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38、奇襲

その部屋に案内された時。衣装専用の部屋というものが存在し、そこから続きで着替え専用の部屋が在って、どちらもかなりの規模であることに。説明を受けながらハルナは、「へー」とか「ほー」の形に口が開いたまま、しばらく閉じられ無かった。


ハインツベルクの城にも在るのかも知れないが、生活の基盤は魔法省でありウィンの部屋で、王族の知り合いはカイン王子しか居らず。それも聖女のユキという共通の話題があって話す程度なので、その様な場所に足を踏み入れる機会は今まで無かったのだ。

元いた世界では平凡かつ庶民的な生活しか送っていなかったし、そういう事に携わる仕事はしていなかったので、尚のこと。

そうなるのは仕方ない……と、思ってもらいたい。


そして、現在。

衣装部屋の中に居るのは女性ばかりが数名。

ハルナとステラ王女。それから、ハルナたちとステラ王女のやり取りを知り、「私もハルナさんたちが着てたあの制服着てみたいと思ってたんですよ!」と言い出した、ユキ。

その他、着替えを担当する侍女たちが少し……というメンバーで構成されていた。


女性が着替えを行うという性質上、警護を担当する騎士たちは部屋の外に配置されている。


「男子禁制!」と言われて閉め出しをくらった、ハルナとユキ以外の旅の仲間たちも、恐らく、そこに控えているのだろう。



そんな中で、その衣装部屋の持ち主であるステラ王女のほうは、魔剣士の制服に袖を通しながら終始ご機嫌だった。


「この剣帯に剣を通すのだな?剣を通すのだな?」


特に、剣や武器を装備する為の部位に対する興味は、他に向けての関心よりも頭一つ二つ分飛び抜けているほどのはしゃぎぶりが見受けられる。終いには。


「私が生まれた時に献上されたという剣があったろう?あれを持て」


などと言い出し、実際に剣を装備までする始末だった。


「ステラは剣の心得があるの?」


持ち込まれた剣を手にし、部屋に備え付けられた大きな姿見の前で一頻りポーズをとり終えたステラ王女に、ユキが首を傾げながら訊ねる。


「いいや。……父上も母上も『女子は貞淑たれ』と、その辺りの考えは古いらしくてな。剣を目にするところまでは咎めはされんが、手に触れて繁々と眺めようものなら物凄い渋面を作られる。あれは、剣術を習いたいなど口にしたなら卒倒しかねんぞ」


「お姫さまって大変だねぇ……」


「立場的なものもあるし、兄さまに王位を譲り既に隠居の身ゆえ、娘のあれこれに口を出したくなるのだろうな。まぁ、当家の父上と母上は突き詰めて話せば理解を示してくれん事もないから、私など、カイン王子やアルバート殿よりマシだろう……ところでハルナよ、なぜ先ほどから黙っておるのだ?」


「いえ……ちょっと……体力と気力の消耗が……」


自らの雰囲気にはそぐわないだろう、黄色のふわふわしたドレスに身を包まれたハルナは、やや引きつった笑顔でそう応えた。

実はここへ至る迄に、ハルナのみ、三度の衣装替えを体験しており、くたくたである。


元々ハルナは、ただステラ王女とユキが魔剣士の制服に着替える様子を眺めていただけだったが、「ハルナだけ衣装替えせんのもつまらなかろう?」というステラ王女の一言に寄り、強制的に着せ替えショーに参加させられる羽目になってしまったのだ。

途中から、「ステラ様とはまた違った趣があって新鮮ですわ!」と、侍女たちに謎のスイッチが入ってしまったのが誤算だろう。

ショーの発案者のステラ王女やそれに乗り気なユキよりも、手間も隙もかかっているというのは解せない。


「いやしかし、ハルナよ、なかなかに様になっているではないか。……だが、もう少しシュッとした感じがお前には似合いそうだな。どれ、今度は私が見立てたものを……」


「すみません……もう、勘弁してください……」


「ははは、冗談だ!」


憔悴仕切った様子のハルナに、ステラ王女がからからと笑い声を上げた時だ。


「二人とも逃げて!!」


突然、ユキの叫びが部屋へと響き渡る。


「ユキ?」


そちらを確認しようとする前に、部屋は暗闇に包まれた。


(え……何が……?)


答えを見つける前に、ドンッという鈍い衝撃がハルナの首の辺りを襲う。


何も分からぬそのままに、ハルナは意識を失った。



***



「意外にも早く機会が廻って来たのは大変結構なんですがね……こう、俺一人が大変なのは割に合わんのですけどねー…」


片腕に仕事の成果である聖女を抱え、侍女の変装を解いた男は。そうボヤきながら傍らに居るもう一人の男を見た。


「てか、オタクさん、それ、わざと間違えたでしょ?」


今回の仕事の相棒である筈のその男は、本来ならばこの国の王女を連れてこの場にいなければならない筈だった。


しかし、相手が抱えて居るのは、格好こそドレス姿ではあるが、全くの別人である。

目眩ましのために部屋を暗くしたとは言え、気配を読む事に長けている筈のこの男が、それで間違えるとは到底思えなかった。


半ば呆れを含ませた声で問えば、言われた男は悪びれもせずに、こくりと頷く。


「うん……わざと」


「その開き直りはどうなのよ……」


その飄々とした様子に、思わず脱力してしまう。


「まあ、俺たちに必要なのは聖女様だけなんでいいっちゃあいいんだが……それ、あのオッサンにはお前が上手く説明しとけよ?」


そう言うと、相手は再びこくりと頷いて、抱えて居るドレス姿の女を大事そうにぎゅっと抱きしめた。


(一目惚れして拐ってきたって訳でもあるまいし、その女に一体何があるっていうんだか……)


同郷であり、昔から顔を知っても居るが、男はこの男自身の事をあまり知らない。

その理由は、相手が無口でほとんど言葉を発しない事が原因ではあるのだが……。


自分たちの住む地域の特徴である褐色の肌に銀の髪。

そこまではこの男も同じだが、その目だけが……自分を含め(あかがね)色をしている他の住人とは違い。この男だけ、暗闇ではほとんど漆黒にに見える黒味がかった茶の色をしているのも、謎であった。


(あー…、一つだけ知ってることあったわ……)


それは、魔力を有しているにも関わらず、この男からその魔力の気配を一切感じられないということ。


独特の魔力を持つ同郷の中で、この男と自分だけが違った魔力の在り方をしている。


故に、この度の作戦では、自分とこの男が選ばれた。


(あれ?魔力の気配といやぁ……)


大事そうに抱えられている、ドレス姿の女のほうからも、その気配を感じられない気がする。


聖女からは、流石は破魔の力だというべき光の神気が感じられるので、自分の感覚が狂ったという訳ではないだろう。


(小さ過ぎて判らない……って感じじゃなさそうだな。でもって……)


これは勘だが。その、魔力が感じられない感じは、女を抱きかかえている男自体に似ているのではないかと思った。


(そこら辺が拐ってきた理由か……?)


そう当たりをつけるが、今は考える事ではないな……と、男は首を振る。


今は、拐ってきてこの手に抱えている聖女を、目的の場所まで運ぶことが優先だ。



「話したいことがあったから……ごめんね……」


直ぐ近くでぽつりと呟かれた、もう一人の男の言葉を、男が拾う事はなかった。

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