ラスいち
ジリリリリリ。
目が覚めると同時に、眠ることによって封印されていた憂鬱でしかたないあれやこれが一気に蘇り、どうしようもない気持ちになる。ふとんから出る理由なんてひとつも見いだせなくて、いっそのこと意識が戻らなければよかったのに、なんて最悪な思考を巡らせながら、なんとか体を起こす。
ああ、また今日が始まる。
覚醒しきっていない頭のまま教室に入る。わざとらしい、ざわざわとした喧騒が耳の中を支配して、思わず顔をしかめる。
『おはよう〜!!!』
さっそく声をかけてくれた『友達』は、今日もとびきりの笑顔で、すごく眩しい。
私はこんなふうにはなれないけれど、この笑顔に見合った対応をしなければと思う。
ばれない程度に息を大きく吸って、笑顔をつくる。
『おはよう〜!今日も寒いね!!!』
『友達』との会話は難しい。自分のとった行動は、発した言葉は、果たして正解だったのだろうか。わからない。わからないから難しい。
何もかもが変わってしまったあの日から、私は『友達』との接し方がわからなくなってしまった。
そんな私にとって、今まで退屈でしかたなかった授業の時間の方が楽だ。
役に立つかもわからないような知識を延々としゃべり続けるだけの教師の方が、なんだかわかりやすいような気がして。
昼食はだいたいひとりで食べる。教室にいると『友達』に見つかり、追いかけられるため、屋上に続く階段の踊り場に座ってひっそりと食べるのが日課だ。
かつての私なら、こんなこと寂しくて、恥ずかしくて、できなかっただろう。
自分で自分のためだけにつくったお弁当を食べながら、なんとなくあの日のことを思い出してしまう。
周りの人間が次々と倒れ、しいんと静まり返った世界。今ここで息をしているのはきっと私だけなんだろうな、とそんなことを思った。
思い出すのはいつもあの日のこと。私が『最後のひとり』になった、あの日のことだけだ。
予鈴がなったので、教室に戻る。
ドアを開けると、まっさきに目が合った『友達』が、とびきりの笑顔で話しかけてくる。
『もう〜!またひとりでご飯食べてたの?明日は一緒に食べようね?』
笑顔だけど、感情のこもっていない目。当たり前だ。この『友達』には血すら通っていないのだから。黒板を消す学級委員も、大声でおしゃべりしているギャル達も、テストの丸つけをしている教師もみんな、みんな、作り物なのだから。
人間より強くなってしまった人工知能達は、あの日、手当り次第人間を消し始めた。生みの親であるロボット学者の娘の私を除いて。
パパは数年前に自殺した。『俺は取り返しのつかないことをした。ただ、お前は絶対に消されない。安心してほしい。』と書いた紙を私に残して。
私の返事がないことを不審に思った『友達』が、首をかしげている。
『ごめん、なんでもない。明日は一緒に食べようね。』
私はそう言うと、『友達』の手首を両手で掴み、思い切り力を込めた。
ばきばき。
ねえ、パパ。これじゃあ、私が一番不幸だよ。