表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/14

7 破壊の女王

 他社のプレゼンに乱入するという、あり得ないマナー違反にあえて目をつぶって貸しをつくる。

 高度な心理戦術にクライン氏は黙り込んだが、乱入してきた張本人であるシンシアには、マニュアル本に書いてある心理テクニックなど、まるで通用しなかった。


「本当にお時間とらせませんことよ。だって紙を一枚、置いていくだけですもの。ニール、あれを」


 公的にはオールダム商事㈱カスバ支店の従業員、私的にはカークコールディ家の従僕であるニールは、ずる賢そうな顔をニヤリとさせて、


「案件整理番号:PCS七〇九六、ゴブリン駆除及び巣の除去一式費用のお見積書でげす」


 一枚の紙きれを、あろうことか俺たちの提案書類の上に、ひらりと投げた。

 リアの太い眉がまたきりきりとつり上がったが、次の瞬間、そこに書いてある数字が目に飛び込んできて、そのまま絶句してしまった。

 俺たちも同様だ。オーベルの目玉は眼鏡を突き破りそうになっている。ずいぶん時間がたってから、俺は自分の口がぽかんと開いているのに気がついた。

 その【見積書】と書かれた紙にはただ一行、


『ゴブリン退治 一三八〇〇〇デル』


 迂闊にも忘れていた。この業界で、シンシア・カークコールディがなんと呼ばれているかを。


 狂気の爆安女王──

 

 二十五万から三十万デルが相場の仕事で、その半値以下を平気でだしてくる。

 リアが立ち上がって、


「ちょっと!」

「あら、なにかしら?」

「どうなってんのよ、これ!」

「どうって、十三万八千デルでゴブリンを退治してさしあげるんですのよ。変かしら?」

「こんなの原価割れに決まってるでしょ」

「原価割れ?」


 シンシアは訝しげな顔をしていたが、やがてポンと手を打った。


「ああ、お金が足りないってことね? ご心配には及びませんわ。ブーアマン社のアイラッシュエクステ、六万九千デルしかしませんもの」

「は?」

「もっとも片方だけですけど。両眸で十三万八千デル。ちょうどぴったりですのよ、ホホホホのホ」


 しばらく何を言っているのかわからなかった。わかった瞬間、俺はトロールの棍棒に頭をかっ飛ばされたかのような衝撃を受けた。

 リアはメドゥーサに睨まれたかのごとく石化して、オーベルにいたってはドラゴンブレスをくらった燃えかす同然だ。

 いったいどこの世界に、買い物とぴったり同額の見積書をだす馬鹿がいるんだ?

 いや、まあ、ここにいるんだが──

 シンシアにとってクエストとは、必要額の現金化でしかないのだった。 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ