招待状
「ここでお別れですね」
剣姫の魔女の事件が終わり、復讐の魔女たちは街の外に出た。
「ふーちゃん、今朝はごめんなさい」
「…………」
救済の魔女が謝罪するが復讐の魔女は黙って顔を背けている。
「救済の魔女様はこれからどちらへ?」
復讐の魔女と救済の魔女との間にあったことを聴かされているベルベットが空気を変えようとする。
「遠い場所ですよ。皆さんでは辿り着けない」
「魔女の宴 通称、ヴァルプルギスの夜でしょ」
復讐の魔女が口を開いた。
「毎年行われる魔女の集会。その中でも選ばれた魔女が円卓に呼ばれて魔女の行く末を会議する、だったかしら?」
「……ふーちゃん、魔女以外に語ってはいけない掟ですよ」
「知ったこっちゃないわよ。あなたたち円卓のメンバーの決定に従う気なんてないもの。だからこれも要らない」
復讐の魔女が手に持っていたのは蝋で溶封された手紙。
「ふーちゃんの所にも来たんですね、招待状が」
「ええ。初めてだから最初は何なのか分からなかった。でも読んで納得したわ。今までヴァルプルギスの夜への誘いなんてなかったのに、誰かが私のことを円卓のメンバーに推薦しようとしている。あなたでしょ、救済の魔女?」
「そうだとしたら?」
「……何が目的なの?」
復讐の魔女は救済の魔女を睨み付ける。だが救済の魔女は微笑むだけ。彼女には似つかわしくない仮面のような笑みで。
「ヴァルプルギスの夜に来ないなら、ふーちゃんには関係ないですよ」
「……そう。なら私も勝手にするわ」
復讐の魔女は招待状をビリビリに破いた。
「私は行きますよ。"ふーちゃんのお母さんを殺した『大英雄』のもとへ"」
「!? 待ちなーー」
救済の魔女は破断の魔女と手を繋ぐ。
「また、何処かで」
救済の魔女が取り出した招待状が激しく燃え盛り、二人を包み込んで跡形もなく消えた。
「私の復讐相手に会いに行くですって? 何処まで私を馬鹿にするのよ、あなたは!?」
復讐の魔女の叫びが青空に響いた。
「落ち着けよ」
「うっさいわね! とっとと次の街に行くわよ!」
リクの制止も聞かずに歩き出した復讐の魔女。
「馬車はどうするんだよ!」
「早く持ってきなさいよ!」
「馬車なんか操ったことねえよ!」
「ああ、もう! 使えないわね!」
復讐の魔女とリクが口喧嘩する光景を剣姫の魔女は街の壁の上で見ていた。
「騒がしい魔女だな。良かったのか、あのような別れ方をして?」
「良いんですよ。ふーちゃんにはまだ自由で居てもらいたいので」
剣姫の魔女の後ろに立っていたのは先程消えたはずの救済の魔女と破断の魔女だった。
「まま、かなしそうだよ? ふくしゅうのまじょと、けんかしたの?」
破断の魔女が母親である救済の魔女の顔を見て落ち込む。
「少し、間違えちゃいました」
救済の魔女は破断の魔女にテヘっと笑った。
「なかないで、まま。わたしが、がんばるから」
「ありがとうございます、破断の魔女」
救済の魔女が破断の魔女の頭を撫でると破断の魔女はくすぐったそうに笑う。
「それで救済の魔女。私に何が訊きたい?」
剣姫の魔女の言葉に救済の魔女は笑みを消す。
「『大英雄』の一人である、あなたに教えてほしいのです。"追憶の魔女"を殺した『大英雄』は誰ですか?」
「……聞いてどうする?」
「殺します。ふーちゃんのお母さんの仇ですから」
「救済の魔女。君が復讐の魔女の代わりに復讐を果たすというのか?」
「違いますよ。これは私の復讐。私のことを救ってくれた"追憶の魔女"の無念を晴らすために」
救済の魔女の手には血の付いたハルバード。
「私の本来の魔女の名を知ってますか? 救済でも断罪でもない忌み嫌われし名を」
救済の魔女から発せられた気配に破断の魔女が怯える。
剣姫の魔女は目を細める。
「おかしいと思ってはいた。私が聞いた噂と彼女が一致しなかったからな。あの魔女は怒ったり、笑ったりと表情が豊かだ。そして青い。まだ年若く、光輝いていた。あの青年の隣ではよりな。だから、確信した。復讐の魔女は二人居たのだな」
剣姫の魔女の責めるような声に救済の魔女は嗤った。
「復讐者を甘く見ない方が良いですよ?」
その笑みは邪悪に満ちていた。