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前文
この世とは思えない光景が広がっていた。
深く暗く全てが紫に染められていた。
噴煙が渦巻いている。
そこには無数の何かがいた。
浮遊し、蠢く。
それは例えるなら芋虫の大群。
鳴きながら、隙間なく意味もない右往左往を繰り返す。
その上空では、無数の暗雲。
軋みを上げるかのように揺れ動いている。
まるで一つ一つが意志を持っているようだった。
それらは魂のようにも見えた。
意識と意志だけを持つ魂が、やり場の無さに苦しんでいる。
そんな中で一つだけ違うものがいた。
形だけなら雲のよう。
しかし、それだけは白く軋みを上げていない。
ただ浮遊を楽しむかのように、のんびりしていた。
その白い雲もこの世界を見て思っただろう。
酷い場所と。
きっとここは地獄なのだ。
でなければ、こんな停滞。
叫びしか響かない暗闇。
これを他に何と呼ぶのだろうか?
ふと蔓延る慟哭の地獄に、一筋の光が指す。
それに反応するかのように、白い雲が光に向かう。
柔らかい感触と暖かな抱擁ら胸を刺すような哀しみに包まれて。
地獄を抜けた。