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6、称号

魔法省があるのは、宮廷内の、魔術師、魔法師などの魔法に携わる者たちの仕事場や居住地がある区画なのだそうだ。


ハルナが連れて行かれたウィンの私室もこの中にあるという。



「ここって結構広いのね……ウィンは移動に魔法?を使ってたから全然分からなかった」


「移動式の魔法や魔術が使えるかたは遠いと大概それで移動しちゃいますからね」


「ということは、こうしてケイトから案内して貰う機会が無かったら、ずっと部屋の位置関係を知らないままな可能性があったんだ。ありがとう、ケイト」


「いいえ、案内する事になったのは偶々ですので礼には及ばないです」


あれから暫く周辺の案内を受けて、少し休憩しようという事でハルナとケイトはこうして魔法省がある建物の食堂で雑談していた。


使用時間のピークは過ぎているらしく利用者はさほど多くない。


「まあ、魔術師や魔法師のかたはあまり食堂に来ないので、利用しているのは僕の様な別職か、魔法省のかたに使える使用人たちがほとんどで、元々そんなに多くは無いんですけどね」


そうケイトが言うので辺りを見回せば、確かにウィンが着ていたローブの様な服装をしている者は見当たらなかった。


「あれ……?」


そうして見ていて、ハルナはふとある事に気が付いた。


「ねえ、ケイト……私が着てるこれってどこかの制服なのかな?何か同じ服を着てる人がちらほらいるみたいなんだけど……」


「はい、そちらは僕が普段着ている魔剣士の制服です」


「あ、やっぱり制服なんだ……というかそれって私が着て大丈夫なやつなの?」


シンプルなジャケットとパンツのスタイルだったから特に気にせず着させてもらっていたが、制服という事ならば部外者が着ているのは不味いのかも知れない。


「王宮所属とは言え元々はみ出し者の集団ですし、騎士団ほど規律はきつく無いんで大丈夫ですよ」


ケイトは言うが、それにしては同じ服を着ている者たちは皆チラチラとこちらの様子を窺っている様に見える。


「ハルナさんが注目されてるのは見ない顔なのと……後は女性がそれを着てるからじゃ無いですかね。今、王宮の魔剣士には女性が居ませんから」


「それはあんまり大丈夫じゃないかも……」


服を借りた身分で言うのもなんなのだが、右も左も分からない異端の身で目立つのは避けたい……というのがハルナの心情である。


しかし、そんなハルナの心は瞬時に大きな上書きで打ち消された。


「ハルナ!ハルナ!ハルナ〜〜っっ!!」


声のした方を見れば、周辺の大きな注目を集めながら、ブンブンと手を振り、笑顔でこちらに駆けて来るウィンの姿が見える。

後ろには、朝方の男が続いて歩いて来た。

その眉間には相変わらず深いシワが刻まれている。


二人の登場に、周囲がより一層ザワザワとざわめき始めた。

その中に「閣下と猊下が食堂に居るぞ」という声が聞こえて、ハルナは首を捻る。


「閣下と貎下って何?」


「平たく言えば渾名ですね」


小声でケイトに訊ねれば、釣られた様にケイトもこっそりハルナに耳打ちしてくる。


そんなハルナたちにスッと手が伸びて来て、二人は引き離された。


いつの間にか近くに来ていたウィンの手ががっつりとハルナの首に巻き付いてくる。


「ケイトずるい」


「それはどうも」


「……ハルナおれのなのに」



恨めし気に言うウィンの言葉をケイトはスルリと流す。


ウィンがポソリと聞き捨てならない一言を呟いたが、突っ込むと面倒くさい方向に突入しそうだったのでハルナは触れない事にした。



「バートランド、見付けたのだからもう良いだろう。持ち場に戻れ」


「やだ」


「お前は……その異界の女性を見付けたらきちんと仕事をするという約束だったではないか!」


眉間に皺を寄せた男は一連のウィンの様子を、暫く黙って見ていてくれた様だが、ついに耐えかねたとばかりに口を開く。

今朝からの様子を知っており、更にそれを耳にしたハルナは、これは無視できないとばかりに男の援護を決めた。


「ちょっとウィン!先ず、正当な理由も無いのに仕事を放棄するのは良くないし、その上で約束した事を破っちゃ駄目じゃない!!」


若者は遊びたい盛りなのかも知れないが、如何せんハルナは社会人として数年を過ごした身であるため、どちらかと言えば眉間に皺を寄せた男の方の気持ちがわかってしまう。

説教くさくなってしまったハルナに案の定ウィンは唇を尖らせて不満を露にした。


「ハルナがジークハルトみたいなこと言う……」


自分の言葉で、完全に不貞腐れてしまったウィンを見てハルナはさてどうしようかと考えた。


「どれだけ仕事が嫌なのよ」と若干呆れる部分もあるが、止めを刺していじけさせてしまったのはハルナなので、このまま仕事に向かわせてしまうのも忍びない。


「あの……ジークハルトさん……?ウィンのお仕事って部外者が居ても大丈夫なものですか?」


眉間に皺を寄せる、推定ジークハルトにハルナは訊ねた。


「ジークハルト・ドラグナーだ。通常業務だから特に機密という訳ではない。問題は無いが……?」


「ハルナと申します。……ではドラグナーさん、邪魔はしないとお約束しますので、仕事中私がウィンに付き添うのをお許し頂けないでしょうか?」


「ホント!?」


許可を求められたドラグナーが応える前に、ウィンがハルナの言葉に反応した。


「……いいだろう」


ウィンのその切り替わりぶりを見て思うところあったのかドラグナーが言う。


「あ、じゃあ僕も同行していいですか?」


そして、今日は特にやることが無いので……と、ケイトが続いた。



この時その様子を遠くから見ていた食堂に集まった人々が、


「あの貎下を手懐けているぞ!」


やら、


「閣下が折れた!」


やら、


「ケイトまで懐いてるんじゃないか……?」


やら、


密かに噂し。


『猛獣使い』

……の、称号が彼女に付与された事をハルナは知らなかった。

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