2 邪気まとう扉
「行こう」
リアは厳しい顔で頷いた。
オーベルもついに覚悟を決めたのか、眼鏡をずり上げながら賛意を示した。
階層地図によれば、目指す最深部は目と鼻の先だ。
俺たちはのしかかる重圧を振り払うように、これまでの生涯でもっとも近くて遠い距離を、細心の注意を払い進んでいった。
やっと辿りついたとき、そこにそびえ立つのは巨大な木製の扉だった。
長い年月を経て黒ずんだ扉には、忌まわしい邪気がまとわりついているかのようだ。
俺は気力をふり絞って腕を振りあげたが、
「待って。あたしがやる」
またしてもリアが制止した。
名目上、彼女がこのパーティ、いやギルド全体の代表ということになっている。それなりの責任感を背負っているのだろう。
俺はあらためてリアの暴走に留意しながら、一歩ひいてその役割を譲った。
リアは深呼吸してから、木製のドアを三度叩いて、
「お世話になっておりま~す! カスバ市と共に歩んで三十年、真心で皆様のご要望にお応えする、信頼と実績の㈲ノーザン・クエストでございます! 本日は購買担当のクライン様と、ご面会のお約束をいただいてま~す!」
と、元気一杯に叫んだ──
そんなわけで俺たちは、これから社運をかけたプレゼンテーションにのぞむ。
敵は強大。その厳しい採用基準で幾多のギルド、数多のパーティ、夥しい冒険者を廃業においやってきたクエスト業界の大手・大迷宮商事㈱だ。
プレゼンがうまくいかなかったら?
今は考えたくない。
こんな状況で何だが、もしあなたが各種討伐、捕獲、採集、捜索、調査、輸送、護衛、その他をどこに依頼するか決めかねていたら、ぜひともカスバ市ハンブル区マージー通り196-2の㈲ノーザン・クエストにご用命を。
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俺? こないだ入った新人だけど、それが何か?