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魔女たちの宴 ヴァルプルギスの夜  作者: mask
破断の魔女
19/83

母娘

 世界は路地に戻る。

「ま、ま」

 弱々しく鉈少女ーー破断の魔女は救済の魔女の腕の中で囁いた。

「何ですか?」

 救済の魔女は破断の魔女(まなむすめ)に微笑む。

「もう、だれもころしたくない」

「そう望むなら良いですよ」

「でも、ころさないと、いたい、いたい。だから、しんぞうをたべないと、こわい、こわい」

 そのとき、左腕だけ染めていた黒が頬まで侵し始める。

「わるいこで、ごめんなさい」

 破断の魔女の瞳から涙が落ちる。

「『悪魔化』が止まらないじゃない!? どうするのよ!」

「…………それでも助けます」

 力なく垂れていた黒い鉤爪が鎌首をもたげーー

「!?」

 救済の魔女を家屋の壁まで払い飛ばした。

「かはッ!?」

 肺をやられたのか、救済の魔女は血を吐く。

「ころす、めいれい。こわす、めいれい」

 黒い悪魔が苦悶に満ちた声で衝撃的な言葉を発する。

「あくまになる、めいれい」

「命令、ですって!?」

 復讐の魔女は目を見開く。

「誰よ! 悪魔なんて作ろうとした奴は!?」

 復讐の魔女は発砲する。

 だが、悪魔になった破断の魔女には拳銃弾程度では傷にもならない。

「に、げ、て」

 額には三角錐の角が、両腕は怪物の鉤爪になり、髪は伸びきって毛皮のように。

 瞳は赤く染まり、口には牙が、四つん這いになった姿は猛獣のようだ。

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん」

 破断の魔女はついに人の言葉を発しなくなった。

 ただただ殺戮を繰り返す化け物になってしまった。

 もう、人ですらなくなってしまった。

 暴風が路地に吹き荒れて、生じた風の刃が街を削り取っていく。

 復讐の魔女たちも壁に隠れてやり過ごすのが精一杯だ。


「大丈夫ですよ」


 救済の魔女は口の血を拭って、悪魔と化した破断の魔女に微笑む。


「私が助けます」


 その手には古い錫杖。

 その石突きで地面を突く。


「我が名は救済の魔女! 主の御名の下、助けを請われれば何時だって何処へだって駆けつける。我に名を与えてくれた大恩ある魔女に誓い、この身命を賭して我は救済を果たそう!」

 光輝く錫杖。

 金糸の髪が魔法の風にたなびく。

「我が正義は迷いし者を導くため。我が慈愛は挫けし者を支えるため。我が人生は傷付きし者を癒すためにあった!」

 救済の魔女は錫杖を掲げ、その魔法を高らかに詠唱(うた)

「【救済者の軌跡(ロードオブメシア)】!!!」

 地を石突きで貫く。

 地割れが閃光を放ち、破断の魔女の足元で白い魔方陣を描く。

「うがあああああああああ!?」

 破断の魔女が痛みで咆哮をあげる。

 魔方陣より生えた光る植物の蔓が破断の魔女を地面に縛り付け逃がさない。

「さあ、立ち去りたまえ! 我が光の詩が届かぬ果てまで!!!」

「ぐあああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!!!」

 破断の魔女から噴き出した黒い煙が断末魔を叫ぶ。

 そして光に浄化されて消え去った。

「う、ぐ」

 そこには悪魔から解放された破断の魔女が横たわっていた。

 救済の魔女は、すぐさま駆け寄ると強く抱き締める。

「あああ、良かった! 助けられた!」

 ボロボロと泣き出す救済の魔女。

 その涙を小さな手が拭う。

「ないちゃやだよ、まま」

 破断の魔女は救済の魔女(だいすきなまま)に明るく笑った。

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