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魔女たちの宴 ヴァルプルギスの夜  作者: mask
破断の魔女
20/83

彼女の怒り

 小さく、だが落ち着いた寝息に救済の魔女は微笑む。

「悪魔は?」

 復讐の魔女の言葉に救済の魔女は目を伏せて首を振る。

「もう居ません。ですが、呪いの一部は残っています。いえ、残さざるを得なかった」

 破断の魔女の左腕は肥大した黒い鉤爪のままだった。

「この子は悪魔の呪縛によって死ねなかった。でも、それはこの子を生かし続ける祝福でもあった」

 救済の魔女は顔をあげる。

「私は、私はこの子を育てようと思います。良いですか?」

「私に訊いてどうするのよ。勝手にしたら」

「でしたら、今日からふーちゃんはお姉ちゃんですね!」

「前言撤回。捨ててきなさい」

「いやですよ~」

 救済の魔女はクスリと笑った。

「終わったのか?」

 避難していたリクたちが合流する。

「ちょうど良いところに。この子をホテルまで運んでくれますか? 私は市長さんに事件が解決したことを報告しに行きますから」


 復讐の魔女たちがホテルへ向かうのを見届けると、救済の魔女は踵を返し、路地を進む。

追跡(チェイス)

 瞳が淡く光る。感覚が鋭敏になる。

 すべてが明るく見える。

 微かな臭いも鼻腔を貫く。

「そこですか」

 救済の魔女は立ち止まると、指で拳銃の形を作って何もない虚空に向ける。

狙撃(スナイプ)

 光の銃弾が指先より放たれ――

「がッ!?」

 何かを貫いた。

 救済の魔女は何かに近づくと、荒々しく蹴り上げた。

 何もない路地を転がったのは一人の男。

「透明化のマント。魔道具ですか。魔導師、いや、西部の国の技術ですね。あそこは魔法が嫌いなのに使うのは好きなんですね」

「科学と言ってもらおうか。そのうち、我々が、お前たち魔女も殺す」

 肩を撃たれて脂汗を流す男。救済の魔女は冷たく見下ろす。

「あなたが、あの子を操っていたのですか?」

「あの魔女か? ああ、そうだよっ。たく、出来損ないめ」

 救済の魔女は男の襟首を掴み、持ち上げる。

「悪魔を作り出すことは禁忌ですよ」

「それはお前らの考えだろ」

 苦し気ながらも男は救済の魔女を嗤う。

「何をする気ですか? 悪魔など只人の手に負えないというのに」

「お前ら魔女に言うわけないだろう? お前らは全人類の敵だ。滅んじまえ!」

 不気味に笑い出す男。救済の魔女は手を放す。

「そうですか。でしたら死んでください」

 救済の魔女は錫杖を振り上げる。

 違う。

 彼女が掲げたのは戦場で使われるハルバード。

「死んでください」

 救済の魔女はハルバードを振り下ろした。


「助けて」


 その言葉に救済の魔女の動きが止まった。

「ははははは!」

 男が嗤い声をあげる。

「本当に殺せないんだな! 馬鹿だな! 助けを求められたら憎い相手でも殺せないなんて!」

 男は立ち上がると指差す。

「残念だったな、救済の魔女! 救済者は善人でいなくちゃいけない。殺人なんて大罪を犯せないもんな!」

「そうですね」

 救済の魔女はハルバードを下すと、苦笑する。

「確かに”救済”の私では助けを振り払うことは出来ません。相手が例え罪人だとしても。ですが――」

 そこで救済の魔女は冷笑する。すでにそこには聖女の優しさはない。

「知っていますか、罪人を救済する魔女もいることを?」

 そういうと一瞬の光。

 男が目を開けると、目の前に立っていたのは一人の軽甲冑姿の兵士。

「なんだ、お前その恰好は?」

「罪人への救済」

 兵士はハルバードを横に構える。

「それは贖罪による救済」

「良いのか! 救済の魔女!? ここで俺を殺したら――」

 ハルバードの刃が男の首を刎ね飛ばした。

「救済の魔女? はて、誰のことでしょう?」

 驚愕に目を見開いた男の頭を見下ろす。

「私は罪人に裁きと贖罪の機会を与える”断罪の魔女”。救済ほど優しくないですよ?」

 断罪の魔女は男の頭を掴み持ち上げると、嘲笑ったのだった。


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