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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第九章 妖精の王
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妖精の王6

 バチバチと稲光を放ち光球が剣の回りで煌めくと、怒りの為に帯電したクルイークが微かに発光しているように見えた。


 トロークは震えていた。


 自分よりも体躯の細い、成人して二年ほどの小僧に怯えている自分が腹立たしく、唸り声を上げる。


「リムを戦いの道具として扱え。リムは剣にも盾にもなる」


 クルイークが歩くとトロークが幕の端に寄り、


「道具を犯して殺して何が悪い!リムなんて人じゃない、家畜以下だろーがあ!」


と血塗れの簡易寝台のわきに立て掛けていた、己の剣を掴む。


 初めて得たリムは肌の香りもすこぶる高く、花売りの女どもの媚びを感じさせなかった。


 全裸のまま膝をつき、ローブを受けとる仕草も色香があり、それに溺れた。


 可愛らしさの中に奥ゆかしさがあり、それに溺れ壊したのは、自らの罪だと理解している。


 いつものように掻き抱き背後から犯すと、初めて小さく


「クルイーロさま…」


と小さく呟いたのを聞き、怒りに首を絞めてしまった。


 それは仮のマスターであり、リムを与えられている劣等感を感じさせ、死を伴うべく酷く壊し殺したのだ。


「リムを武器として扱えないお前は、仮のマスター失格であった。リムを癒し愛でることが許されるのは、モルニティ教大司教クルイーロのみである」


 パリリ…と剣が向けられ巨漢トロークが、軍の上官であるクルイークに向かって剣を構えた。


「そんなの…詭弁だろうがよ!」


「黙れ」


 トロークが剣を振り放りかざそうとした瞬間、クルイークが振りかぶるように雷剣を横に打ち込み、稲光を纏う刃を浴びたトロークの目を見開いた首が幕を吹き飛ばして転々と転がり、トローク隊の副官が悲鳴を上げ、周囲がざわつく。


「ひっ…」


 夕方のオレンジに晒されたトロークの巨漢には首がなく、時間差を持って血を噴き出し、剣を構えた身体がぐらりと傾いで、白の布を鮮血で染め上げた。


「現時点をもちトローク隊は副官が隊長となり、アーディーロ隊とする」


 リムはいないが、仕方あるまい。


 喧騒に出てきていた仮マスターである騎士に目を向け、


「リムを武器として扱ってこそ騎士だ。お前たちは仮のマスターに過ぎない。全てのリム主は我が半身でありモルニティ教大司教クルイーロと心得、リムに触れてはならない。リムは武器であり道具であり犯してはならないのだ」


 リムを愛でるのは大司教の美しい仕事であり、リムに名を降ろせるのは、クルイーロのみであらねばならない。


 だからこそ鮮血したたるトロークの髪を鷲掴みにし首を晒し、剣を天に向けてクルイークは叫んだ。


「いいか!リムは大司教の恩恵の上で与えられる、お前たちへの『武器』である。心せよ」


 そのままトロークの首を地に置くと、脳天に剣を打ち立てる。


 すると青天の霹靂の中で何故か宙から雷鳴が起き、突き立てた剣に光と共に落雷して、トロークの頭は脳漿を飛ばして散り散りになった。


「これが女神モルニティの意思である!」


 リムと匹敵する力をもつ王子による宣誓は圧倒的で、リムを家畜以下だとおもいこんでいた騎士へのいい戒めとなったのだ。


 この原因である隊長を持ったアーディーロが、降ってわいた隊長の座に、地面に這つくばりクルイークを麗しと見上げている。


 それをきっかけにガーランド王国軍が統一され、さらに進軍へと向かった。




 

 


 

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