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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第九章 妖精の王
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妖精の王9

 丸一日…それだけでは足りないが、奈落を死守すれば、迂回路を通って歩兵を含むガーランド軍は、リムとグランツの馬車にたどりつけはしまい。


 一日ずれるはずだ。


 そうしてガーランド軍が焦れて反転し始めた頃、セシルローズたちが撤退すればいい。


「セシル様、薪の配置終わりました」


 自分の隊の双子を含む九人を使って馬車で運んでいた薪を組み上げ、馬が越えられない幅で並べると、奈落の端からやって来た陣営を見て火を放つ。


 馬の悲鳴のような嘶きと喧騒が、ガーランド王国軍から起こった。


「半分から後ろは待機」


 東から南に向かってなだからな下り坂の奈落の入り口に待機すると、油をかけた薪に火矢で火をつけた。


 上から狙われる可能性を考え、双子の弓を上に向けさせる。


 部が悪いのは、楽園騎士側だ。


 なんとかなる…いや、なんとかする。


 白の楽園に最短ルートで向かう奈落を封鎖したセシルローズが、混乱するガーランド軍の動向を見遣ると、一人の騎士が火の回りの強いところに立ち叫ぶ。


「リムを前に出せ。火の壁を蹴散らさせろ」


 防御のためのリムを先頭に立たせる…?バカな。


 セシルローズが考えていると、幾人かのリムが騎降し、


「なんなの…?」


ごうごうと燃えさかる炎に手をかざし、光を集め光壁を作り出す。


 燃える薪を二つに分ければ道幅が狭くなり、後ろの荷馬車が通らないのを理解しているからだろか。


 そのまま力業で押し返しているのだ。


 こちらにはリムがいない。


 第一の足止めは二人のリムの光壁に押し戻され、一部が奈落に音をたてて落ちた。


 このままでは、二つ目の足止めも突破されるだろう。


 セシルローズは隊長含め弓を得意とするカロルロッテに残酷な命令をした。


「カロル、リムを潰して下さる?」


 カロルロッテとはセシルローズと郷里が等しく、幼少のみぎりから見知っている。


 小さい頃は泣き虫の女の子だったが、セシルローズの残酷な願い事に、ショートヘアのブルネットのカロルロッテが、弓を手にして頷いた。


「カロル隊、油火矢を!」


「は、はい!」


 まだ年若い少年たちが、油を入れた羊の薄腸に油を入れた小さな袋を仕込んだ先端の矢じりを燃やした矢をつがえ、勢いふっ…と射きる。


 セシルローズはカロルロッテの行動に理解していた。


 それは残酷な凄惨な光景だった。


 矢は第一の足止めを完全に破壊して、煤だらけになったリムの肩を見事に居抜き、そして羊腸がその振動で破裂する。


「ひっ…あああ…マスター…」


「マスター、マスター…熱い…痛い…」


 火矢は一気に燃え上がり、油を浴びたリムが悲鳴をあげたが誰も近寄ることなく、二人のリムは焼きただれながら、抱き締めあい炎の中絶命していった。


 肉の焦げる臭いがふわりとして、セシルローズは南から吹く風に感謝した。


「矢を!」


 ガーランド軍に向かって吹く風は、臭いと煙すら足止めになる。


「足止めに掃射」


 セシルローズの号令で二番目の足止めに火矢を放ち防御の壁を作ると、再びリムを出して来て、火壁を押し遣りに向かう。


「セシルローズ様!上から!」


 動けないでいるガーランド隊の一部が、ロープを伝い壁から降りてこようとしていた。


 セシルローズたちの少し南に、騎士団の背後に回るつもりなのだ。


「射ちます!」


 待機していた双子が矢をつがうと放ち、


「ぎゃ…」


と鈍い悲鳴を上げたガーランド隊の歩兵の首に矢が当たり、その矢が土壁にめり込み男が力なくぶら下がる。


「ひいいっ…」


 二人めの歩兵が降りるのをやめ、なんとか崖を這い上がり、セシルローズが足止めの三番目へ火矢を号令した時だった。

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