フーパの屋敷にて8
改稿済
刺繍した豪華な金糸のカバーが掛かるソファに居心地悪く腰かけた俺は、じっと見つめるカミュをちらりと見た。
うう…ソファーカバーがちくちくする。
透き通るような肌に銀の長い髪を横で束ねた美丈夫は、青銀の瞳で冷たく感じられるが、口調と銀縁の丸眼鏡と喋るときに綻ぶ表情でじいっと見てきて、俺はこういうタイプは少し苦手だ。
何を考えているか分からない。
「本当にあなたは辺境人なのですか?どう見てもリム同士が掛け合わさってできた右目が濁った欠損リムなのですが」
「中身はな。外見はそこで死んでる」
カミュが両手を組んで、ふー…と息を吐いた。
「そのリムの肉体はファナと言うそうですが、魂は辺境人の鈴木重吾さんと言うわけですが。魂だけが死んだリムに乗り移った辺境人は初めてでして…しかも濁りあり…しかもあなたと契約してしまっているようです」
「ちょっと待て。なにがなにやら」
俺の言葉にカミュも
「まあまあ、ファナ的重吾さん。そう、うん、そうなのです」
と頷く。
「まずは、このリムの子どもはなんらかの理由でリム同士が一緒に暮らし、とても低い確率だが子どもを成した落とし子です。その結果が、瞳に現れる『黒い澱み』ただ、能力は未知数。ハイポメラニックなリムになるから、非常に厄介で主を選びます」
俺は首をかしげ、今までのことを思い起こした。
年齢の差はあれども俺が見たリムは、女の子ばかりだったはずだ。
「おい、待て、カミュさんや。リムは女の子同士で子どもを作ることが出来るのか?」
カミュが青銀の瞳を真ん丸にして、
「ふ…」
と、震え声を出した。
「ふ?」
「ふあっ…はははははは…、ファナ的重吾さん、素敵な発想だね!ふ…ははははっ」
腹を抱えて笑う副隊長は、再び思い出し笑いの如く
「ぶふっ…」
と肩を揺らして吹き出しており、どうやら見当違いな発言をしたらしく、俺は真っ赤になる。
「ふ…ははは。知らなかったんですね、ファナ的重吾さん。女の子同士で愛し合うリムを見るのは、それはそれで貴族的な背徳な楽しみがありそうだけど…。ミロス、ミロスおいで」
部屋の隅の扉から小柄な人物が現れて俺は
「黒のフードローブ…」
と呟いた。
「そう、黒のフードローブの中は…」
カミュがフードローブを脱ぐように指示すると、前の留め具に手をかけ脱ぎ落とす。
「黒の楽園のリムです。光と闇を操るリムは、人に着く。ミロスはわたしのリムなのです」
小さな栗色の髪の美しいリムの下半身には、死体の俺と同じものが付いていて、
「はじめまして」
と、少年らしい声で挨拶をするのを聞いて驚いた。
「二十歳程度で寿命を全うするリムは、十三歳辺りで成熟します。リム同士で番い万が一子をなした場合、その二人の命と能力は全て失われてしまいますから、基本私たちはそんなことはさせず使役します」
人がリムを妖精と称しヒトではなく物として使役しているのは分かったが、釈然としない。
「能力があるのに、寿命が短いからヒト扱いされないのか?」
「さあ…どうなのでしょうか。昔からリムはヒト族に仕えていましたし」
カミュが天を仰ぎ見て、俺は俺の立場を考えていた。
「胸の刻印が輝いているということは、その死体の重吾さんがマスターであり、重吾さんの意識はそのリムの中にあるのですから、あなたは辺境人でありながらリムとなります」
「でもこの胸の刻印、変だろう?」
「うん、すごく変だね」
「うわ、カミュさん、即答かよ」
リムの証である鎖骨の間の模様は、女の子は花のような五つの丸があり、今見た男の子のリムは、ひし形が五つあり、星のように見えるのだ。
ファナのリムは花の形にひし形の放射があり、非常に変わっている。
「ファナ的重吾さん、不安定な力要素以外に胸のリムは貴族あたりのコレクションになりそうです。白の楽園に行ってください。そこでひっそり生きる事をおすすめします」
カミュが白のフードポンチョコートと、踝丈の布靴を差し出してきた。
「女のリム…白のリムと言いますが、その正装が白いポンチョと布靴です。肌の弱いリムには虫の布しか受け付けません」
すっぽんぽん回避だが、素肌に白いポンチョを着るだけかよと手に持った瞬間俺は目を剥く。