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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第九章 妖精の王
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妖精の王4

 クルイークとクルイーロの申し出はあっさりと、父王に受理された。


 神になった妻モルニティを落雷で失ったガイルは、虚弱な体質ではあったが、辺境という知恵の実をかじった者でもある。


 幼い頃から聞いてきた辺境という世界の話とこの世界の落差は、モルニティを失った瞬間に歴然とした。


 東のイア川に流れてくる辺境人は死人が多いが、たまに生きて流される者もいて、その壮年の男は酒を無心し、自らを辺境の言葉で『ヤブイシャ』と名乗った。


 幸い領地では葡萄がよく実り、葡萄酒をふんだんに飲ませてやると、覚えたての片言でガイルに語り泣いていたことを覚えている。


『救えなかった』


 ヤブイシャが何度も繰り返し、ガイルはモルニティを見送りながら、玄関先で話を聞いていた時に、産屋へ入る瞬間のモルニティに折からの悪天候の為に雷が降りそぞぎ、鋭い雷鳴とともに、身重のモルニティが倒れた。


「どけ!」


 医者を呼ぶ前にヤブイシャがまるで、医術の心得があるかのように、胸を押し続け息をしないことを確認すると、館医者が諦めた表情をしたが、


「子ども、出す」


と、息はしていないがまだ温かいモルニティの腹を触ったのだ。


 慌てる医者を振り切り消毒した小刀を手にしたヤブイシャが、頭部が焼け焦げ白い目を空虚に見開いたモルニティの腹部にすべらかすように撫でる。


 薄い幕を横に切り、ポカリと浮かび上がった一人が泣き出し、また、二人目が気づいて顔を持ち上げる奇蹟。


 二人を同時に取り上げたヤブイシャが、泣きながら


「ニホンなら救えた…」


と告げ、双子の処置をして、妻の腹を丁寧に綴じたのを思い出す。


 辺境ならば…ヤブイシャのいたニホンならば、という言葉が頭に残った。


 双子は忌むべきとして片方を亡きものにする慣例をやめ、領地も親族で統治を固めた。


 モルニティの死後より、動き出した『王国』の概念は、やがてガイルの信念となり、辺境の風を欲し辺境伽の話を逐一聞いた。


 もはや、気は熟したのだ。





「父上、産屋をモルニティ神殿にする件ですが…」


「クルイーロか。順調か?」


「はい」


 窓から見える悲しみの産屋が、喜びにかわる。


「騎士に下げたお前の黒のリムは、もうじき集まる。この謁見の間を使うといい」


「ありがとうございます。それで…」


 その時の赤ん坊は成人を越え、モルニティは生きて産むことは叶わなかったが、あたらに神殿の女神となる。


 モルニティをかたどった像は既に運び込まれ、瑠璃色の小さな城のような様態の美しい小さな産屋である建物は、既に神殿というスペースとなりモルニティが神として甦るのだ。


「全てのリムを回収し、寄進豊かな者へ下げ渡す件だな」


 モルニティ教の教義は『死と再生』とした。


 あまり興味はなかったが、お題目などというのは必要になるらしい。


 その点では、ループスは役に立ってくれている。


「黒のリムも白のリムも王命で集めている。私の考えを超えたお前たちの世界を求めるがいい」


 既に王国は動き出していた。


 クルイークは王国軍を率いて進軍し、中央から南の領地を召し上げている。


 もはや、後戻りはできない。


 ガイルの理想は、モルニティ教を苗床に豊かな世界を構築することだった。

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