。
やはり、燐音ズは顔が同じというだけで性格も行動もぜんぜん違う。
直感的には苦手かもしれないが、その可愛さは100億点なので何でもいいかなと思う。
――そして、案内された【断罪場】。その外見は【待機所】の病院そのものの形と、似たように現
実の世界の施設を模倣してある。
【断罪所】は法廷所のような厳かな見た目をしていた。高さは何十メートルもありそうだ。
私が断罪所を見上げていると、
「この【断罪所】が私の担当する所! ここにきた悪人どもを成敗するのですわ!」
そう元気よく叫ぶセレブ燐音は元気なお嬢様という感じがありありと感じられ私の目の保養になったのである。
だが、それは後に姿だけであるということを知るのは少し後のお話……。




