魔女の戦い
「俺が、魔導師!?」
リクは驚きが隠せない。
「そうよ。只人でも魔導の力を行使したら経緯はどうであれ立派な魔導師よ」
ふん、と不機嫌そうに復讐の魔女は鼻を鳴らす。
「ということは、今度からアンタも魔導師狩りで狩られる立場ね。一緒に頑張りましょうか。まあ、アンタみたいな弱っちい魔導師は瞬殺でしょうけど」
「いやいやいや。魔導師になったといっても魔法なんて使えないぞ!?」
「別にアンタが使えなくても良いのよ。使い魔が使えればアンタは使い魔に魔力をあげれば良いだけだし。つまり、アンタはただの魔力タンク。? アンタ、そんなに魔力あったっけ?」
「そうなんですよね。使い魔と契約できるぐらいですから、魔導の才があると思うんですけど。リクくんからは魔力をあまり感じられないんですよね」
う~ん、と小首を傾げる復讐の魔女と救済の魔女。
「まあ良いか。イレギュラーぐらいあるでしょ」
「お前もかよ!」
リクが復讐の魔女にツッコミをいれたときだった。
崩れた煉瓦の山から黒い煙のようなものが噴き出す。
「リクさん、何か来ます!?」
ソラが気付いたときだった。煉瓦の山が爆ぜた。
土煙が舞う。
「さすがにあれだけでは倒れませんか」
救済の魔女が錫杖を構え直す。復讐の魔女とベルベットも戦闘態勢に入る。
「うががががああああああああああああああああああああああああぁぁっぁぁあぁあぁああぁああ!!!??!!」
晴れた世界に居たのは、黒く禍々しい形状をした、人の頭など軽く握り潰せそうなほどの巨大な左腕を天に掲げる鉈少女。
「ついに悪魔に堕ちたわね」
復讐の魔女が銃口を向ける。
「待ってください!」
それを手で制したのは救済の魔女。
「あの子はまだ完全に悪魔になったわけじゃありません。"私たち"で助けます!」
「ふざけるんじゃないわよ! あの左腕を見なさい! 化け物になってるじゃないの!?」
「腕だけです! まだ間に合います!」
強い瞳で復讐の魔女に訴える救済の魔女。
「ふーちゃんのお母さんなら私と同じ選択をしたはずです」
「…………ああ、もう! 勝手にすれば良いじゃない!!!」
「ありがとう、ふーちゃん!」
自分の考えに折れてくれた復讐の魔女に救済の魔女は微笑むと顔を引き締めて鉈少女に向き直る。
「リクくん、ソラちゃん、アルちゃんは退がってください。ベルベットちゃんは皆さんを守ってください。ここからは魔女の戦いです!」
救済の魔女は鉈少女に肉薄する。
「ぐる」
反応した鉈少女は救済の魔女に左腕を振り下ろす。
それを救済の魔女は錫杖で防ーーげなかった。
跳躍して鉈少女との距離を取る。
「ははは。冗談じゃないですよ」
救済の魔女は乾いた笑いで自分の得物である錫杖を見る。
「これ、いちよう特注品なんですけど」
錫杖は鉈少女の黒い鉤爪でスライスされて虚しい音を発てて地面に落ちた。
「ふぇ~~~ん。お給金貯めて新調したのに~」
救済の魔女はうるうると涙目になる。
「何、ガキみたいに泣いてんのよ! ただの杖でしょ!」
「ただの杖じゃないです! おニューの錫杖です! 給金三ヶ月分ですよ!?」
魔女が給料制で働いていることにツッコミを入れる人は居ないようだが、それなりに良い値段らしい。
「もう良いですよ~だ。拗ねちゃいますもんね」
「真面目にやれ!」
復讐の魔女が鉈少女に発砲。しかし、黒い鉤爪で防がれる。
「ぐあああ!」
鉈少女は獣のように這いつくばると地面を蹴る。
狙いは不貞腐れている救済の魔女。
「危ない!」
リクが叫ぶ。
「跳躍!」
救済の魔女が居た場所が黒い鉤爪によって抉り取られた。
晴れた土煙。がらがらと残骸が崩れる。
「ぐわ?」
鉈少女は救済の魔女を切り裂いたはずの自分の黒い鉤爪を見て不思議そうに小首を傾げる。
「こっちですよ」
声に顔を上げると、救済の魔女は高く宙に跳ねていた。
「狙撃!」
救済の魔女は右手でピストルを作ると、鉈少女に向かって光の弾丸を放つ。
だが、これも黒い鉤爪で弾かれる。
「ぐるる。ぐわー!!!」
鉈少女も跳躍。そして左腕を振り上げる。
「閃光!」
「ぐきゃあああ!?」
救済の魔女が指を弾くと、辺りが目映い光と甲高い音に包まれる。
目が眩んだ鉈少女は右手で顔を覆い、左腕を振りかぶるが空を切る。ドズーン、と。そのまま着地に失敗して落下する。
鉈少女は頭を振り、ふらつきを治める。
「ぐる?」
救済の魔女が消えていた。
「重力!」
その魔法で鉈少女の左腕がズドン、と地面に打ち付けられる。
「うがあがあああああが!?」
そのままメキメキと左腕が地面の石畳にヒビを入れて沈ませる。
振りほどこうにも固定され、縛り上げられているような痛みに襲われる。
「今です、ふーちゃん!」
「分かってる!」
救済の魔女の言葉に復讐の魔女は呼応する。
「じっとしてなさい」
痛みに暴れる鉈少女に復讐の魔女は肉薄する。
「さあ、私の目を見なさい。そして教えて、あなたのことを」