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3 三位一体の奇襲

 大迷宮商事の調達担当・クライン氏が商談ブースに入ってくるないなや、俺たちは一斉に、


 しゅばばっ!


 と名刺を差し出して、いたく同氏を面食らわせた。

 リアが屹と振り向いて、


「こういうのは目上から!」

「じゃ、オーベルさんからだろ? 年上だし」

「す、すみません。リアさんからでいいと思います。ギルドの代表ですから」


 オーベルは身がちぢむほど恐縮して、


「本当にすみません。ぼ、僕、テンパっちゃって──」


 俺としてはリアに【目上】を名乗られるのは不本意だったが、肩書がそうなのだから仕方がない。

 渋々ながら引き下がると、リアは引きつり気味の笑顔で、


「たいへん失礼いたしました。そのー、ビジネスマナーは研修中でございまして」

「の、ようですな。まあ、お仕事がお仕事ですから、元気がいいのは結構なことで」

「お恥ずかしいですわ。ガサツな社員が多くて苦労がたえませんの。現場に出れば優秀なスタッフなんですけど、ホホホ」


 よく言うわ。なにがホホホだ。教官を半殺しにしたこともあるくせに。


 リアとは冒険者養成学校の同期だから、人となりはよく知っている。

 営業スマイルが板についていないのは、社会人として未熟というより、言語より腕力で意思疎通(コミュニケーション)をはかるタイプだからだ。

 そこへいくと俺なんか、もともとは王立図書館の司書官志望だったクチである。

 学力と学費の都合でやむなく冒険者養成学校に入ったが、本来は書物に囲まれて静かに暮らしたい学究的(アカデミック)な気質なわけで、伝説の勇者とやらを父親にもち、零細企業(インディーズ)ながらも冒険者ギルドの二代目代表取締役(ギルドマスター)を襲名したリアなんかとは、本来なら住んでる世界が違うのだ。


 だいたいリアが半殺しにした教官。

 ヤツのセクハラを立証して放校処分から救ってやったのは俺なのに、こともあろうにガサツとは何ごとだ。


「では、本日のご用向きを」


 クライン氏は事務的に促した。

 リアは笑顔を引きつらせたまま、


「え、ええ、ではあらためまして、リア・スティッグウッドと申します。若輩ではございますが㈱ノーザン・クエストの代表をしております。こちらが当社社員の──」


 俺はリアに続いて名刺を差し出した。


「渉外部兼盗人(シーフ)のフィル・エメリックです」

「わ、わたしは経理部兼法務部兼聖職者(ドルイド)のジュール・オーベルと申します。あ、あの、さ、先ほどはとんだ失礼をいたし──」


 しどろもどろで、しかも長くなりそうなオーベルの挨拶をリアが笑顔で遮って、


「本日はご多忙のところ、お時間を頂きありがとうございます。こちらの大迷宮商会さまには、父の代から大変お世話になっておりまして」


 表情をかえずに聞いていたクライン氏は、


「ああ。どこかで聞いた名前だと思ったら、あの英雄スティッグウッドの。これはこれは、あれほど#御立派__・__#なお父様の跡取りとは、なかなか大変なことですな」


 言葉に含まれた皮肉を感じとって、リアはぐっと拳を握った。

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