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3 脱走失敗→連行!?

 「は~い、残念でした~」

 藍田君に見付からないよう、仕事を定時で上がってさっさと帰ったのに、なぜかあっさり捕まった。

 おかしい。わざわざ裏口から出たというのに。

 「ちょっと、藍田君! なんでここにいるわけ? まさかあたしに発信器なんかつけてないでしょうね!」


 さすがにそれはないだろうと思いつつ文句を付けると

 「あれ? なんでわかったの?」

とか真顔で返された。

 え、なに? マジなの!? あんた、マジでストーカー!?

 藍田君の視線を辿ると、あたしのコートの右ポケットを見てる。

 まさか!?

 慌てて探っても、何も入ってない。

 焦って、ポケットと藍田君を交互に見ていたら、藍田君がプッと吹き出した。

 「んなわけないでしょが。

  今朝の様子見てりゃ、逃げることなんて丸わかりだったからね、こっちを張ってただけだよ。裏の裏ってやつだね。

  いつもいつもこんな手が通じるわけないだろ?」

なんて、呆れた顔で言ってくる。

 そうか、いつも避けられてる自覚あったのか。

 そして、捕まったのが運の尽き、あたしは藍田君に引きずられるようにして裏口を後にした。




 連れられてきたのは、居酒屋? 小料理屋? カウンター席が5つと小上がりが3つあるくらいの小さなお店だった。

 ちょっと古い…あ、いや、歴史を感じるお店で、正直ちょっと意外だった。

 何が意外って、チャラいイメージの藍田君が女の子(あたし)を連れてくるのに、こういうお店を選ぶっていうのが、ね。

 なんとなく、フレンチとかイタリアンとかに連れて行かれるんじゃないかって思ってた。

 あは、壱花のこと笑えないわ、これじゃ。

 こんだけ強引に引っ張ってこられたからには、口説く気満々なんだろうと思って警戒してたから、そういう気合いの入ったお店に行くんだろうって思い込んでいたのよ。あ~、恥ずかしい。

 こういう落ち着いたお店に連れてこられたってことは、もしかして何か別の話なのかな。


 小上がりに向かい合って座ると、女将さんらしき人がお通しを持ってやってきた。

 「あれ、藍田さん、久しぶり。

  いつもの?」


 女将さん──たぶん──がそうやって訊いてくるってことは、それなりに馴染みなんだろう。ついでに、女連れなのもいつものことなんだろうなあ。


 「うん、俺はそれで。

  みゃあちゃんはどうする? 実は飲めるんだろ? 酔わせてどうこうするつもりはないし、好きなの飲んでよ。

  さすがにウイスキーのいいのはないけど、日本酒とビールは色々あるよ」


 うーん。「実は飲めるんだろ」ねぇ。

 どう見るべきかな。

 あたしは、会社の飲み会では、乾杯のビールの後は甘めのカクテルかチューハイしか飲まない。

 弱いんで、というのを言い訳にして、とにかく飲まないようにしてる。

 だって、イケるクチだ、なんてことになると、二次会三次会に引っ張ってかれるのが目に見えてる。

 あたしの大切な睡眠時間を奪われてなるものか。

 もちろん、プライベートでも晩酌とかはしないし、飲むのが好きってわけでもない。

 壱花と2人でご飯食べに行った時にワインを飲んだりとか、その程度だ。

 さすがにそういう時は黒川さんも呼ばない。

 まして、男と差しで飲むなんて経験はない。


 ま、今日のところは、お言葉に甘えて好きなのを飲ませてもらおう。

 「あたしは、今日のおすすめと、この“蔵元の梅酒”を」


 「梅酒? また甘いのを頼んだね」


 「いけない? 好きなの飲めって言ったのそっちでしょ。何か文句あんの?」


 藍田君は憮然としてたけど、「好きなの飲んで」と言った手前、それ以上文句を付ける気はないようだ。


 「大丈夫ですよ、ここの梅酒はそんなに甘くないんで、お料理に影響与えるようなことありませんから。

  いい香りですよぉ」


 女将さんが請け合ったら、藍田君は「なら」とか言って、相好を崩した。

 なんだ、料理の味に影響を与えるのを心配してたのか。そういや、甘すぎるチューハイとかだと料理の味が狂うことがあるもんね。

 グルメなんだ、藍田君って。興味ないから知らなかったよ。

 お料理は、山菜の天ぷらにお造り、鱈の焼き物と、どれも美味しかった。

 鱈を焼いて食べるなんて初めてだ。

 意外と…と言ったら怒られるかもしれないけど、美味しかった。


 「で? 昨日の人は誰だって?」

 会社のどうでもいい話を肴にお料理を楽しんでたら、唐突に本題を切り出された。

 そういや、それ訊きたくて引っ張ってこられたんだっけ。

 どうしようか。

 どうせ、本当のことを言っても信じないくせに、なんで訊きたがるかね。

 「朝も言ったでしょ。大学時代の親友のデートに付き合わされた挙げ句、当の親友が遅刻してきたの。そんだけ。わかった?」


 どうしたって楽しい話題じゃないから、自然にあたしの声も不機嫌になる。

 せっかくお料理も梅酒も美味しかったのに、なんか水差された感じで面白くない。

 そして、やっぱり藍田君は信じてくれなかった。


 「あのさ、普通に考えて、友達のデートにノコノコ付いていくか? リア充見せつけられるの、楽しい?」


 「楽しいわけあるか!

  仕方ないじゃない、断ると壱花(あの子)、ホントに悲しそうな顔になるんだから!

  あんな顔見せられたら、断り切れないわよ!」

 好きこのんで付き合わされてるわけでもないのに、それを間男かなんかみたいに言われたら、立つ瀬ないじゃない。

 すっごくムッときた。

 そうよ、なんであたしが責められるわけ!?

 悪いのは壱花じゃない!

 誰が、好きな(ひと)のデートになんて付き合いたがるのよ! ふっざけんな!!


 でも。

 藍田君の次の言葉に凍り付いた。


 「普通は断るんじゃない?

  相手の男が好きで、なんでもいいから傍にいたいとかってんでもなけりゃさ」


 “なんでもいいから傍にいたい”

 藍田君がムカつく訳知り顔で言い放った言葉が胸に刺さった。

 壱花のデートに付き合わされてもいいから、黒川さんの傍にいたかったの? あたし。


 目の前が、グラリと揺れた。

 4話は、本日午後9時に更新します。

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