廻る歯車10
改稿済
「くそ…」
腹立たしげにブーツを鳴らすテオに、
「ドンマイ、ジュリアス王」
と俺が言うと、
「うるさい。本当に…どこも痛くないのか?」
と切り替えす。
「あ、ああ」
拍子抜けした俺が慌てて頷くが、どうにもテオが納得していない様子だ。
ファナの裸体をぽんと誰彼に見せる気はさらさらなく、
「信用ないなあ…」
と、俺はテオを別部屋に連れていき、虫の布天蓋付きの寝台に入り天蓋を降ろし、ポンチョを脱いだ。
俺がポンチョを脱ぐと、テオが変色した箇所を探して髪を掻き分けたりするが、
「痩せすぎなだな…」
の感想のみで、何も見つかりはしなかった。
「ファナ、着ていい。済まない…恥を掻かせた」
「男同士だ、気にするな」
「外見は女のリムだ……馬鹿」
テオが申し訳なさそうにポンチョを手渡し、声をかけてきた。
本来、主つきのリムは人前では自然体にはならないし、主にしか見せない羞恥心を持ち合わせなくてはならず、それは同じリムで合っても同じで、命令だからポンチョのリボンを外した俺に頭を下げた。
そんな矜持はさらさらねえよ、俺は。
「あー…その…テオ様…腕…痛くないですか?」
テオは変色した手首から肘までを見せてくれ、まだ刺すように痛むらしい穢れに触れる。
「うっ…。まあ、平気だ」
コートから引っ込める腕は酷く青くて、俺は気の毒になった。
「痛いだろーが。ま、つまりだ、間接的に関われば、リムは強烈なカウンターアタックになるってやつだ。テオ、利用しろ。シャルルも、騎士団も、テオはに従うからな」
「間接的に…」
「ああ。そして何より、相手との距離を取れ。その美しい金の剣はあくまで飾りで、祭りの中で鼓舞するもんくらいに考えろ」
「銀と金の剣舞か…それは豊穣祭で良いかもしれない。大地の実りを称える剣舞は、シャルルが一人でしている…そうだな、俺は王だ…そうだな…」
テオは微笑みながら自分の腕の穢れを撫でると、部屋を出てシャルルの胸に飛び込み、シャルルの唇を柔らかく塞いだ。
おいおい、新婚だなあ。
「テオ…?」
「俺が浅はかだった。この身体はあと五年絶対に穢しはしない。シャルル、俺を支えてくれ」
テオを抱き締め愛し支えるシャルルは、当たり前だと言わんばかりに抱き返して来て、それはテオを王として奮い立たせる。
「いいなあ…」
ハイムがちらりとティータを見て呟くのは理解できたが、当のティータは尻から得られるデータを分析していて、シャルルの政務室には借り物の王国騎士団の制服を脱ぎ捨てたラビットが、肩が凝ったと回しながら入って来た。
「ファナちゃん、とっとと、お前の国に連れて行ってくれ。ここはちと肩が凝るなあ、ここは。シャルル、大丈夫だ、二十日花の真ん中で必ず指南に来る」
ラビットの言葉に、騎士団の面々が唸るような雄叫びを上げる。
「ああ、砂金ははずむ」
シャルルは微笑みながら頷いて、それから、
「頼む、師匠。ガーランド王国から国を守らなければならないからな。だが、不気味だな…ガーランド王国の、子細が見えてこない」
と、苦々しそうに話した。
「南駐屯地…遊撃隊…多分、奇襲されたわ」
ティータが逃げていった賊たちの喋り声を聞いていた尻が送っている音声を解読したノーパソを見て、部屋の皆に告げる。
「えっ…マクファーレンとラーンスは?」
俺の慌てぶりに、
「寝返った騎士もいるらしい…」
「寝返るやつらか!あいつらが?」
「ファナ様、私にはわからないわ。真実だけ、伝えただけ」
「あ…ごめん…。悪い、ティータ」
「ええ、大丈夫よ。続けるわ」
データを集め続けているティータは確実に収集を果たし、南方の楽園騎士団南駐屯地陥落のことを噂している賊の話を尻から拾い、次々に俺たちに伝え続けた。