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26、旅の準備3

「俺は、行くつもりはない」


魔剣士の修練場を訪れて、聖女の旅の話しをすれば、アルが言った。


「……と、言いたいとこだけどな。ウィンと同じ結論になって癪だが実際は迷っている」


自分がいれば旅は楽になるだろうが、居なくても他のメンバーがいれば事足りるだろう。というのがアルの見解だった。


けれど、迷っている理由は、自分が居ることによって通りやすくなっている、カイン王子の提案にあるのだそうだ。


「俺が抜ければ国王(じじい)と上層の連中がまた渋り出すだろうからな」


国的にもアルとしても、王がこのまま聖女の浄化に関する件を掌握しているより、カイン王子に実権を握ってもらった方が都合が良いのだという。


「加えて、聖女の浄化を成功させれば、国の上層や国民にアイツの手腕を示す事にもなるだろう」


そうすれば国王(じじい)の退役を促しやすくなる……と、アルは続けた。


「もしかして、アルはお兄さんに王になって欲しいと思ってるの?」


「アイツが王になった方がが、このままじじいが王であり続けるよりは有益だと思っている。じじいの考えは時代錯誤過ぎるんだ。あとは……………………………………………………少なくとも多少柔軟性があるアイツの方がましだからだ」


「なんだかんだと言いながら、実はアル、お兄さん好きよね?」


たっぷり不自然な間を空けて言ったアルの言葉に、ハルナはそう思った。


属性反発の影響で、カイン王子から離れて避けている筈なのに、アルはカイン王子の事をよく見ていると感じられたのだ。

指摘した途端、「違う!」と、反発のお言葉をもらってしまったが……。


「それよりハルナ、お前はどうするんだ?」


気を取り直すようにアルが言った。


「俺としてはハルナに来てもらえれば助かるんだが……」


やはりウィンと同じで、アルは迷っていると言いながらも、すでに同行する方向に心は傾いているようである。


ただ、アルは光属性に反発する、高い闇の内包魔力持ちであるというところがやはりネックとなっていた。


旅のメンバーには、先ず、光属性の代表格とも言える神気を持つ、聖女のユキがいる。

魔術師として対抗策を持つ筈のウィンでさえユキと長時間居れば魔中りを起こすくらいなのだ、装身具や魔法省という外的要因で反発軽減を補っているアルはその影響を大きく受けてしまう事になるだろう。


そこに加えて、王族であるカイン王子は光属性の魔力持ち。

更に、そのお付きの騎士である男性も、王族の親戚であり、光属性の魔力を持っているらしい。

ハルナが初めてアルを見たとき、彼と対峙していたアルが終始顔をしかめていたのはその為だったようだ。


ハイネ・ハインリヒやユキの従者の彼がどうだかは知らないが、この段階でもうだいぶアルは苦しいだろう。


「私も助けになればって思うんだけれど、ご覧の通りの剣の実力だからかえって足手まといにしかならないのよ」


「お前を守るくらいは出来る」


「ユキを衛りながらじゃ難しいと思うわ。絶対にどちらかの……若しくはどちらの注意もおろそかになるもの。それともアルは、両方に危険が伴った場合はすっぱり私を切り捨てられる?」


「そんな事出来るわけないだろうが!」


やっぱり。

と、ハルナは思った。


今ハルナが告げたような緊急の場面におちいっても、アルはハルナを見捨てる事が出来ない。


戦闘素人のハルナにははっきりと判断できないが、確かに、普段のアルの様子を見れば、事実ハルナとユキ双方を護る実力があるのだろう。


けれど、聖女を護ること一点に集中出来ないというそれは、どこかで隙になってしまうかも知れない。


「それじゃ聖女の護衛の意味がないでしょう」


「あのっ!」


そこで、それまで黙って二人の会話を聴いていたケイトが声を上げた。


「ハルナさんを護る役目、僕に任せてはくださいませんか?」


「え?」


「選定された旅の人員に、僕は組み込まれていません。僕には聖女様を衛る義務も責任もない」


そして、ケイトはハルナを真っ直ぐ見つめながら言う。


「僕なら……僕ならハルナさんだけの剣士になれます。僕にハルナさんを守らせてはもらえませんか?」


それに対してハルナが何か言う前に、応えたのはアルだった。


「ケイト……お前の剣の腕は確かに認める。だが、お前は魔剣士の中でも俺たちとは事情が違う。お前が魔法省の……まして、城の外に出ればどうなるか、自分自身でも解ってるだろうが?」


「それは承知の上です」


ケイトはその真剣な眼差しを、今度はアルに向けて語り始めた。


「承知の上で、それでもそうしたいんです。させて欲しいんです。このままでは僕は一生城の外を知ることなく生涯を終えるでしょう。でも、ハルナさんが居る今ならそれが可能かも……いいえ、可能なんです!僕は外を見たい。自分の生きている世界を見たい。だから……ハルナさんを利用する形になって申し訳ないですが……僕をハルナさんの剣士として旅に加えて下さい。その代わりになるかは分かりませんが、精一杯ハルナさんをお守りすると誓います」


ケイトの言葉を聞いたアルは、ゆっくりとまばたきをする。

そして小さく息を吐いた後、言った。


「外に出てみたいと言うお前の気持ちは解らんでもないからな……それに、ハルナが居ることにかけたい気持ちもな……分かった、上への報告と掛け合いは俺も手伝おう」


「ありがとうございます」


「ハルナ」


「はい!」


ケイトに向けたアルの言葉を聞く側に回っていたハルナは、そこで自分の名前が呼ばれたことに驚いて、少し声が裏返ってしまう。


「ずっとケイトと剣を交えていたなら分かってるとは思うが……ケイトならお前の守護者に申し分無いと俺は思う。それを踏まえて、お前はどうする?」


アルの問いかけ。


二つの真剣な目がハルナの発言を待っていた。


「私は……」

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