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22、熱

朝方、ウィンに抱き寄せられる気配を感じて、目が覚めた。


「ウィン?」


それは別に珍しい事では無いけれど、今日に関して言えば、「力無く」、「ふらふらと」、という言葉がしっくり当てはまりそうな様子だったので、ハルナは「おかしいな?」と思い、ウィンの方を見る。


「ちょっと、ウィン!あなた、熱が出てるじゃない!!」


姿を見て、その顔が妙に赤みを帯びている事を訝しみ額に手を当てて確かめたら、ウィンの額は驚く程に熱かった。

そう言えば、抱きしめてくる体温も、普段より高いと気付く。


(一体いつから……?)


昨日、ユキ達と分かれて、湯あみをし、寝台に入ったところまではおかしな所は無かった。


だとすれば、夜中……ハルナが眠ってからこうなったという事になる。


「苦しくなったのなら起こしてくれればよかったのに……」


「そこまではできないよ……」


ハルナの言葉に、うっすらと目を開けたウィンが、弱々しく笑った。


「それに……こうしていればそのうちよくなる……」


(そうは見えないんだけど…)


とりあえず水枕でも用意しようかと思い、起き上がろうとしたら、それを止められた。


「ほんとに……こうしていればよくなるからさ……」


「でも」と、ハルナがいい募ろうとしたら、ウィンは力なく、首を振り、言う。


「これ……魔中り(まあたり)だから……」


「まあたり……?」


それは、属性反発によって起こされる体調異常なのだそうだ。


身体の中に蓄積された、反発する魔力によって起こるストレスみたいなものに耐えきれなくなって起こるものらしい。


「おれさぁ……実は地味に内包魔力も全属性そこそこあるんだよねー……」


そう言ってウィンはいつもの様にへらりと笑おうとしてくれているのだけれど、その表情にはやはりいつもの様な元気は無かった。


「一応魔術師の端くれだから避けようとはしてたんだけどねぇ……聖女さまの力は……あそこまでくると……さすがに防ぎ難いんだよなぁ……」


「もしかして、昨日調理中もくっついてきたのって、それが理由?」


スキンシップ過多で割りとひっつき虫な傾向のあるウィンだけれど、今まで刃物や火を使う事がある料理の最中にああいう感じでぴったりとくっついて来ることはなかった。


だからと訊ねれば、ウィンからは「うん……まぁ……」といった言葉が返る。。


あの時は、同じ様にアルがくっついていたし、二人はたまに対抗意識露に言い争っている事があるので、そのせいかとも思っていたのだけれど、違ったみたいだ。


「実は……ハルナの中におれの中の魔力逃がして、聖女さまの力をやり過ごそうとしてたんだ……ハルナの中には魔力も抵抗もないから何の反発も起きないし……」


でも勝手に利用してごめんね……と、ウィンはハルナに謝って来た。


「私には何も影響ないんだし、それくらい……あ、でもそれじゃあウィンがこうなったのは私のせいね。あの時、理由も確かめずに注意したから」


「どのみちアルバートがすでにハルナの中に自分の中の魔力をさんざん流してたからあの時おれには何もできなかったよ……アルバートの魔力には反発あるからね……」


「それも気付かなかったわ……昨日、カイン王子に会った時からだったから、『私を盾にして光の魔力を避けてるんだな』くらいにしか思ってなかったの……ほんとにごめんね」


「いや……てか、おれの一方的な都合じゃんか……何も言ってなかったんだしハルナのせいじゃないよ……」


そんなの気にしちゃだめだよー……と、笑う様が苦し気で痛々しい。

だから余計に、負担を軽減出来たかも知れないのに、それを出来なかったのが悔やまれた。


「でもさ……」


と、そこでウィンが付け足した。


「アルバートとハルナがおれおいて出かけてたっていうのは謝って欲しいかなぁー……」


そこで、苦し気ながらもニヤリと笑ったウィンの顔を見て、ハルナはこれが、この話はもう気にするなというウィンの合図だと知る。


だからハルナは、今度は自分からウィンをぎゅっと抱き締めて、頭を撫でながら言った。


「今度はウィンに買い物の付き添いお願いするわね」


胸の辺りで、ウィンが笑った。


「おれもさ……ハルナに会えて運がよかったって思うよ……力逃がせるとかそういう理由じゃなくてさ……」


少しくぐもった声でウィンが言う。


分かったよ……という意味を込めて、再びハルナはウィンの頭を撫でた。

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