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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第九章 妖精の王
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妖精の王5

 女神モルニティを旗印にしたガーランド王国軍は、道すがら各地の『お館様』を惨殺し白のリムを奪い、それを馬車に押し込むと更に南下していく。


「奈落の前で夜営する。幕を張りリムを入れろ」


 クルイークは馬の手綱を渡し王国騎士の幕屋に入ると、黒のリムにマントを脱ぐように告げた。


 今回の同行のリムはクルイーロにノートンと名付けられた子どもで、ローブを脱ぐと短い栗色の髪の姿ががあらわになる。


「食事が来るまで、奥でゆっくりしているといい。時期に幕屋で作戦会議になる」


「はい」


 セントラルの楽園騎士団が南下する時に、ガーランド王国遊撃隊が連れ去ったリムだが、どうやら前にも主がいたらしく、騎士に従うのに慣れてはいるものの、戦いの渦中を知らないのかリムの戦い方に動揺をしていた。


「お前は光伝令に特化した黒リムだと聞いている。前線には出ることはあるまい」


 虫の布を敷き詰めた床に座るリムが小さく頷き、クルイークはちらりと八歳のリムを見下ろす。

 とはいえ、悲しいかな、彼もまた『盾』であり、『剣』となるかも知れない。


 考えても仕方がないことだ、彼らは道具だ。


 クルイークは白地に金の刺繍を施した上着を脱ぎ、ブラウスの上に巻いていた胸当てをはずし息を吐いた。


 もう少し手前ならばどこそかの屋敷辺りを接収し、くつろげたのにと我ながら苦笑する。


「失礼します、クルイーク様。奈落の迂回路ですが…」


 幕屋に次々と騎士長が入って来て、広くはない幕屋に机を出すと一杯になった。


 六人の騎士長に騎士が三人にそこに歩兵が二十人程度の軍は、まだ未熟だが騎士すら持たないお気楽な領土での貪欲な殺戮に適当だ。


「そもそも迂回しては白の楽園攻略に遅れをとります。前面強行突破が一番よろしいかと」


「そもそも楽園騎士団は弱体化している。我らガーランド王国軍の敵ではありません」


 笑いが起こるが、クルイークは微かに笑う。


「動きとしましては…」


 机の上の戦略地図におかれた目印が幾つも移動していき、分散隊の岩落しなど騎士長と話し合うが、一人足りないのに気づいたのは、クルイークの母方の血筋のカロロームだった。


「クルイーク様、トロークが来ていません」


 今回の戦いで活躍を期待される南寄りの豊かな土地をもつトロークの家は、父ガイルの遠い親族の三男だ。


 六人の騎士の出自が父母の血筋で固められたのは、モルニティを神格化する故であり、その人物そのものは多少目をつぶっていた。


 粗野で粗暴は攻撃力にはなるが、下半身にだらしなく花売りに入れあげた噂も聞いている。


「トロークのテントに誰か…」


とクルイークが呟いた時だ。


「伝令。トローク隊のリムが死にました」


 幕屋外からひそりと声がし、夕暮れの幕を開き膝をつく騎士をクルイークは見下ろした。


「死因は…なんだ…」


 クルイークは手には大振りな剣を携え、なにも言えずにうつむく、トローク隊副官の若い首に剣の刃を光らせる。


「お前は…母の弟の庶子だな。確かアーディーロ…。モルニティ教の信者として最初から名を連ねていた」 


 副官はかなり、恐縮したように頭を下げ、


「は、はい。叔母上には…いえ…モルニティ様には生前、よく声をかけていただきました」


と語るが、今はそんなときではなかった。


「テントに案内をしろ」


 胸当てを外したままのクルイークは、アーディーロに着いていきそのテントに入る。


 テントの敷物からふわりと臭う血と精液の香り、死んで運び出される寸前のリムは、昨日クルイーロが名を下ろした五歳の黒のリムだ。


 動かないリムの身体には黒のローブが掛けられていたが、それを開くまでもなくトロークが何をしたかは明白だった。


「トローク…貴様は…クルイーロを侮辱したのも同じだ…」


 鞘に決して納まらない巨大な剣の表面が、雷のスパークをまとい始め、バチバチと音鳴りをし始める。


「ひっ…」


 今まで知らぬそぶりをしていた巨漢が、剣の尋常ではならざらる様子に怯えた。


「黒のリムなんて、使い捨ても同然。家畜以下だろーが、クルイーク様よぉ!」

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