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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第九章 妖精の王
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妖精の王3

 舌足らずにも懸命に告げたリムを連れて階下に向かう二人を見送り、メイドが湯桶を片付け下がったあと、クルイークはクルイーロに告げた。


「父上に南方に(レギオ)を向かわせるよう進言しようと考えている。僕はその指揮を取りたい。父上に会う前にクルイーロに考えを話したくて」


「そうか、僕もクルイークに話がしたかったんだ。聞いてくれないか?座って。お茶を入れよう」


「ああ」


 成人して二年になるが、雷に打たれて死んだ母の腹から同時に切り開かれ出された双子の片割れクルイーロは、リムという人と自然の端境にいる妖精に無条件で愛される性質を持つ。


 白磁のカップの琥珀色の香りを楽しんでから、口につけると微かに柔らかな甘味が広がった。


「ん?甘水…」


「数滴だよ。二十日花の儀式、お疲れ様」


 ああ…だからかと、クルイークは香茶を飲む。


「ジュリアス王国のテオをとらえ損ねたのは、痛手だったね」


 クルイーロが青の耳飾りを弄りながら、同じ顔の片割れに話した。


「あれを愛でることが出来れば、クルイークのリムにして、銀の聖騎士を配下につけられたのに」


 それどころか、酔狂にもリムであるテオを国王としたジュリアス王国すらも召し上げることが可能だったのに。


「『疾風のガゼル』…二つ名が泣く。まあ、あそこはしばらくあのままにしておこう。とりあえず南に進軍だ」


 騎馬隊二十、歩兵百の王国軍を考えていて、南方の領地への支配を開始していく予定だ。


「その事なんだが、白の楽園を丸ごとこちらへ持ってきて欲しい。グランツや世話役も含めて、生きたままで」


「え?リムだけではなくてか?」


 クルイークはクルイーロが机に置いていた箱をソファに持ってきて、ゆっくりと開いた。


「ああ、リムを利用する。支配の根幹は、恐怖と習慣と宗教。だったら、宗教を作り出せばいい」


 白地に金の染め粉で周囲を唐草に包み、真ん中に鳥の羽根を背に生やした女の半裸体があり、右手に剣を下げ、左手で花を持つ姿が赤に染め抜かれている。


 それは昔いた辺境人で『アーティスト』と語っていた老人が辺境のとある国の立像を模して作った彫刻に似ていた。


 彫刻をしている間は、広間の明るいところにいられるからと、丁寧に時間をかけて造り出し、造り終わると迷惑にも首を括った彼の代物だが、首のないその羽根をもつ裸婦は、母でありながらまるで双子を死んでも守る神々しさを醸し出し、父王も気に入って謁見の間に置き愛でている。


「雷を受けながらもお腹の中の僕らを守ってくれた母モルニティを女神とし、モルニティ教を立ち上げる」


 翼はクルイーロ、剣はクルイーク、そして花はリム…になり得る美しい姿だ。


「楽園を…支配するのか、クルイーロが」


「いや、リムを支配し、全ての国を支配していくんだ。さあ、着替えを手伝ってくれないか?僕も父上に会いに行く」


 クルイークはクルイーロの着替えを差し出しながら、ゾクゾクとした震えが足元から上がってくるのを感じていた。


 これは高揚感だ…。


 剣による支配と、宗教による支配。


 今まで辺境人の伽話を聞いてきたが、あの若い辺境伽の話はただの話ではなく、まるで学びのひとつのようで、まだ学びの為に話を聞きたいと思っていたのに、処分されたとは残念だ。


 冷静なループスがどうしてあっさりと処分したのか不思議だったが、父王の指示かもしれないとクルイークは思考を閉じた。


 ループスのすることには間違いがない。


 そして、ここガーランドから、この閉塞した閉鎖されたような鄙びた世界が変わり、新しい歴史が作られていく。


 革命だ…世界を革命していくのだ。


「僕たちはこの世界を支配する」


 クルイーロが白に金の繍のある礼服を着て、大きな赤の玉をあしらったブローチを真ん中につけた。


 それはクルイークの青と対になり、クルイークは剣を下げていたが、クルイーロは肩からリムの白い虫の布のマントを翻す。


「さあ、父上が待っている」


 女神の落とし児の美しい双子が、扉から放たれた。

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