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18、金のアル、再び

「野菜や果物……あ、小麦粉やバターなんかもある!」


「種類のある野菜と果物はともかく、小麦粉にバターなんて城でも出入りの業者が売ってるからめずらしくも無いだろうが」


「アル解ってない!お好み焼きや焼きそばは家でも作れるけれど、お店で食べるそれはまた異った味わいで、更にお祭りの出店で食べるともなれば、格別なものよ!そういうものなの!!……アルだって武器の整備やら調達に城下まで出向いてるでしょう?」


「そう言われるとそうだが……その、おこの?……と、やきそ?……は何の事だ?」


「食べ物。今度作ってあげる……ああ、でも私ソースは市販の使ってたから作り方知らないや……」


アルに連れられて来た城下の露店街で、もの珍しさにハルナの気分は高揚していた。

石造りの古めかしい街並みに並ぶ色とりどりの露店に、同じくさまざまな色彩を纏った人々が行き交う様子は、緊張感が漂う厳格な城の中とは違い、異国の……異世界の、気安く楽し気な側面を存分に感じられた。


その、常とは違いあれもこれもとキョロキョロしながら忙しなく動くハルナの姿に、アルが吹き出す。


「突然、何……?」


「いや、冥利に尽きると思ってな」


くっくと笑うアルに、ハルナは一度、うろん気に視線を投げてみせた後、「何冥利よ」と言って自分も笑った。



(ウィンのお土産はやっぱり食べ物かなー?ケイトや……ドラグナーさんのところのみんなにも、何か買って行こうか……)


そう思案しながら店を物色するハルナの後ろを、アルがしっかりとついて来る。

それを見ていたらしい露店の店主が声を掛けて来た。


「夫婦で買い物かい?仲が良くて羨ましいねぇ」


「ふうふ?」

「そう見えるか!」


何の事かとハルナは首を傾げる。直ぐに言われた事に気付いたアルと理解にタイムラグが生じた。

ややあって言われた事を理解したハルナは「ああ違いますよ」と店主に応じる。


すると、アルが額に手を当てて項垂れた。


「分かってはいた……分かってはいたが、それでも動揺するとか向きになるとか他に何かあったと思うんだが……」


そんなアルを、店主が慰める。


「お兄さんみたいな色男でもままならない事があるもんなんだね」


「解ってくれるか……オレンジを三ついただこう」


「毎度……あ、リンゴ一つおまけで」


その姿を見て、見事店主と友好関係を築けた様で何よりだとハルナは思った。



露店街での買い物を終え、何処かで休まないか?とアルの提案に、少し羽目を外し、疲れたハルナは了承を返す。



「腕でも組んで歩いたら少しは認識も変わるか?」


道中、聞いてくるアルに、「そんな事せずとも……」とハルナが言い掛けた時だ。


急にアルの体がビクリと揺れる。

そして、突然ハルナの方に体を寄せ、腕をぎゅっと掴んで来た。


「アル……」


「違う!……違わないけど……これは違う」


焦り出し、要領を得ないアルの様子に、ハルナが再び何事か問おうとした時、そこへ不意に声がかかった。


「久しいな、アルバート」


声の主を確認して、ハルナはアルの行動の原因を理解する。

アルとよく似た姿によく似た声。その髪の色だけが異なる、さながら金のアルと呼べるその人は……。


(カイン王子!)


元王子アル……ことアルバートの兄、カイン王子がそこに立っていた。


前に城で見た時より、格好が大分簡素である。

しかし、顔は現物のよく似た顔が直ぐ横に居るので間違え様も無い、カイン王子その人だった。


カイン王子は、今日はいつかみたいに一人では無く、体格の良い男を一人伴っている。

こちらも簡素な服を着ているが、立ち方が洗練されている気がするので、通常業務は王子の護衛をしている人なのかも知れない。

アルやカイン王子に負けず、端正な顔立ちに既視感を覚えたが、どこで見たのかは思い出せなかった。


「ハルナ・ミドリカワも久しぶりだな」


男に向けられていたハルナの意識は、カイン王子からそう言われた事で、再び王子に戻される。


「はい、その節は」


ハルナが挨拶と礼を返すと、それを見てアルが目を見開き訊ねて来た。


「ハルナ、こいつと知り合いだったのか?」


「知り合い……というか、前に少しだけ立ち話した事があったのよ」


ハルナが言えば、「そうか」とアルがカイン王子を見る。


「アル、大丈夫……?」


その眉間にドラグナー張りの深い皺が刻まれたので、ハルナが小声で聞くと、


「一応、大丈夫だが……奴らと別れるまでこのままでいさせてくれ」


と同じく小声で懇願された。


「仲がいいんだな」


「ああ。それで、何の用だ?」


「実は、そちらのハルナ・ミドリカワに頼みがあってな」


「ハルナに?」

「私ですか!?」


カイン王子とハルナはさほど面識が無いため、てっきりアルに用があるのだと思っていたら、自分の名前が出てきたので、驚いてハルナはアルと顔を見合せた。

アルも驚いた表情でこちらを見ている。


序でに、往来を行き交う人がこちらを注目しているのも視界に映った。


そう言えば、ハルナ以外はどう見ても目立ちそうな集まりだ。


「それで頼みというのは……」


「その前に一ついいですか?」


なので、これ以上周りの注意を引く前に……と、口を開いたカイン王子の言葉を遮ってハルナは言った。


「お時間あるなら何処かでお茶しませんか?」


アルが先ほどよりも更に見開いた目でハルナを見ていた。

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