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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第九章 妖精の王
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妖精の王2

 ふとクルイークは地下牢が空になっているのに気づき、ループスに振り返った。


「なにか?」


辺境伽(へんきょうとぎ)はどうした?」


 地下牢といっても下層生活居住の地であり、専ら人目についてはいけない辺境人を住まわせて置くところだ。


 アギト川の支流であるイア川には、たまに辺境からの遺物が流れてくる。


 不思議なものは、町市場で置物として売られ、遺体は川縁に埋葬した。


 何を喋っているか分からないし、老人や気触れた者も多く自死をしてしまう者もいたが、半年ほど前に流れてきた子どもは、知識のよくついており言葉を早くに覚え、 この地下に住まわせ、辺境話を王に語る『辺境伽(へんきょうとぎ)』として王の余暇に語らせたのだ。


「処分致しました。もはや語らせることもないでしょうし」


 クルイークは不思議そうに、ループスに尋ねた。


「お前が地下によく訪ねていたと聞いていたが?てっきり色子にでもするのかと思っていた」


「まさか…。王がお気に召した夜話以外の話を聞いていたまでのことです」


「そうなのか?」


「はい」


 実際に地下牢の前で、椅子に腰かけたループスが牢の格子越しになにやら辺境人に話し込んでいたのを、クルイークもクルイーロと一緒に見たことがある。


 既に早い段階から『ガーランド王国』として、自己領地を密かに拡大していた父は、更に領土を効率的に拡大していく方法を、頑なに拒む辺境伽を無理矢理喋らせていた。



 力による侵略と、力による絶対的支配…恐怖と習慣とそして宗教というエポック。



 それは双子をも魅了したが、ただ、宗教だけはよく分からなかった。


 

 辺境人が言うには、神とは人の力や自然の力を超えた存在を中心とする観念であり、宗教とらその観念体系にもとづく教義、儀礼、施設、組織などをそなえた社会集団のことらしいが、そうなるとリムが神になってしまう。


 だからこそ クルイークとクルイーロの体質が役にたっていて、宗教ではないがそこそこの神格化を果たしており、ガーランド王国の基盤の一つにもなっていた。


「何を聞いていたのだ?」


 塔を上がりながら二階で繋がる本城へ向かうクルイークは、少し後ろを歩くループスに声をかける。


「辺境のすべての歴史です。どのように伝わっているのか…と」


「ふうん…」


 大して興味もなく聞き流した。


 ループスは父王ガイルの部下であり、王子であるクルイークは何も言うことはできない。


 城の廊下ではクルイークが通ると使用人や騎士が軽く礼を取り、騎士団が着々と集まっていて、城の前庭が賑やかかった。


 二階の一番暖かい大きな部屋がクルイーロの『妖精の間』がある。


「クルイーロ」


 扉の丸金具を引いて叩くと、同じ顔だが美しい青の耳飾りを埋め込んだ双子が、虫の白のガウンを羽織り扉を開いた。


 大きな部屋は美しい白の布で飾られ、部屋の真ん中で湯船に浸かる恍惚の表情の少年リムを洗うメイドの動きは滑らかだ。


 湯から上げ布で拭かれるリムは、うっとりとクルイーロを見上げている。


 黒の楽園から持ち帰ったリムの一人で、すでに五歳になっていたから調教したのだろう。


「クルイーク、仕上がった。エランだ。エラン、クルイーロに、挨拶を」


「はい、マスターアーク」


 エランと名付けられた全裸のリムはうっとりと頷き、クルイーロに膝をつきリム最大級の礼を取った。


「クルイーロ様、エランです。よろしくお願いいたします」


 ハシバミ色の髪を肩口で揃えたエランが、クルイーロを正座して見上げ、クルイーロは頷く。


「お前にはトローク隊に配属しようかな」


「行ってよく働いておいで。仮のマスターに従いなさい、エラン」


「はい、マスター」


 仮のマスターとなる騎士のトロークは、やや雑な男なのが気にかかったが、戦いの時だ。


「お前の仮のマスターを紹介しよう。ループス、連れて行ってくれ」


「は」



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