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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第九章 妖精の王
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妖精の王1

 アギト川の支流イア川は、最初は細い流れではあるが、あちこちから水が集まり河川としてたゆとうものになり、東の大地を潤している。


 しかし河川がありながら何故か痩せた大地には、リムが不可欠で、ガーランド王国は砂金の流出が続いていた。


 辺境人に設計させた白亜の石壁に青翡翠の屋根の城は、美しい円柱の塔を持ち、ガーランド王国王子クルイークは、リムが幾人も命を散らした広大な麦畑を幸せそうに眺めている。


 金の癖毛をアンバランスに左右に流し、それが風に流され手入れされた指先でふわりと耳にかけた。


 耳には真っ赤な玉の飾りが嵌め込まれ、彼の美しさを際立たせている。


「美しい国だと思わないか、ループス。冴え冴えとして、潔い。まるでクルイーロのようだ」


 やや後方に控える青銀髪を柔らかく巻いた青年が、色素の薄い瞳を歪め、静かにしかし柔らかく微笑んだ。


「それでは、あなた様も同じです」


「ん?ああ…」


 クルイークが真っ青な軍服に金の肩飾りを揺らして、


「双子だからか」


と笑う。


「はい。クルイーク様、王の牙よ…お時間です」


 青銀の瞳が頷き、クルイークは見晴らしのよい最上の塔から、黒の肩マントを翻しゆっくりと階段を降りていき、暗い世界に誘われてた。


「ループス、今回は何人だ?」


 二十日花(はつかばな)の芽吹きの日の仕事は、冷たく重い。


「一名です」


 白い石床は暗闇に溶け込み、今から地下で行われる儀式を覆い隠すかのようだ。


「『王の牙』…お願いいたします」


 壁にかけられた篝火に映し出された男のリムは、ジュリアス王国侵略に尽力をし、瀕死の状態で床に横たわっている。


 クルイーロに『シャール』と名付けられた美しいリムの身体はどす黒く変色し手足の皮は剥けて、赤い肉と体液を滲み出し床を濡らしていた。


「生きるか死ぬかは、お前次第だ」


 とは言え、既に意識は混濁し、このリムの生死を看取るのは…ループスだけ。


 クルイークは腰に下げていた金の美しい装飾を施した細い剣を抜くと、浅い息をしているシャルルの胸元の星の光の煌めきの中心を貫いた。


「うっ…はっ…はっ…はっ…はっ…は………」


 肉体の痙攣と共に薄く赤く光っていたリムの証が、そのまま儚く消えて、シャルルの浅い息も止まり、地下室に静寂が訪れ、クルイークは刃を引き抜く。


「……」


 血が溢れ体液と混ざり、黒く変色した化膿だらけの皮膚は生命活動を放棄した。


「残念なことです…貴重な財産を」


 ループスが言葉を掛けるとクルイークは、小さく息を漏らす。


 黒のリムの再生…。


 リムの刻印を破壊し解放することにより、余命を騎士とする。


 リム上がりの騎士は、リム扱いにも長けているし、なによりリムの攻撃を読む、『即戦力』の騎士だ。


 ただし、生存率半分の過酷な儀式は、リムに拒否権はなく無情利に行われて行く。


 しかし、『シャール』は、『人もどき』にはなれず、成人前の命を終えた。


「御足労をお掛けしました」


「クルイーロの仕事を増やしてしまったな。後の処理は任せる」


「は」


 ループスが頭を下げるとクルイークは頷いて、剣の血を払い鞘に入れた。


 今度の南方進撃に対して父を訪問するか、クルイーロを訪問するか悩んだが、クルイーロに会う決心をし、クルイークはループスに告げる。


「『王の翼』に会う」

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