4 英雄スティッグウッドの伝説
#あの__・__#御立派なお父様の跡取りとは、なかなか大変なことですな──
という言葉に含まれた皮肉に、リアはぐっと拳を握った。
ほら来た──と俺は身構えたが、どうにか自制したようだ。
「そ、そうなんです。名前負けしないように、毎日が勉強ですの」
「まあ、私はその#英雄様__・__#に、お会いしたこともないんですがね」
「でも、あたしたちはお父さ──父の威光に頼ることなく、小さいながらも身近で親切な【街の冒険者さん】を目指して頑張っております。今回の案件もぜひ弊社に任せて頂きたく、価格も努力したつもりです」
「ふむ。見せてもらいましょうか」
オーベルが背嚢から書類を取りだして、
「そ、そもそも弊社は三十年前、先ほども名前があがりましたレスター・スティッグウッドが盟友ブライアン・マーティン卿と創業して以来、四万七千人のカスバ市民とともに歩み──」
「そのへんは結構です。英雄スティッグウッドの伝説とやらは、当方も承知しておりますのでね」
クライン氏はにべもなかった。
俺は書類の中から見積書を氏の前に滑らせて、
「さすがは大迷宮商会さん。お話しが早くていらっしゃる。そう、商談は常に効率的に、単刀直入でなければいけません。それでは、こちらをご覧ください」
クライン氏が目を通している見積書には、次のように書いてある。
見積書:ゴブリン駆除一式費用
(物件整理番号:一九四〇一〇〇九)
基本料(五名分) 八〇〇〇〇デル
装備調整費(同) 四〇〇〇〇デル
携行備品代(同) 二五〇〇〇デル
魔法技術料(一名) 三〇〇〇〇デル
遠征費(三日・食費含)六七五〇〇デル
小計 二四二五〇〇デル
出精値引 ▲四四五〇〇デル
ご提供価格 一九八〇〇〇デル
備考 ゴブリン三十匹以上は別途料金
ゴブリンが相手でも状況によっては生命にかかわるので、普通は冒険者保険をかけて見積価格に上乗せするのだが、今回ウチは──多くは語るまい。必勝ノルマとだけ言っておく。
他社なら所要日数が五日から一週間、費用は二十五万から三十万デルといったところが相場なので、二十万以下はかなりの破格値といえるだろう。三十匹まで見積もり額に含まれるのも心憎い。
だが──クライン氏の表情に変化はなかった。