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楽しい部屋  作者: 竜胆
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3K

病院で色んな方と出会います。

私の隣のベッドの女性は寝てばかりいて、食事も看護師さんが運んで来られていた。声も出されなかった。私は心配になり、売店で買って来ていたチョコレートを仕切り越しに渡した。元気になって欲しかった。


二、三日食堂で食事をしていたら、同席していた中年の渋い男性から「落ち着いたみたいだね。最初はふわふわとしていて妖精みたいだったよ」と言われた。もう一人の初老の男性は柔和な顔立ちをされていた。「そうだね、地に足が着いたかな」と言われた。そんな風に見られていたのかと驚いていた。「僕たちはアルコールだよ。きみは?」と聞かれて「うつです」と答えた。中年の男性は高校の先生で、初老の男性は元弁護士だと病院のお母さんが教えてくれた。お二人とも上品で落ち着いた雰囲気だった。アルコール依存症には見えなかった。


お風呂には夜七時に病院のお母さんに「文ちゃん、お風呂に入ろう」と誘われて一緒に入っていた。

夜ソファーに座ってぼんやりしていたら、同年代の男性が来られた。「how old are you?」と何故か英語で、彼は色が白くて茶色い目をしていたから、ハーフなのかと思い、私も真面目に英語で返事をしていたのだが、途中から日本語に変わった。仕草がしなやかで、実年齢よりも若く見えた。素直な男性で好感を持った。


隔離室に初老の男性が入られていた。『隔離 3 』みたいで、時間に制限はあるが部屋から出られて病院の外にも出られていた。喫煙所で一緒になった時、話し掛けて来られた。頭が良い方だな、とすぐに気付いた。私はその方に興味を持った。趣味も広い方だった。話していて面白かった。読まれている本も難解な本だった。

有名私立一貫校から有名大学の海洋学部を出られて、地元に戻られて地域おこしを兼ねた蒟蒻屋さんを営んでおられた。

男性はある時、白衣を何処からか買って来られて着ておられた。『○○研究所』と胸のポケットに刺繍もされていた。私は男性から秘書に命じられて男性を所長、と呼ぶことにした。双極性障害の患者さんだった。

奥さまを癌で亡くされて病状が悪化してからの入院だった。娘さんが二人おられて、上の娘さんが時々面会に来ておられたが、その度にケンカになる、と所長は嘆いておられた。「似た者同士だからなー」と言っておられた。


隔離室にはもう一人ご年配の男性がおられた。自称神さまで、名刺を下さったのだが名前の上に『神』と書かれていた。何病なのかは分からなかった。

就寝前に担当の看護士さんとお茶を飲んでいたら、お二人はカップラーメンを一緒に食べておられた。華奢で優しい女性の看護師さんが「無理に勧めたらダメですよ」とやんわりと注意されたら、所長は「神様へにお供え物をするのは当然なのに」と言われていて可笑しかった。


父は教育関係の全国規模の非営利組織の県の代表と、我が家の有機肥料の会社の社長だった。三年前に県の代表になる前から、会社の人手が足りなくなっていて、母の弟である私の叔父を母の郷の他県から呼び寄せていた。叔父は私の部屋を使っていた。その事も私が実家に寄り付かない原因になっていた。実家に帰る時には叔父とどう接すれば良いのか分からなかった。


叔父は一度結婚していたが、相手の方が当時は分裂症と呼ばれていた病を隠して結婚していた。妊娠中に薬を服用しなかった所為で、祖母が言うには奇行を取られて、赤ちゃんを妊娠中に叔父は離婚したのだった。

その時私は高校生だったが、母が電話で祖母に「早く離婚させた方がいい」と言っていたのを聞いて、私は母を責めた。現在、こうして娘が精神科病院にお世話になっているのは皮肉な話だな、と思っていた。

そして叔父に対する不信感があった。


一回目の入院の時、試験外泊をした時は叔父が帰省していたから実家に帰れた。

退院後は実家に寄り付かなかった。

父と叔父は昔からソリが合わず、互いに嫌い合っていた。母は間に挟まれて苦労していたが、同情心は湧かなかった。母が父よりも叔父を大切にしていたから。


父は私に昔からとても甘かった。母から嫉妬される程だった。その所為で、家で居心地が悪くなって中学で家を出たのだった。母と妹はべったりと仲が良くて、私は一人になりたいという気持ちが強かった。


この病院にお世話になるようになって、母との関係が変わって来た。頼るようになったし、甘えるようになった。

ハローワークに連れて行ってもらい、帰りにランチをしたり、私が寝ている間に差し入れを持って来てくれた時には、手紙が必ず入っていた。

『文へ

もっと自分を大切にすること。

素直になること。

みんな文の事を心配しているのだから。

自分一人では生きることは出来ないのだから』

『文へ

冷凍庫にアイスがあります。

リンゴも食べてね』

『文へ

文の好きな茶碗蒸しを作りました。あとは蒸すだけだから、好きな時に食べてね』

『文へ

寒くなって来たね。

セーターを編むから、編んで欲しいのを教えてね』

『文へ

ワンピースを二枚文に似合いそうだったから買いました。

気に入ってくれるといいな』

『文へ

ご飯を食べてください。

心配しています。

食べたいものがあったら教えてね』


手紙は大切に保管していた。母の気持ちが嬉しかった。私は母から大切にされていると気付けた。


母に手紙を書いた。

『お母さんへ

心配させてごめんなさい。

私は大丈夫です。

四人部屋は快適です。

ちゃんと眠れているし、ごはんも全部食べています。

週に一度カウンセリングを受ける事になりました。

バラ園のバラが盛りです。見事に咲いています。

うちの肥料を使いたいと言われました。今度面会に来た時に、庭園管理の男性を紹介します。

お母さんもちゃんとごはん食べてね。

文より』

封筒に住所と宛名を書いて、切手を貼り看護師詰め所に持って行って出して貰うよう看護師さんに頼んだ。


若い女性は両腕の自傷行為の痕が酷かった。肉をタコ糸で縛ったように傷跡が両腕に何十箇所もあるのだった。彼女はまだ若いのに両親ともにおらず、妹が一人いるだけだった。

病院のお母さんも彼女の事を心配していた。本人は「自傷癖は治りましたから〜」とケロリとしていた。ひたすらスマホでゲームをしていた。

お母さんも彼女もうつ病だった。


ずっと寝てばかりいた女性が「私、病気を治す」と言って、起きてソファーが置かれている場所まで出て来られた。

話を聞くと、入院して更にうつがひどくなった、との事だった。

百貨店で働いておられたので、私にノックの正しい仕方を教えて下さった。

だいたい二回しかノックをしないけれど、目上の方には三回するのよ、と教えてくれた。

看護師さんは二回の方がほとんどだったが、三回される方もおられた。私の担当の看護師さんは三回だった。流石だな、と思った。

彼女は主治医の先生に言って、薬を変えてもらう、とか活動に出る、とか入院して十キロ太ったからダイエットする、と前向きな発言をなさり、一気に元気になってしまわれた。


病院のお母さんが「あ〜ぁ、躁になってる」と言われた。若い女性も頷いていた。私は一緒に楽しくなってくれる人が出来て嬉しかった。


「煙草、やめてたんだけど吸いたくなって買っちゃった。文ちゃん、一緒に吸いに行こう」と言われて、喫煙所に行き、煙草を吸おうとしたが彼女は手が震えて火をつけられなかった。私が火をつけてあげた。

「旦那が十五も上なの。フランス料理店のシェフなの。息子は高三」と言われて驚いた。「若く見えますね。独身かと思っていました」と私は言った。


彼女は近くの神社に置かれている施錠されてなかった自転車を乗り回して遠くまで行かれたり、服も次から次に買うようになった。旦那さんが面会に来られたら、ケンカしておられた。


主治医の院長先生から、「『躁の3K』に気をつけてね」と言われていた。

*車

*ケンカ

*買い物

頭文字のKで、躁の3Kと先生は教えて下さり、注意してくださった。

「車は注意散漫になるから、運転しても歩いても危ない。

ケンカは躁になるとイライラするからしがち。

買い物は自制心が効かなくなるから、大量にしてしまう」と説明して下さった。そして「貴女のブレーキはご両親ですよ。躁の時には自分で判断しないでご両親に相談しなさい」と仰っていた。


彼女はまさしく3Kだった。





話が、あっちこっちに飛んでしまってすいませんm(_ _)m

お読み下さり、嬉しく思います!

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