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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第九章 妖精の王
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妖精の王8

 楽園騎士団の隊は三人一組であり、現在楽園にいる騎士はたったの十五人。


 東の駐屯地は半年前に壊滅。


 南の駐屯地は一月前に襲撃を受け、重傷者ばかりだ。


 そのまま放置されているが、南東の領地の大半はガーランド王国の支配下に下りつつある。


 殺害されたかガーランド王国に組みしたか、連絡すら来ない状況だ。



 だからこそ未開の南のルートを北上するしかない。


「では、エバグリーン様。奈落で足止めをします」


 美しい巻き毛のセシルローズが、エバグリーンの元にやって来る。


 セシルローズ隊を含め、黒のリムを連れている隊はない。


 残酷な任務だ。


 あちらはあちこちで騎士が入り、二百はいると早馬は話していた。


 しかし残りのリムとグランツを、なんとしてでも逃がさなくてはならない。


「頼むよ。足止めを一日してくれればいい。後は後退しジュリアス王国に向かうんだ。そこで合流しよう。偵察に出ている私の娘たちもそうさせるつもりだ」


「歌姫たちも…わかりました。一日防ぎ切ります」


 三隊九名が馬車と騎馬とで走り出し、同時に反対側からリムを乗せた馬車も、護衛がついて走り出した。


 エバグリーンは用意していた砂金を、世話係に渡すと村へ帰らせると、白の楽園は静寂に染まる。


「さて…」


 白亜のドームの中に入ると、エバグリーンは深い溜め息を吐いた。 


 そこには最悪の案件が存在している。 


 白い半円のドームの主が、繭になっていた。


 白い糸を吐き続けていた巨大な芋虫のモス…ジューゴ命名…が、急に自分の身体に糸をかけ始め、数時間もしないうちに楕円形の繭を形成してしまったのだ。


 ドームの真ん中に四方から糸で固定された繭は、宙にわずかばかり浮いており、艶やかな糸がたまにキシキシと鳴る。


 繭の中では劇的な変化をしているのだろう。


「どうにかしないと…ここにジューゴ君がいれば運んでもらえたのに…」


「今は動かさない方がいい。小さい頃、さなぎを揺らしてしまって羽化しなかった覚えはないかい?」


 白衣だった山本がエバグリーンと同じような詰め襟の白地に金と黒の肩飾りのある軍服を着ていて、老齢とは思えぬ山本の力強い姿にエバグリーンは思わず敬礼をしてしまった。


「私は虫嫌いでしたので、そんな経験はなく」


「やめなさい。わしはただのじじいだ。しかし…どうしたもんかな?」


 白衣を脱いだ佐藤と木村が白い布を持ち運びし、既に馬車にいる田中のところに運び込んでいく。


「山本司れ…あ、失礼。山本さん、砂金と身の回りのものは運び込みました。あとは私たちのみです」


 エバグリーンは加藤の素顔を見て驚いた。


 グランツと言われていたが、加藤の顔はまだ壮年然としており、いつもの白灰髪が黒くなり、山本と同じような軍服を着ていて、エバグリーンの胸が久々に高鳴る。


「加藤さん…?」


「はい、エバグリーン。加藤です」


「え、あの…」


 加藤が晴れ晴れと笑い、


「グランツは年配のイメージがあって、染め粉を使っていたんだよ。君の歌姫たちもそうだろう」


と片目を閉じてウィンクをした。


 歌姫たちは地域に適合するために、染め粉を使用していて、カラフルにはなっているが…。


「僕はまだ三十八だからね、緑里(みどり)さん」


「え!」


 エバグリーン…緑里は自分の方がやや年上だが、手中範囲内と加藤をロックオンした。

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