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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
閑話 王の料理長
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王の料理長

改稿済

 荷物が多いとジューゴがぶちぶち言うから、楽園騎士団居酒飯屋『バニー』をたたんで来たと、ラビットは晴天の空をそら眺めながら呟く。


 ラビットは楽園騎士団大隊長としても働き、料理長としても騎士団を支えていたのだが、全権をカミュにゆだねて兄ジュリアスの元に戻ろうと考えていたのだ。


「お嬢ちゃんたちも、重吾のリムなあ…」


 三列目シートで荷物と共に座るラビットに、二列目のティータが振り向いて、ぺこりと頭を下げる。


 運転席のフードの兎耳と二列目の猫耳が、揺れてとても可愛らしい。


「ティータよ。よろしく頼むわ」


 助手席の死体の重吾よりも大人びて見える西の生まれのハイムが、いきなり振り向いた。


「なんで、ラビットにはフルネームなんだよ、ティ」


「ラビット様はファナ様の命の恩人だもの、当然よ」 


「えーー!」


 なかなかに賑やかい車内に、ラビットがほほえましく思っていると、


「お前らうるさ…おっ…わあああ!」


ランクルの急ブレーキにファナが雄叫び、ラビットは持ち込んだ鍋で胸をしたたかに打ち、微かな振動を感じた。


「なんだあ?」


 ハイムとラビットで外に出ると、グランディア王国に向かう道で山鳥を轢いたのか傷だらけの山鳥を先に飛び出したファナが情けない顔で見せてくる。


「おう、山鳥じゃないか。素早い鳥だから、なかなか捕まらなくてな。結構旨いぞ。焼くか、煮るか?」


 兎並みの大きさの山鳥は尾が長く緑赤のまだらの羽根を持ち、羽根の真ん中には鋭い鉤爪が凶器になるが、今はだらりと下がりその尖りを発揮できないでいた。


 ファナがラビットの言葉に、きらりと瞳を鋭くする。


「焼く…煮る…?鳥は揚げるだろ!唐揚げだあ!」




 どう見ても大きな小屋なのだがそこがグランディア王国の根幹であり、ファナの居場所になっているのだなあと、ラビットは思わず苦笑した。


 なぜならばクサカの小屋に、よく似ていたからだ。


 元々北の楽園に配属された騎士だったラビットはグランツとも交流があり、クサカにも兄ジュリアスと共によく学んだ。


 何かにつけて小器用に生きてきたラビットだが、新たなる局面にかなりの緊張をしている。


『カラアゲ』


 そいつが、どうにも厄介だ。


 多めの油で揚げるのだという。


 子どものリムにしては知性を持ち合わせているように見える額の広いティータが、赤い箱の面を出してきて、キッチンダイニングどころかリビングも兼ねる玄関直通の場所で、その画面をラビットは見た。


『油の薄衣揚げ』

 

 それが『カラアゲ』らしい。


 山鳥は血を抜いて置き、ももの部分を一口大にして、塩と胡椒を降った。


「鍋にたっぷりの油な…」


「うん、いっぱいだわ」


 菜種油を勿体無くも鍋にたぷたぷと入れると、火にかけ木の棒から泡が勢いよくたてば適温らしい。 


 小麦粉をまぶした山鳥を、鍋の隅を使い油が跳ねないようにそっと入れてやると、じゃっ…と小気味良い油の返事を返してきた。


「んで、肉の泡が小さい粒になったら、油を切り引き上げるのな」


「ちゃんと浮かんでからよ」


「成る程な」


 うまそうな匂いを放ち、黄金色になった『カラアゲ』にファナがよだれを垂らさんばかりに、近寄ってくる。  


「…いい匂い…」 


「裸のレディたちは、危ないから。ほれ、ファナちゃん、出来た」


 テーブルを囲む面々は、大きな団子のようになった山鳥の唐揚げに


「旨いかな…」


と動揺しつつも口に入れ、ラビットも初めての油で揚げる物をほうばった。


 しゃお…と熱く固くなった表面から染みでる汁は肉の濃厚な締まった味で、口の中一杯に甘みと旨味は一瞬皆で目を見合わせる。


「な…んだよ。めっちゃ…旨い!」


 ファナが二つ目を口に入れると、ハイムが秘蔵の甘水を出してきたが、ラビットは大荷物の中から大荷物の所以、麦酒樽を掘り出して来た。


「甘水は果実酒だろ?やっぱりここは麦酒だな。ハイム、飲め!」


「おお!初麦酒だ!ありがとう、料理長」


 ハイムとラビットは杯を交わして行くが、ふと、ラビットはファナに尋ねる。


「ファナちゃん、本当に王様かな?」


 ティータ…と、なぜか赤い箱にまで『カラアゲ』とはなんたるかを語っていたファナが、


風穴(かざあな)管理とかでやむを得ず…」


と言葉を濁す。


「クサカ先生の予言通りになっちまったなあ」


「しかたねえだろーが、日下博士の…ファナのじーさんの遺言だ」


 成る程、あの頃のファナではなく今のファナが、予言の王になる器だったのかと、しみじみ笑った。

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