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40、出会い

「なんでみんなみんなぼくのじゃまをするんだぁぁぁっっっ!!!!!」


それはハルナにとって、理不尽極まりない言葉としか言えない。

雄叫びと共に、ビュンッと細身の剣の切っ先が横を掠める。


どうしてこうなっているかは、ハルナにもよく分からない。

エルシュミットの城内で襲撃のようなものを受け、気がついたらここにいた。


屋敷と呼んでいい立派な内装の部屋で、なぜ自分は剣を向けられているのか。

この、ひたすら剣で突きを放ってくる人物は一体誰なのか。

対話をしようにも、相手は聞く耳を持ってくれそうにない。


一応、ハルナが目覚めた折りに一言、二言、何か言った気はするが、突然、咆哮を上げたかと思えば、今に至っていた。



間髪入れずに、二撃、三撃とビュンビュン繰り出されるそれらを避けながら、ハルナは、小学生の時に隣の席に座っていた子が、机上に開いて置いた手の五指の間に、鉛筆を高速でカツカツと突き立てて得意げにしていた様子を思い出す。

あれはナイフゲームと言って、本来、使用するのは鉛筆でなくナイフなのだと教えてくれたのは誰だったか……。


その鉛筆遊びをしていた子の顔や名前はもう覚えていないが、あの時のあの子の指はこんな気分を味わっていたのかもしれないと、ハルナは頭の隅で考える。

同時に、そんな事を考える余裕がある自分に驚いた。


(アルやケイト、魔剣士のみんなからするとだいぶ動きが遅いもの)


家柄の良さそうな姿をしている男性なので、恐らくは相手も、少なくとも護身程度には剣術を習っているのだろうが。普段ハルナが教えを乞うている彼らの動きには到底及ばない。


(あとは、ケイトのおかげかな)


剣を習いつつも、なかなか上達しないハルナに、『ハルナさんはまず剣を避ける事を念頭に置いた動きで考えましょう』と、提案して練習内容もそれに合わせてくれた。


(アルは「それじゃ実戦に向かないだろう」とか言ってきたけど)


そして、「『実戦』じゃなくて『自衛』が目的なんですよ」と、ケイトに嗜められていたっけ……と、その時のことを思い出し、思わず、ふふっと笑ってしまう。

それが良くなかった。


「おまぇぇぇっ、なにをわらっているんだぁぁぁぁっっ!!」


どうやら剣を振りかぶる男の逆鱗に触れてしまったらしい。


叫ぶと同時にさらに滅茶苦茶な軌道に剣が振り回され始めたのを、慌てて(かわ)そうとしたその時だ。

ハルナの足が、身につけていたドレスの裾を踏んでしまい、体が傾ぐ。

咄嗟の事に、連れ去られた時のドレス姿のままなのを失念して、魔剣士の制服を着ている感覚で動いてしまったのが(あだ)となった。


床と刃、両方の衝撃を覚悟した時、ふわりと体が何者かに支えられる。


「話したいだけって、言うから、時間、あげたのに……ごめんね」


後半の「ごめんね」は、ハルナにかけられた言葉らしい。

確かめれば、黒みがかった茶色の瞳がこちらを見ていた。


前に見た時は、衣装の関係で隠れていたので、その銀色の髪は初めて目にする。

しかし、褐色の肌や目鼻のはっきりした顔立ちには覚えがあった。


「あなたは……」


「ひさしぶり」


懐かしいものを見るような目をしてふわりと微笑むのは、エルシュミットに入る少し前に、招かれたパーティー会場で出会った青年だった。


「どうしてここに?」


「おれは、ついで。同胞が、聖女様におねがい、あって。かわりに仕事、受けたんだけど……」


そこで青年が視線をやった先をハルナも見れば、先ほどまで剣を振り回していた男が、気を失って倒れている。


「たしかに、おれ、依頼、(たが)えた。でも、もともとこれ、看過(かんか)できない依頼」


そう言ってから、青年はハルナに、「ちょっと待っててね」と言い置いてから、男をくるくると縛り上げた。


「彼、一方的に、王女様に執着してる。だから、ちょっと反省してもらう……ほんとはおれのすることじゃないけど、かあさま、傷つけようとしたから」


「かあさま?」


「うん、かあさま」


青年はコクリと首を倒して頷く。


「え?もしかして、かあさまって、私!?」


青年はまた、コクリと首肯(しゅこう)した。


(彼のお母さんくらいの歳に見えるって事なのかしら……?)


相手は、ウィンやユキと、そう歳が変わらないように見える。

だとすると、間違いなく、ハルナは年上ではある。年上ではあるのだが……。


ハルナは少しだけショックを受けた。


気落ちするハルナの様子を見てか、青年はこてりと首を傾げている。


「元気ない?」


「そ、そんなことは……ナイデス……ヨ?」


再び青年はこてりと首を傾げるが、ハルナのひきつった愛想笑いを見て、追及を止めてくれた。


そして、縛り終えた男を担ぎ、散乱していた椅子の1つに更に括りつける。


「これで、たぶん見つけてくれる。だから、ちゃんと諦めて、反省すればいい」


それから、何かの小さな包みを1つ、男の膝の上に置いた。


「使っちゃって悪いけど、もしもの保険……気づくといいけど……ううん、あの子なら、気づくかな」


何かを言って、一人で納得してからハルナに向き直る。


「いろいろ話したいことある。それから聖女様のところに行く。もう少しつきあって?かあさま」


あ、かあさまのままなんだ……と、ハルナは、思った。

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