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エンマ様はぶっ飛ばす  作者: 麦パン
閻魔の世界
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第一話 私と青い炎とヤバい人

「オラオラオラァ!」


――声と拳がどんどん迫ってくる。


 眼の前の青い炎達は次々に三途の川の対岸に殴り飛ばされていく。

一つ、また一つと。私の目の前の青い炎の列が減っていく。

青い炎が全て殴り飛ばされた頃遂に目の前に現れる男。


「次はお前か?」


「ヒッ!」


 私はこの時いや、記憶が無いのだからこれが最初で最後だと思った。

一度は使うだろうあの願いを今すぐ叶えてほしかった。


「――こんな怖い思いをするなら、せめて別の死後の世界のほうが良かった……!」


 心の叫びを叫び、私は死んでから使う最初で最後の一生のお願いを神様に願った。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※





――数分前まで時間は遡る。


 温かいようで寒いような空気。ぬるいと表現すべきか。

雲は太陽を隠し、空はくぐもった黄金色に染まっていた。

私は体に倦怠感を感じながらもムクリと上体を起こす。


 「ここは?」


 そう言葉を零しても宙に消えるだけであった。

鼻を擽る香りは芝生の香りで少し青臭い。

でも、懐かしい匂いである気がした。覚えてはいないけれどきっと懐かしい匂いのはずだ。多分。きっと。

辺りは何も無いだだっ広い芝生が眼前に広がる。遥か遠くに見えるのはわずかに光る存在だけ。何かは分からないがこの世界を知るヒントになるかもしれない。


 「聞いても無駄なら確かめるしかないか。よっと」


 起こした上体を再び、芝生につけ、今度は下半身を起こしその反動で起き上がる。

ぐにゃり。ぐいっと起き上がった際に顔には何か柔らかいものにあたった。


 「え? なんだろう?……これ」


 フヨフヨと浮いているソレの感触はマシュマロのように柔らかいものだった。

ゆらゆらと揺れ動きながら、浮遊している存在。

私がツンツンと突くとソレは大きくなり、轟々と燃え始めた。

けれど、熱さは無くむしろ冷たいぐらいであった。

 よく見れば薄く『人魂』という文字が刻印された青い炎は空中で静止していた。


 「え? これ魂なの? すごいぷにぷにだぁ」


 好奇心に負けて数分ぐらい触ったり、揉んだりしたところでふと考えてしまった。

もしもである。この人魂に意識があったらいきなり体を弄られているような状態なのではないか、と。


 「ご、ごめん! ……あのお、怒ってますか?」


 とにかく、真偽は分からないが謝るだけ謝って反応を見る。

……若干燃え盛っていた炎が収まっている気もするが時間経過によるものなのか謝罪を受け入れての反応なのかは定かではない。


 「ふぅ、落ち着いてくれたの、かな? ――にしても、なんにもないなぁ、ここ。多分死後の世界ってやつなんだろうけど」


 人魂が存在するとなるとここは生者の住む世界では無く、死後の世界というのは確かだろう。何よりこう形容できない生気がないというのだろうか。不思議な感覚がこの世界から感じられる。

だだっ広い芝生と薄暗い世界。生暖かい空気が体を包む。

梅雨の時期の湿度の高いねっとりとした空気が一番近いかも知れない。

記憶を思い起こそうとするズキズキと頭が痛む。

だが、すべての記憶が失っているわけでもないようだ。

物事の名称や呼称などは覚えているので、自身のことがわからないならいずれ思い出すだろう。そこまで考えて最初のこの世界での記憶を思い出す。


上体を起こした時にわずかに見えた光。とりあえずそれを目指してみることにする。

思考に耽っていると先程まで近くに浮遊していた人魂が姿を消していた。


 「あれ? どこいったんだろう? あ、あんなとこまで!」


 気がつけば、歩いて数十分の位置まで移動していた。ふよふよ浮いているように見えていたから遅いと勘違いしていたが動くときは速いのかもしれない。いやでも、動くとしてもどこへ向かっているのか。方向を見ると目的地である光の方向へと向かっているようであった。ならば、僭越ながら同行させてもらうことにする。


 「ちょっと、待って! 私も行く!」


 聞こえているのかは分からないが一応宣言をしておく。こうして、人魂と私の知らない場所への徒歩を試みることにした。


 「――ぜぇ、はぁ」


 歩き疲れて息が切れる。ここに空気が存在するのかは分からないが肺が酸素を求めているので息を思いっきり吸い込む。ふぅー、何度か深呼吸をすると楽になる。


 「はぁ、はぁ。な、長い……。思ったより長期戦だぞ、これは……」


誰に伝えるでもないが言葉を漏らすのは独り言を漏らす性分だからか、それとも孤独を紛らわすためか。――そんなことを考えてるうちに目的地である光る物体が見えてきた。

何時間経過したかわからないが達成感がこみ上げてくる。


「くぅ~! 着いた!」


一緒に同行していた人魂はある場所で停止した。

それは何百、何千とある光の塊の群れ。私が見ていた遠くで光る物体は人魂だったのだ。

その最後尾に眼の前の青い炎で形成された人魂は並ぶように停止している。


「なにに並んでるんだろう?」


列の奥の方を見るために背伸びをして覗く。すると、その先頭らしき場所で眼の前の人魂と同じに見える存在が遥か宙空を舞っていた。


「え?」


空を舞っている。それは理解できるがなぜ舞っているのかはわからない。


「オラオラオラオラオラオラオラオラァ!」


 声が聞こえる。


 「オラオラオラオラオラオラオラオラァ! まだまだ! オラオラオラオラオラオラオラオラァ!」


 その低く、ドスの利いた低い声が世界に響き渡る。そのたびに人魂一つ、二つ、軽く百は超えていた。次々と打ち上がる人魂。

先頭にいたのは両腕を激しく前に突き出し、宙に打ち上げる男。

長く美しい白髪は腰の後ろまで伸び、その長身はガタイの良さを際立たせていた。


「さぁ、――ぶっ飛べ!」


 列の最後列にいた最後の人魂が飛ばされるまでそう時間は掛からなかった。が、あまりの光景に私は開いた口が塞がらなかった。暫く呆けていたが口が乾いてきたのに気づき現実に引き戻される。


 こちらの存在に気づいたのか、男は振り向ざまにこう言った。


「次はお前か?」


 その真紅の目つきは鋭く、私を見つめる。――正直すごい怖い。

Tシャツにジーパンの格好というところに恐怖を感じているわけではなく、純粋に次に殴り飛ばされるのは自分だということに恐怖していた。

そして、男が訝しげな表情を浮かべ近づいてくる。私はきっと怯えた小動物のような表情を浮かべていることだろう。


 ふっと意識が飛ぶ。恐怖によるものか。いや恐怖によるものしかないだろう。

失われる意識の間で、男のTシャツにデカデカと書かれた『閻魔』という文字が目に焼き付いて私の死後の世界での記憶はここで途切れた。

(聞こえるでしょうか。皆さんの頭に直接語りかけています。以下はこの小説とは関係ありません)


(毎日更新をしております。在庫がなくなればできなくなるかもですが、いいねをしていただくと活動の励みになります。よろしくお願いします。)

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