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エンマ様はぶっ飛ばす  作者: 麦パン
閻魔の世界

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19/50

第十九話 学ぶことは大事だが、気づくことはもっと大事(後編)

 小型船は緩やかな速度を出すが、その行き先は芳しくなかった。


 変わらない景色。向こう岸の光景すら見ることが出来ず、エンマが泳いで気がつけば私の後ろに立ったように、船は元いた位置に乗り上げる形で坐礁していた。


 「うん。駄目みたい」


 「駄目、そうだな」


 私とエンマが頑張って覚えた船の操縦技術も、燃料とバッテリーが入っていなかった船を直した時間は無駄になった。


 「まぁ、気を取り直して次行こうよ! エンマ!」


 「そう、だなぁ。次、次がある」


 歯切れが悪い。それもそうだ。こうしている間にも向こう岸にいる輪廻転生装置で死後の世界を管理し続けてる妹がいるのだから。


 その状況を今まで知らなかったが、それを知ってしまったから反動が来ている。船の操縦席に座るエンマの足はガタガタと貧乏揺すりで揺れていた。親指の爪を噛み、俯いてなにかを考えている。


 私は普段の顔、怒っている顔、酒で赤らめる顔、泣いている顔。どれも見てきたが今は焦り、落ち着かない表情と行動をしていた。明るく声をかけるがその返答は生返事なものばかり。


 「――また、沢山用意してどうしたんじゃ? 昨日話してた向こう岸に渡ろうとでもしてたのかのぉ」


 今は精神的に良くないと思い、船から降りて気分転換でもしようとその足取りのまま帰路につこうとした時、エンマの家の方向から聞き慣れた声が聞こえた。


「あぁ、爺さんか。今さっき、渡ろうとしてなんとか船を動かしたところなんだ。駄目だったがな。ハハ」


 乾いた笑いを零す、エンマ。だが、そこで先代の言葉は続く。


「そうかそうか。まぁ、手で漕いで行けないなら、そこの船動かしたらええじゃろ」


 先代は私達が降りてきた所を見て無いらしく、先程までエンマが操縦していた小型船に向かって顎をくいっと動かし指し示した。


 手で漕いだなんていっているが、船は燃料とバッテリーがなければエンジンはかからずに進むことが出来ない。


 先代はなにもわかってない。私達がどれだけ頑張ってこの船を動かしたかを。あんな重い船、動かすのに手で漕いだぐらいで進むわけが無い。


 ――ん? 手で漕ぐ? なんか引っかかる。そうか。その手があったか。だが、これは。


 「ハハハそうか。朱華。俺ら、更に時間の無駄になった事実に気づいたぞ」


 「偶然。いや、お爺ちゃんに言われるまで気づかなかった」


 エンマと私は声を揃えて叫ぶ。


 「「最初から手漕ぎの船で試しておけばよかった!」」


 「――ふむ。なんとなくじゃが、お前さん達バカじゃろ」


 その、言葉は二人の心に深く突き刺さり、私達がすごい遠回りしていたことを教えてくれた。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




 気がつけば、三途の川の川辺の芝生には全員揃っていた。私――朱華とエンマ、半日眠りこけて起きたばかりの先代と、姿が喋れない方のケルちゃんは秋田犬バージョンである。


 「――で、手漕ぎの船を使わずに、わざわざエンジンのついてる小型船に乗って確かめた……という認識でええのかのう」


 「そうです」


 「まぁ、そうだな」


 「改めて、馬鹿じゃのう、お主ら」


 いつも流れるこの死後の空気は生ぬるく、気持ちのよいものではないがこの何とも言えない気まずさよりはマシだった。


 せっかく、動かす方法を画策したのに取り越し苦労であった。むしろ、しなくていい苦労であったことは言うまでもない。


 船で行けるかどうか試すだけなら、エンジンをわざわざかけなくても手漕ぎの船で行けば良かったのだ。


 「エンマ、次。次だよ。泳ぎで行けないなら気を取り直していこう。あ、あの船なんかどう? アレで試せば行けるかいけないか試せるんじゃない?」


 「おう! そうだな。あの手漕ぎのボートで行けばなんとか行けるかもな」


 「お主ら、無かったことにしてテイク2を始める気か?」


 「さぁ! やってみようエンマ!」


 「そうだな! 朱華! やってみないとわかんないもんな!」


 「あ、聞こえないふりしたのぉ」


 「わふっ!」


 私は、何も聞こえていない。聞こえていないったら聞こえてない。


 泳ぎが駄目だったんだ。次は三途の川に並べた様々な乗り物に乗っていくしか無い。


 ――そう、最初は船がいい。エンジンをかけるのに苦労せず、扱い方を勉強せずに行ける手漕ぎの船が一番検証には持って来いだ。


 「よーし、行くぞ、朱華! 乗り込め!」


 「あいあいキャプテンっ!」


 「全く、アホ弟子は……。なぁ、ケルちゃん?」


 「わふっ! がぶぅ!」


 「なんで、その姿だけは噛んでくるんじゃ!? 痛いのぉ!?」


 離れていく三途の川の岸辺では何か悲鳴のようなものが聞こえた気がした。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 「アレも駄目、これも駄目。どれなら行けるんだ?」

 

 「う~ん」


 エンマの言葉に私も首を傾げ、悩む。


 ――あれから何故か腕に犬の歯型を付けた先代の元に手漕ぎの船は舞い戻った。やはり、船の種類が違っていても戻ってくるということはわかった。


 そのあと、水上飛行機を試そうとしたが落ちると万が一の危険があるということで断念。死んでいるし、高さで死ぬことはない(少なくともエンマは)らしいが、この三途の川は違う危険があるという。


 入るのはいいが、川底に落ちれば大罪の重さで沈んでいる魂。それこそ、川底の岩のようにごろごろ転がっているらしく、その悪意や罪の意識に持っていかれる可能性があるからだそうだ。


 「忘れ物センターでも思ったけど、ここ危ないモノや場所が多くない?」


 「まぁ、死後の世界じゃからのぅ。危ないものには蓋をしておけとでも言わんばかりにここには流れ着くからなぁ。カカッ!」


 笑い事ではない。恐ろしい場所である。が、そこに慣れてきた。慣れって怖い。


 「落ちる危険があるからってドローンを飛ばしても駄目だったし、水上で動く船のラジコンも駄目だったしなぁ……」


 私は失敗を語る。飛行機が駄目なら、とエンマに頼み亜空間から出した無人ドローン。

これを試行錯誤しながらなんとか操って動かすがやはり、元の位置に戻ってきてしまう。


 ドローンにはカメラもついていたが何も映らず、向こう岸の情報すら得られず舞い戻ってきた。水上用の船のラジコンも同様の結果であった。


 「うし、こういう時はあれだな。気分転換だ」


 あれこれ悩んでいた私とエンマ。それと芝生で寝転び、いやケルちゃんと噛む噛まれないの戦いを無視して、エンマは胸の前で手を合わせる。


 それは、エンマが酔っていた時にやっていた召喚術。先代はバカでかすぎると言っていたがその実態までは聞いていなかった。


「エンマ、それって召喚術の構え?」


「おぉ。ジジイに聞いたのか。そうだ。これはちょっとしたモノを呼び出す代物でな。この憂いの気持ちを晴らしてくれるモノだ。まぁ、見てみ」


 そう言うと、エンマは私にもう少し下がっときなと手で合図を送り、素直に下がる。

そして、エンマの召喚術の詠唱が始まる。右手と左手のそれぞれの親指と人差し指で大きな輪っかを作りそれを前方に突き出す。


 「じゃあ、行くぞ。《――踊るは神楽。騒ぐは閻魔。そこのけそこのけ神輿が通る。鼓の音、龍笛は天喜ばす調べなり。舞い踊る姿は黄泉に伝える鎮魂歌。飲めや歌えや罪への償い。来い来い! ――閻魔神楽》」



 エンマの目の前の中空に黒い穴が出現する。そこから、祝賀会で見た大きな金色の何かが姿を表す。


 金色の美しく輝く神輿。私が見たのはその内のごく一部だったのだろう。

正確にはわからないが、2メートルは遥かに凌ぐだろう。装飾も派手で、目眩がするほどのゴテゴテの装飾。龍や鳳凰やらが付いている豪華絢爛の神輿であった。


 ただ、神輿だけが浮いているわけではなく、その下にはちゃんと大人数の人が支えていた。数は20人ほど。

 

 顔を見られないように立ち回る劇等でよく見る黒子の格好を全員がしていた。さらにその格好に加えて白い法被を着ているのだから物凄いちぐはぐな姿に見えた。


 「な? すごいだろ?」


 「すごいけど、何これ?」


 そう、何これである。わからない。気分を上げるためとは言えこんなものを出すなんてと驚き半分、呆れが半分で考えているとふと、あの時の先代の言葉を思い出す。



 『ふざけた召喚術が出来た』とそう言っていった。それに、『バカでかいから室内で出すな』とも。


「なるほど、先代はこの事を言ってたのか……」


 酔っていたとしてもこんなものを出すなんて確かに馬鹿げている。先代の言葉の意味を理解し、納得した。


 だが、私の気持ちとは正反対にエンマは出てきた神輿と一緒に「わっしょい! わっしょい!」と若干楽しそうだ。


 そして、これだけ祭り感を出しておいて祭囃子を忘れてる――と思っていたがそれも聞こえ初め、その神輿を担ぐ黒子とエンマの声。やんややんやと騒いでいる。


 そして賑やかな祭囃子を聞くだけで死後の世界だということを忘れてしまうほどこの瞬間だけここはお祭り会場とかした。


 これがエンマの憂う気持ちの解消方法なのだろうか。そう考えていると、その神輿の上には法被を着た黒子ではない存在がいることに気がつく。


 「すごいはしゃいでる……、さっきの顔とは大違い――ってあれは?」


 黒子たちのように男のようには見えない。狐のお面を被り、シンプルな赤い彼岸花の柄の着物を着た美しい女性に見える。


 仮面の後ろから伸びる長い黒髪を揺らし、扇子を使い魅せるように踊る。それは、神輿の豪華絢爛さに負けない美しい踊り、神に捧げるような神聖な雰囲気をもつ踊り、神楽であった。


 召喚の口上に出てきた『閻魔神楽』。閻魔――エンマが作ったから閻魔神楽。なるほど。そのまんまの意味だ。


「確かに、すごいけど」


 凄い。たしかに凄い。のだが、


「どうすんのこれ? 乗ればいいの? 踊ればいいの?」


 答えをくれるものがいないまま私はエンマと神楽と神輿とともに祭囃子の喧騒に飲まれていった。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「行けるか? 行けるか? えー!? これは行けると思ったのになぁー!」


「俺も期待は持ったんだが駄目か……」


 私とエンマは今、エンマが召喚術で出した【閻魔神楽】その神輿の上に載っている。そのテンションは先程までとは違いだだ下がりである。それを煽るように、祭囃子が私達の心情をかき乱す。


なぜかと言えばこのまま三途の川を渡れるんじゃないかという祭りの雰囲気に当てられ、興奮した私が発案したことだからだ。


 しかし、これも無策ではない。ちゃんと理由があるのだ。


「この神輿を担ぐ黒子さん達の足がほんのすこし宙に浮いてたんだ。だから、行けると思ったんだけどなぁ」


「まぁ、仕方ない。次、はもう無いのか」



 ちゃんとした理由ではあるが、絶対に行けるとは私も思っていなかった。だが、もう乗り物が無いのだ。だからこそ、明るく茶化したがエンマは落ち込んでいた。


 色々試して、やることはやった。いろんなパターンも試した。そこで、行けるかも知れない事も考えついた。


 「――私だけが乗り物で行くっていうやつなんだけど」

 

「いや、やはりそれはできない。帰ってこれる保証がない。さっきも言ったが、朱華は死者だ。そのままこっちに戻れずに輪廻転生するのがオチだろう」


「なんだよね~、どうしよ」


 そう、私だけが行くという選択肢。これがあるのだが使えない。それがもどかしい。

エンマが操作するもの、運転するものや関わっているもの(私が無人で動かしたドローンや水上ラジコン含め)はすべて駄目だった。


 だから、私単身で行くという案を出したがこの通り、死者の身であるが故、戻ってこれずに転生するような自体になる。全然無い話ではない。


 ――むしろ、可能性が高い。私は別にそれでもいい。新たな人生を歩めるなら。


 でも、まだエンマになにも返せてないし、それはいくらなんでも情が無さすぎる。私は最後までやると決めたらやる女、朱華である。


 そうこうしてると、体中を噛まれて何故か満身創痍になっている先代がぜぇぜぇと駆け寄る。


 「イテテテ。――あの犬っころにかかわると碌な目に合わんわい。で? なんかワイワイ騒がしかったが進展はあったかの?」


 「それが――」


 「――まぁそりゃ無いじゃろうな。知っておったわ」


 エンマは俯き、私が代わりに喋り終える前に、先代は私の声に被せた。

私が理由を聞こうとしたがそれを待たずに先代は、


 「じゃあ、行ける方法を教えてやろうか? ワシはこう見えても先代閻魔。知見は広いんじゃぞ?」


 そう、提案してくれた。でも――何かがおかしい。いつもの先代の顔なのだが、その琥珀色の鋭い目つきがいつもより鋭いような。そう感じた時に咄嗟にエンマは私の前に庇うように立つ。


 「朱華、下がってろ」


 「え? え?」


 「いいから! あと、ケルちゃんも! 離れろ!」


 「わふぅ!?」


 ケルちゃんと私はエンマの怒号に従い、はるか後方へ下がる。


 先程までの様子とは明らかに違うエンマと先代。あの忘れ物センターの地上部分で楽しそうに喧嘩していた時とは全く違う、重くて潰れてしまうような剣幕の二人。


 エンマはその目を鋭く、先代に睨みつけ、先代も同じように睨み返す。

赤い目と琥珀色の目。交錯する視線は威嚇し合う獣のよう。


 理解が追いつかない。急にどうしたのか。二人共様子がおかしい。


 「エンマよ。ワシは先代閻魔じゃ。色々知っておるし、色々できる」


 「あぁ、知ってる。教えてもらったからな。それに、その顔喧嘩がしたいって顔じゃねぇよな。ジジィ。いや、師匠。あんたのその目あの神を恨む目にそっくりだ。――本気でやるつもりか?」


 「そうさのぉ。そのつもりじゃ。ワシを倒してお前さんにここを渡れるとっておきの方法を教えてやる。師匠の最後の土産、つまりは冥土の土産と一緒にのぉ。――このワシが享受の神であるということを!」


 一瞬の静寂。その告げられた内容は私もましてやエンマには到底受け入れられなくて。


 「――ッ! ふざけた事を! 爺さんがあのクソ神? そんなの。そんなのをよぉ……認めて堪るか!! クソッタレ!!」


 衝撃なことを告げた先代が一歩踏み出し、それに動揺し少し遅れて動くエンマ。


 二人の一歩は死後の世界に轟音と突風を生み出した。笑いながら拳を振る先代と顔を結がませ拳を振るうエンマ。


 それを私はただ、呆然と始まってしまった戦いを眺めていることしか出来なかった。

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