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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第九章 妖精の王
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妖精の王7

改稿済

「ガーランド王国の進軍だと?ここ、白の楽園にか!」


「はい、エバグリーン様、既に奈落手前の領地を召し上げ、さらに前進を」


 エバグリーンが早馬でやって来た騎士に叫び、箱庭のリムを怯えさせてしまったと、舌打ちをした。


「くそ…情報が遅い…。中央都市を見逃したから、こちらもと見ていたが…」


 黒の楽園を壊滅させた遊撃隊を警戒し、集めた楽園騎士を分散させていたのが仇になったようだ。


 事務官のような優男のカミュ大隊長は、セントラルに置いてきた貴重なリムの資料を取りに行き行方不明。


 遊撃隊に捕まったとの噂も、また、捕まる前に騎士団を焼き払い賊から資料を守りながら焼死したのではとも聞いている。


 エバグリーンは箱庭の中をぐるりと見渡した。


 十人ほどの子どものリムが世話役の女の回りに集まっていて、先日の二十日花で年頃のリムが主を持って出て行き、既にいない。


「リムとグランツを北に逃がす。馬車を用意しなさい」


 世話係は慌てて支度をしにいき、思わず深い深いため息を着いた。


 エバグリーンは内偵に行かせた三人娘が不在なのに悔しく思ったが、ここは自分が動くしかないのだ。


「こんなときに…ファナ君がいてくれれは…いや、やめよう」


 ワンピースのまま部屋を出ていたエバグリーンは、服を着替える。


 虫の布を何枚も重ねて厚くした白い立て襟の服は、折り返しがついたまるで軍服のようで、エバグリーンは流している髪を纏め上げると団子にして、こちらで手に入る頼りない武器である細身の剣を持った。


 銃があれば…とつくづく思う自分が嫌だったが、それを口に出せばライフルだの、ロケット砲だのと言いたくなってしまう。


「ここの平和は…かりそめか…進化の仮定の何かでもあるまい。人は二人以上いれば、争いから免れられない…か…」


「エバグリーン様、僭越ながら進言します」


 一人心地のエバグリーンの前に、早い段階から楽園警備に来てくれたセシルローズが双子の騎士を従え膝をつく。  


「セシル隊、カロル隊、トリアス隊の三隊が奈落にて足止めに当たります。エバグリーン様はリムとグランツを連れて北にお向かいください」


 美しい巻き髪の女騎士がエバグリーンの前に、片膝を着いたまま顔を上げ、胸に手を当てた。


「セシルローズ、分かった。すまないな」


 グランツが長い時間掛けて作り出した騎士団も、二十数名しか残らない。


 エバグリーンは白い廊下を駆け抜け、動き出したグランツの中で杖をついている木村を支えながら、移動の準備を願い出る。


「リムを馬車に!」


 世話役の女がリムを連れて、準備された馬車に乗せていく。


 泣き出すリムを叱りつける女を制して、エバグリーンはやんわりと微笑んだ。


「みんな、聞いておくれ。私たちはモルトのところに行くんだよ。モルトはリムの至高。助けてくれるからね」


「モルト」


「モルト」


 口々に呟き始めるリムたちが落ち着いてきて、山本が横に来てリムたちに頷き、リムは大人しくなる。


 馬車の幌を閉じて、山本が小さい声で低く呟いた。


「モルトの居場所はわかるのか?」


「いえ。黒の楽園に向かわせたファナ君がジュリアス王国にいてくれれば…を期待しています」


 通信機があればすぐに連絡がつくのに、悔しくてならない。


「そうか…。で、あれはどうする?世話係を残して出発するか?」


 一番の問題がそれだ。


「世話係は村へ返します。楽園は開け放ちましょう。砂金を持たせます」


「うむ…それがよかろう。ワシらもすぐに準備をしよう」

 

 リムの馬車を先発させ、セントラル中央都市を迂回し奈落を使わない悪路を選択し、ラクシューペル隊、ユーグ隊を付けた。 

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