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8、いかにもな遺伝子

(うーん……微妙にずれたなぁ……)


ドラグナーの仕事部屋へ差し入れに行き、序でに少し仕事を手伝ってからの帰り道、送りますよという好意甘えて魔術で移動させてもらったら、目的地とは違う場所に辿り着いてしまった。


(やっぱり術を使う相手と一緒じゃないと、到着軸がぶれてしまうのは避けられないのかな?)


ハルナ自体が魔力を持たない影響なのか、魔術や魔法による移動方法を使う際、術者と一緒でない時はどうも到着地点がずれてしまう様だった。

魔石のペンダントを着けてからはそこまで酷い誤差は無くなったが、何も着けて居なかった頃に一度だけ行った実験では全く見当違いの場所へ飛んだ事がある。(その時は、血相変えたウィンに迎えに来られ、暫く移動実験は中止となっていた)

ウィン以外の術者でも結果は同じみたいだ。


これは研究データとしてウィンに要報告……と、ハルナは考える。

ただし、伝え方は大事。

間違えると、ちょっと拗ねるだけなら良いが、下手をするとかなり臍を曲げられてしまう可能性があるからだ。


(ただでさえ、今回は仲間外れにしてるからね)


今回、ドラグナーの仕事部屋には、ハルナ一人で出向いていた。


ほとんど個室状態のウィンの部屋と違って、ドラグナーの仕事部屋はお弟子さんや部下が複数在籍している。

そこへ、ウィンも時々仕事で出向く事があった。


一度ハルナが料理を作ったらそれしか口にしなくなってしまったウィンにご飯を届けている内、興味を持った彼らが自分たちも異世界の料理を食べてみたいと言い出したので、本日、それを持って行くに至ったのだ。


ウィンには自分の持ち場できっちり自分の仕事をしてもらっている。


だから、留守番で仲間外れにされたと拗ねてしまう前に、夕飯でウィンの好きなものを沢山作ってご機嫌とりでもしようと、ハルナは決めた。



暫く歩いて居ると、魔剣士の修練場の側を通り掛かった。


(今日はケイトいるかな?)


せっかくだから、ケイトの様子を少し覗いてみようかなとハルナは思い立つ。

もしケイトに余裕がありそうだったら、多めに作って余ってしまった差し入れの消費も手伝ってもらおうと思っていた。


「おう、ハルナじゃないか」


修練場に近付くと、数名の剣士の人たちが声を掛けてくれる。


ケイトに借りた制服を着ていた一件と、手伝いで時々、薬を届けたりしていた事で、ここに所属する何人かの魔剣士たちとは顔見知りになっていた。


一般的な王宮の兵士や騎士と違い少し特殊な魔力の持ち方をしている為、魔剣士たちは魔法省の所属になってはいるが、基本変わり種集団の魔術師魔法師達に比べて、彼らは幾分話し易い。


制服の件も事情を知るや、魔法省に出入りするなら目立たなくていいだろうと、更に数着貸し出してもらえたので、今も有り難くそれを着用させてもらっている。

因みに、一番初めに借りたものはケイトに貸し出されてサイズが大きかった服らしいが、何故、ケイトがその服を取り換えてもらわず、持ったままにしていたのかは謎である。



剣士の人たちにケイトは居るか訊ねると、快く鍛練中のケイトの場所へ案内してくれた。


途中で何故か、修練場という言葉にそぐわない、ドレスやら侍女服やらを着た女性達とやたらとすれ違う。

ハルナの様に、訪ね人が在って来た者も居るのだろうがそれにしては数が多い。

ハルナは首を傾げた。



「あれ?ハルナさん、何かご用でしたか?」


案内されて来たハルナを見付けて、ケイトが声を掛けて来た。


「特に用って訳じゃないんだけど、近くに来たからケイト居るかなって」


後は、これ、手伝ってもらおうと思って……と差し入れの残りを示すと、ケイトは破顔して、


「僕、ハルナさんの料理好きなんです」


と、大変可愛らしい事を言ってくれた。


嬉しくて思わずケイトの頭を撫でたら、それはもの凄く嫌がられる。


「幼子ではありませんのでそういう事をしないで下さい」


と言うケイトに、ハルナが「ごめん」と謝った時、少し離れた場所からざわめきと黄色い歓声が上がった。


「ケイト、気になってたんだけど今日は何かあるの?」


先程すれ違った女性たちを思い出し、ハルナはケイトに訊ねる。


「ああ、演習試合をしてますからね。たぶんそれだと思いますよ」


と、ケイトは答えてくれた。


「特に今日はアルさんがいらっしゃいますからね」


「アルさん?」


聞き慣れない単語をハルナは繰り返す。


「はい、アルさんです。……まだお会いした事ありませんでしたっけ?」


「ええ、覚えが無いわ」


「そうでしたか。……魔剣士の中でもかなりお強いかたですよ。それと、女性のかたにも人気がありますね」


気になるならご覧になってみますか?というケイトの誘いを受けて、ハルナは歓声の上がった一角に足を向けた。


試合を覗いて見ると、黒髪の体格が良い男とそれよりやや細身な銀髪の男が剣を合わせている姿が目に入る。

どちらも初めて見る男だ。


黒髪の方は男らしく、銀髪の方は壮麗ではあるが、どちらも端正な顔立ちをしており、成る程これは黄色い歓声が上がる訳だな……と、ハルナは得心が行く。


黒髪の男の服装が魔剣士の制服では無かったので何故かとケイトに訊いてみたら、騎士のものであるという事だった。


「アルさんと手合わせしたかったんでしょうか、態々出向いていらっしゃったみたいですね。……魔剣士の制服を着たかたがアルさんですよ」


言われて二人を見比べる。

初め拮抗していた打ち合いは、徐々に銀髪のアルさんが圧し始めている様だった。


剣の合わさる音が、キィィンという余韻のあるものではなく、カンッ、ジャッ、ズザッと短い音の連続である事と、動きが動体視力ではほとんど捉えられない事で、詳しく無いハルナでも二人が戦闘に長けているのであろう事が判った。

しかしそれも段々と黒髪の方の動きが鈍くなって行き、銀髪の突きが黒髪の剣を弾いた事で、やがて終わりを迎える。


すると、より一層大きな歓声が辺りを包んだ。


お互いを称え合った握手が交わされたところで、どこからともなくほうっとため息が上がる。


(あれ……?)


負けた方の黒髪が穏やかな笑みを浮かべているのに対して、勝った銀髪の方は何故か面白くなさそうな顔ををしている……が、その仏頂面に、ハルナは既視感を覚えた。

銀髪の彼を見たのは今日が初めてな筈なのに……。


そして、その顔にどことなく腹立ちを覚えるのはなぜなのだろうか。


そう思って、ハルナは銀髪の男を注視する。

すると、こちらを向いた銀髪と目が合ってしまった。


ハルナの視線に銀髪は怪訝な顔をする。


(あ……、いかにもな王様……!)


その不快げな表情が記憶の中の顔と一致し、既視感の正体に気付いたハルナは、慌てて視線を反らした。


銀髪の男の顔は、髪などの配色は違っているが、こちらに連れて来られたその日に高くから見下ろされたあの顔に似ている。


「ねぇ、ケイト。変な事訊くんだけど……銀髪の人の方、もしかして王様と親戚だったりする……?」


そっと人混みの陰に隠れながらハルナはケイトに訊ねた。


「親戚というか……」


「おい、お前」


ケイトが答え様としてくれた時、それを遮る言葉が掛かる。

いつの間に近付いていたのか、目の前に銀髪の男の姿があった。


男は直ぐ近くで、あの時の王様の様にハルナを見下ろしながら言う。


「お前……何者だ?」

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