君を守護するウサギ人形
林を抜けると、そこには身長、百七十センチくらいの細身の男性がいた。
巡回の終わりを待っていた詩穂の父である。
「......」
石垣に腰を掛け、満月を見上げていた。
しかし、それは楽しむようではなく。
その姿はまるで何かを探るようであった。
「あの、お父様?」
「……そうだな」
ぼそっと呟いた後に。
「お、気づかなかったよ、帰ってきたのか。お疲れさま」
その言葉に詩穂は違和感を覚える。
お父様が私達の接近に気が付かないはずがないのに?
それは千秋も思ったはずなのだが、それを分かっていてなお言葉を返していた。
「お疲れさまです。詩穂のお父さん」
いつも男勝りのようなぶっきらぼうな千秋が、丁寧な言葉で話す。
毎回違和感を覚えるが、きっと本人に言ったら大層怒るに違いない。
「いやぁ、いつも手伝いありがとね、千秋ちゃん。晩御飯食べていくかい?」
「いいんですか!?」
「あぁ、ついでに泊まっててもいいよ」
「ありがとうございます!」
「それじゃ早く帰ろうか」
お父様が笑いながら、道のほうへ向く時。
私の右ポケットと右側の林を見た気がした。
なんだろう、お父様の様子が気になる。
「はい、そうしましょう」
林に挟まれた一本道の先を歩くお父様に、千秋も続く。
後を追おうとした時だった。
詩穂の父が見た右側の林。
石垣の上に生えた雑草から。
ガサッと音を立てたかと思うと。
「キサマダケデデモ、アノ世ヘオクッテヤル!」
蛇の妖怪が、詩穂へと飛び出していた。
普段なら気づいていただろう距離だが、詩穂と千秋は完全に油断していた。
左腰に帯刀した太刀を抜く時間はなく、そもそも腕を動かす時間すらなかった。
「詩穂‼」
千秋がこちらを向いて叫ぶ。
詩穂は避けるために反射的にその場から跳ぼうとする。
「い、いやぁ!」
その時にはもう遅く。
鋭く長い二本の牙が喉元へと迫る。
何もできない時間の中、詩穂の意識だけが激しく動き回る。
私には果たさなければならない使命が。
責任があるのに。
こんな所で私、終わっちゃうの?
諦めて、目を閉じてしまった時だった。
バキィ!
目の前で何かを殴りつけるような音が響いた。
「グガァ‼」
石垣の上に生えた木に蛇の妖怪が叩きつけられ、雑草の中に落ちていった。
音と妖怪の声に目を開ける。
な、何が起こったの?
「詩穂!」
千秋が走ってきて、いきなり抱き着かれる。
「大丈夫か?どこも怪我してないか?」
私はその心配そうにする声を聞いて、やっと頭が回り出す。
「ね、ねぇ、千秋ちゃん。いったい何が?」
「足元のそいつが助けてくれたんだよ」
「足元?」
視線を下に移す。
え、どうして......?
そこには。
「きゅぅぅぅ……っ」
左腕を折り曲げ。
林へと右手を突き出し。
残心を取る。
ウサギ人形の姿があった。