序幕 どきどき!?いざ始まらん青春の日々!
―序幕 どきどき!?いざ始まらん青春の日々!―
空高く舞い上がれ
風よ煌いて吹け
爽やかな青春と
活気溢れる若さとで
どこまでも遠く飛んでゆけ
バタバタバタ・・・!!!!
廊下から、騒がしい足音が聞こえる。
それは、だんだんと職員室へ
近づいて行って・・・・
バタ――ンッッ!!!!
「ぜ、はっ、す、すみません!!!」
「遅いですよ、墨沢先生。5分遅刻です。」
「すみません、本当に・・。」
「またトラブル起こしたんですか。」
「うっ・・・。」
墨沢 泰介、24歳。
化学、生物を教える、この魔導学校の新米教師である。
この学校に来て1年。
未だに遅刻癖・・・というより、
トラブルメーカー癖は治っていないようだ。
「で?今朝はどうした。泰。」
「あ、暁先生・・。」
涙目で訴えてくる泰介を、
まるで弟でも茶化すように、
暁ははなしかける。
「け、今朝は・・その・・・。く、車とぶつかりそうになって・・。」
「ばっかだなぁ、お前。いつもボーっとしてるからだよ。」
「ううっ、ぼ、僕だって気をつけてるんですよ!・・でも・・。」
「まぁまぁ、暁先生。彼だって、一生懸命なんですから。」
「甘いですよ、柳真先生。あんまり甘やかすと、為にならない。」
「うう〜。」
涙目になってしまう泰介の頭に、
柳真は手を乗せてぽんぽんと撫でる。
「な、柳真先生ぃい〜・・・。」
「そんなに泣かなくてもいいじゃないか、墨沢先生。」
「ぅうう〜〜だって、だって暁先生があああ!!」
これは、本当にいつもの光景。
朝からの・・いつもの、光景。
それを、影から見ている人がいた。
それを、見ている人がいた。
―― 「なるほど、ねぇ・・・。」
その日は、特に何か特別な用事もなくて、
授業も、休み時間も、普通に過ごした。
何の変哲もない、日常。
「お疲れ、泰。」
「!暁先生。お疲れ様です。」
ほいっと缶コーヒーを渡して、
暁は泰介の座る、スチール製の洒落た
ベンチの横に座る。
「お前、もう決めたか?」
「え・・?」
「え?じゃねえだろうが。“恋人”の話だよ。」
「!あ、ああ・・・。」
泰介は、スチール缶を握り締めて、
俯いてしまう。
「・・どうした?」
「・・・・どうしたら、いいのかなって。」
「?」
「決まっては、いるんです。」
「なら・・・。」
「でもっ・・・!!」
「・・・・泰?」
泰介は、顔に影を落として、
黙り込んでしまった。
暁は軽く溜息をついて、
ぽんぽんと頭を撫でた。
その仕草に、思わず涙した。
「・・僕っ・・・、やっぱり、向いてないんです。」
「なんで。」
「・・落ち零れ、だから・・・。」
「・・・・。」
“落ち零れ”。
泰介は、そのことを酷く気にしていた。
暁も、それを知っていたから・・
だから、優しく抱き寄せて、頭を撫でてやった。
まるで、泣き出した弟を慰めるように。
「お前は落ち零れなんかじゃないさ。」
「・・・。」
「多分な。」
「なっ!酷いじゃないですか!それってフォローになってない!」
そういって噛み付いてきた
泰介に、暁は満足そうに
微笑んだ。
それを見て、泰介もはっとして、
そのあと数秒、微笑んだ。
カラン・・・と、
缶コーヒーがゴミ箱に落ちる音。
「ごちそうさまでした。」
「いーや。」
「そういえば、この後って・・・・。」
「暁先生!!墨沢先生!こんなところにいらしたんですか!?」
「!本石先生!何か御用ですか?」
息を切らしてかけてきたのは、
泰介と同期の本石春哉だ。
「はぁ・・何か御用ですか、じゃあないですって。
このあと、大事な集会があるって、朝会のときに言われたでしょう!」
「・・・ああ、そういえば。」
「春は相変わらずきちきちしてんなぁ。」
「暁先生が大雑把過ぎるんですよ!とにかく、急ぎましょう!」
そういわれ、本石の後についていった。
行く場所はわかっている。
しかし、これから何が起こるのかは、
誰もわからない。
― 場所は、職員室。
扉を開けると、中には数人の見知った教師と、
理事長以外に他がいない。
「?あれ、あの・・・?」
「遅い。12分遅刻だ。」
「す、すみません、豊口先生。うっかり、忘れていたもので・・。」
泰介が申し訳なさそうにお辞儀すると、
佐々基は微笑みながら
「いいですよ。」
と言う。
その笑顔にほっとして、
泰介は暁とともに他の教師に習って
一列に並んだ。
並んだ横は、本石の横。
理事は、口を開く。
「では、今から皆さんには、“恋人”候補を上げていただきます。」
「!」
泰介は、とうとう来た!
といわんばかりの顔で、理事長を見た。
理事は、それに優しく微笑み返して、
話を続ける。
「ご存知の通り、“恋人”とは、契約した生徒が卒業するまで、
あるいは卒業した後も主従関係を続ける、特別な存在です。
それを得る権利があるのは、もちろん選りすぐりられたあなた方のような
教師だけです。」
厳かな雰囲気で言われ、
教師8人はゴクリと息を飲む。
それを見て、理事は微笑むと、言った。
「まぁ、気難しく考える必要はありません。
“恋人”たちは、あなた方に忠実に従います。
魔術を磨くのもいいでしょう、武術を磨くのもいいでしょう。
恋愛感情を芽生えさせるのだって、一切構いません。」
理事が言うと、
鈴鹿がコホン、と一つせきをする。
その顔は、やや紅潮しているようだが・・・。
「ただ、一つ言っておきたいのは、
彼女達を道具として側においてほしくないということです。」
「道具、ですか?」
泰介が聞くと、
理事は黙って頷く。
「彼女達は身体も心も持っている、人間です。
更に言うならば、年頃の女の子です。
その子たちを、ただの道具や平気として、
扱わないで下さい。」
「心得ております。」
理事が言い終わると、揃って
そういった。
理事は嬉しそうに微笑むと、
本題に入った。
「さて、では・・皆さん、“恋人”の候補はいらっしゃいます?」
そう聞かれると、
皆一斉に罰の悪そうな顔をした。
理事は苦笑混じりに聞く。
「ひょっとして、いないのですか?」
その問いに、
時谷は口を開く。
「は、はぁ・・・。」
「あらあら・・・仕方ないですね。・・そうですね、
この時期でしたら、オリエンテーションがありますから、
それで見定めてみてはいかがです?」
「オリエンテーション・・ですか。」
鈴鹿が言うと、
理事は微笑んで、ある紙を渡す。
それは、今回のオリエンテーションの内容だった。
「今回は、在校生の選抜生徒に、
一週間かけて“戦闘”という形でオリエンテーションしてもらいます。」
「“戦闘”・・・ですか。」
豊口は、少し苦い顔をしたが、
すぐに向き直った。
「わかりました。私は、それで。」
「あ、じゃあ僕も・・。」
それに続いて、墨沢も、他の教員も、
満場一致で合意した。
「わかりました。では、オリエンテーションは今週の水曜日
から始めますので。いいですか?」
「ええ。」
合意を得た上で
彼らの“恋人”探しは始まる。
さぁ
選ばれし戦士達。
我々の
愛の戦士となりうるか?